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まずは自分の「ナラティブ」を意識することから。『ナラティブカンパニー』著者・本田さんに聞く「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」実践編

noteとTwitterを組み合わせてつかう際のTipsを語る「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」イベント。今回は実践編の第3弾として、書籍『戦略PR』や『ナラティブカンパニー』などの著者としても有名な、PRストラテジストの本田哲也ほんだてつやさんにおこしいただきました。

2009年に出版されベストセラーとなった『戦略PR』をはじめとして、さまざまな著書をお持ちの本田哲也さん。

昨年出版された『ナラティブカンパニー』は、ニューノーマルの時代における「ナラティブ」という新しい「物語」の必要性を書かれた書籍で、企業やビジネスパーソンがnoteやTwitterなどを活用したコミュニケーションを行なううえで、非常に重要な考え方を提示しました。

そこで今回は、本田哲也さんの視点から、現在の時代に企業はnoteやTwitterをどのように「ナラティブ」と組み合わせていくべきか、PRや企業コミュニケーションのコツについておうかがいしました。

ゲスト

本田哲也ほんだてつやさん
本田事務所代表/PRストラテジスト

ナラティブとは?

ーー数年前から「ナラティブ」という言葉は、いろんな分野でキーワードとなっていますね。まずは「ナラティブ」とは、どのような意味か教えてください。

本田 ナラティブとは、物語的な共創構造のことで、ひらたくいうと、企業やブランドと生活者、あるいはお客様が、「共に紡ぐ物語」と定義しています。

ーー「共に紡ぐ物語」という言葉について、もう少し解像度を上げたいと思います。物語というと、結局「ストーリー」なのでは? と考える方がいると思いますが、「ナラティブ」と「ストーリー」の違いは何でしょうか。

本田 違いは、3つあると思っています。1つ目は「演者」の違い、2つ目は「時間」の違い、3つ目は「舞台」の違いです。

1つ目の「演者」の違いですが、これが一番重要だと思っています。コーポレートストーリーやブランドストーリーは、やはり企業やブランドが主役です。私達の話を聞いてくださいと、どうしても一方的な物語になってしまうのが、マーケティングにおける今までのブランドストーリーだったと思うんです。

「ナラティブ」は「共に紡ぐ」ということで、もう少し生活者、お客様側の物語であるというところに主眼を置いています。「壇上に企業がいて、聴衆は生活者です」というのではなく、みんなが同じ場所にいて、一緒にお話をつくっていこうよ、という感覚です。

2つ目の「時間」の違いですが、結局「ストーリー」は、フォーマットなんですよね。基本的に「ストーリー」には起承転結があって、はじまりとおわりがあるんですが、「ナラティブ」の概念はネバーエンディング。ずっと物語がつづいていくんです。

最後に3つ目の「舞台」の違い。やはりコーポレートストーリーやブランドストーリーは競合に勝ったとか、基本的にその企業が所属する業界や市場の中でのお話しですが、「ナラティブ」はみんなで紡いでいく物語です。おのずと舞台は世の中全体、社会全体になります。

味の素冷凍食品の事例

ーー「ナラティブ」と「ストーリー」の違いがわかったところで、Twitterでは「ナラティブ」をどのように紡げるのか、具体的な事例をもとにお聞かせください。

本田 まずは味の素冷凍食品の冷凍餃子に関する事例をご紹介します。
この事例は、まさにTwitterからはじまり、非常に「ナラティブ」なアプローチをした事例の1つです。ことの発端は、さかのぼること2020年8月。ある主婦のツイートがきっかけでした。夕飯をつくる余裕がなく、冷凍餃子を出したら、夫から「手抜き」だと言われたという趣旨のツイートです。夫のことを「ポテサラじいさん予備軍」としたユーモア溢れる内容で、大反響を呼びました。

