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楽園 4

ママに頼まれて、マーケットで買い物をする。

シリアル、オートミール、ミルク…アボガド、バナナ…

ベジタリアンの人って初めて会ったけど、本当にこんなシンプルな食生活なんだ…不思議な感覚になる。

私は会計を済ませると、荷物を車の後部座席に置いた。

夕方には、彼のコンドミニアムに行く事になっていた。それまでに心を落ち着かせないと。

私は軽くシャワーを浴びて、濡れた髪を乾かす。

何て言おう…軽く挨拶して、それから世間話を少しして…それだけなのにとても緊張していた。

子どもっぽく思われたくなくて、いつもより大人っぽくメイクをする。
持っているジュエリーの中で一番高いピアスをさりげなく一つだけ着けた。

夕暮れが辺りを包む頃、コンドミニアムに近づくと2階の窓からピアノの音色が聴こえた。
彼が弾いているのだろう。
あの風貌からは想像出来ないほどに、繊細で優しい音色が聴こえる。

チャイムを鳴らすと、暫くして彼がドアを開けた。

「こんばんは」

たったその一言なのに、胸が熱くなるのは心地よいミドルボイスのせいなのかもしれない。

「ママに頼まれた食材を届けに来たの。これで合ってるかな?見て下さい。」
動揺を悟られないように、一気に話しかけた。

「うん。ありがとう。大丈夫そうだよ」

白いシャツにカーキのカーゴパンツ。
髭は少し伸びて、気怠るそうだが以前よりはずっと顔色がいい。
腕まくりをしたその腕に、うっすらと血管が浮き出ていた。

「少しは休めた?顔色いいみたいだね。
ピアノ、あなたが弾いてたの?お仕事か何か?」

少し困ったような顔をした後、
「ううん。趣味だよ。ただの趣味」と彼は答えた。

それから、私達は少しだけ立ち話をし別れた。
一度だけ振り返ると、見送ってくれているのか彼はまだそこにいた。

私はそのまま帰る事がどうしてもできなかった。
メドゥーサに見つめられたように、心が固まってしまって、どうしても動けない。

もう少しだけ、あと少しだけ、側にいたい。
もっとその声を聴きたい。
自分でもビックリするくらい、大きな声で叫ぶ。

「ねぇ、これから一緒に夕陽を見に行かない?」

彼は一瞬戸惑ったような顔をして、手で大きく丸を作りニッコリと微笑んだ。

私は彼が笑うのを初めて見た。
優しくて、大らかで、包み込むような素敵な笑顔だった。


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