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息を止めて書いた

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息を止めて書いた、勢いだけの文章。リズム以外何もない。
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2020年5月の記事一覧

性行為の後で性器を拭く瞬間の情けなさ

谷崎潤一郎の小説に、一人の男が道で転ぶだけの話がある。転んだ男は、とてつもない情けなさを感じる。どうせ転ぶなら誰かに見てもらっていた方がよかったような気もする。男は堂々巡りの逡巡に駆られる。情けなさを描き切った短編小説の傑作だ。 人間が生きる上で、「情けなさ」はたぶん本質的な問題の一つだ。常にかっこよくいたい、きれいでいたい、クールでいたいと思っても、どうせ生きてたら情けない瞬間が次々やってくる。 では、一人の人間が生活するうえで一番情けない瞬間とはいつなのだろうか。僕は

ロフトに課金し松重豊さんと生きる暮らし

好きな概念が三つある。「自由」「美」「ロフトで1000円か2000円」だ。 この中でもダントツで好きなのは「ロフトで1000円か2000円」だ。「ロフトで1000円か2000円」のものに囲まれるなら、「自由」と「美」は気にしない。どうせ後からついてくる。 「ロフトで1000円か2000円」とは、ほんの少しグレードの高い日用品を意味する。耳かき、爪切り、皿、下敷き、クリップ、ピーラー、しおり、コースター、水筒。その辺の、わりと百均で済んでしまうもの。あまりに些末で、生活の中

相田みつをに自我を食い破られたくない

相田みつをとは小学生のときにはじめて出会った。それから今日に至るまで、彼はずっと僕の敵だ。なんで敵かって言ったら、怖いからだ。相田みつをが怖い。怖すぎる。 なんで怖いかって言ったら、超強いからだ。相田みつをは強すぎる。世代を全く選ばない国民的スタンダード。名言の一つ一つに誰もがつい感心させられる。たぶん日本語を使う人は全員漏れなく、相田みつをの名言から自分の人生を考えたことがある。これ、とんでもないことだろ。 身の回りを見てみろ。寺に行ったことがない奴はいない。神社に行っ

インド人にハヤシライスを食べさせろ

テレビなりブロガーなりYouTuberなりの「インド人に日本のカレーを食べさせてみた」系企画が、僕はあんまり好きじゃない。 いや、面白いよ。何なら楽しく見ちゃう。でも毎度楽しくなったあとで、あんまり好きじゃないなって思う。 あのインド人、日本のカレーを食べた後、どうせ「これはカレーじゃない」って言うよな。あのセリフがひっかかるんだ。予定調和すぎるんだ。水戸黄門だよ。眠りの小五郎だよ。紅白の小林幸子の巨大衣装だよ。それくらい予定調和だ。 もちろん、予定調和それ自体が悪いわ

「現代文が一番得意」だった人間の末路

本当は英語の方が得意だったかもしれない。数学もやりこんだ。他の科目に比べて傑出していたかと言われると怪しい。 それでも僕は「現代文が一番得意」と言ってきた。 なぜなら、一番かっこいいからだ。この感覚がまず分からない人は帰ってくれ。ここからはこの話しかしない。 対人コミュニケーションにおいて、「得意科目なんだった?」系の話は、強力な人間の属性分けだ。キャラ付けだ。何の科目が得意と示すかで、どんな奴と思われるか、そのイメージがちょっと決まってしまう。 そしてその模範解答は

巨根と孔子

学校で習う科目のうち、一番好きなのは国語だった。好きが高じて、いつの間にかかなり得意になっていた。全国一位を取ったこともある。現代文、古文、漢文、どれも好きだったが、大人になり漢文とは疎遠になった。 原因は明確で、漢文だけほとんど勉強しなかったせいだ。読み方のルールだけは覚えたよ。そこはみんなもやろう。でも、文章をちゃんと読んだ記憶がほとんどない。 僕にとって高校漢文の大部分は、漢字の意味を組み合わせる推理ゲームでしかなかった。それで点が取れてしまうんだから模試の問題も悪

やよい軒とニーチェ

「おかわり自由」をテーマに文章を書こうと思うくらいには「おかわり自由」が好きだ。 絶対もっと良いテーマがあるような気もする。おかわり自由はお茶の間とも若者の流行りともかけ離れている。ずっと流行っている割に、みんなが話題にする言葉ではない。 いま茶の間で人気の人と言えば、なんだろう。まだ米津玄師か。ギリおかわり自由と関係ありそうな名前だな。米だし。僕はviviが一番好きだ。あんなに良い曲はないよ。悲しい別れの歌だ。人間関係もおかわり自由だったらよかったのにな。 19歳。僕