ーーいいねの数が13.4万もついてますね(2022年6月30日現在)。一応、投稿内の「ポテサラじいさん予備軍みたいなんで」という文面の補足をさせてください。実際、味の素冷凍食品は関係ないんですが、この冷凍餃子の話よりも約1ヶ月前に「ポテサラ論争」というものがありました。

本田 スーパーでポテトサラダを買う子ども連れの女性に対して、高齢の男性が「母親だったらポテトサラダくらい自分で作れ」と言い放った、という内容ですね。このツイートはテレビのニュース番組でも「ポテサラ論争」として取り上げられ、世間では大変話題になりました。

そうした背景もあり、このツイートも大きな反響を集めました。でも、ここまではよくネット上で起こるバズですよね。すごいのは、ここからです。

実際、主婦がツイートした冷凍餃子の話は、直接企業には関係ありません。ですが、いわゆる中の人、味の素冷凍食品の公式Twitterアカウントが、この話に参戦しはじめるんです。

要するに冷凍餃子をつかうことは、手抜きではなくて「手間抜き」だと。

家事や子育てで忙しいお母さんたちの「手間」を、私たちが代わってやっているので、「気にしないで、お母さん!」ということを伝えています。

ーーワードセンスが非常によいですよね。この「手抜き」に「手間抜き」でかぶせてくるという。

本田 実はこれ、ずいぶん前から味の素冷凍食品、さらに言えば業界全体が抱えていた問題なんですよね。冷凍餃子という市場では、同社はすでにポジションを確立している。ただ、その先のハードルとなるのが、世の中的に冷凍食品は手抜きだろうという、パーセプション、いわゆる認識が根強かったのです。

「これって冷凍じゃん」と言ったら、それはもう呪いのようなものですよね。そうではなくて、人々の認識を変えないとセールスにも響くし、世の中的にもよくないというお題が元々あったわけです。常日頃からそうした問題意識があったからこそ、「手間抜き」という表現が生まれたのだと思っています。

ーーTwitterアカウントの中の人の、アドリブと創意工夫はもちろんすばらしい。その一方で、会社の中でも「冷凍食品は手抜きだ」という世の中の意識を変えたいという気持ちも、この投稿にあらわれていたのですね。

本田 そうなんです。ある意味チャンスで、非常にいい「ナラティブ」を生活者と紡いでいける絶大なる機会であろうということで、味の素冷凍食品も公式の投稿だけでは終わらせずに、このあとも能動的に物語を紡いでいきます。

具体的には、企業として何を語っていけばいいか、ということをまとめたり、プレスリリースで企業の姿勢を表明したり、さらには冷凍餃子をつくる手間を可視化するために公式動画を出したりしました。

世の中の話題よりパーパスが大事

ーー味の素冷凍食品の例を聞くと、やはり世の中の大きい流れに乗っかったほうがよい気がするのですが、本当は何からはじめるのがよいのでしょうか。

本田 まずはパーパスを設定して、「ナラティブ」の起点を定めることからですかね。

パーパスというと大げさに聞こえますが、つまり自分たちが大事だと思うことや、自分たちの存在意義が何なのか、起点を考えるということです。

企業規模に関係なく、自分が何者か理解できていない状態で、人通りの多いところにやたら出現しても意味がないと思うんです。私はこういうことを大事にしてますというのが、最初にきちんとあったうえで、関連する世の中では、今どういうことが起きているのかをみてみる。そうすると、今回の味の素冷凍食品のように、黙っていられない領域や、介在するべき理由が見つかるんだと思います。

まずは自分の「ナラティブ」を意識する

ーー最後に明日からナラティブ脳に切り替えるために、「最初の一歩はこういうのを意識するといいよ」などの、ちょっとしたヒントを教えてください。

本田  まずは1回、身近な自分の物語を意識してみるのはどうでしょう。マーケティングのベテランでも初心者でも、みなさんには自分の「ナラティブ」があるはずです。私って、僕って、こういう経験してきたから、今こうした行動をとっているんだな、とか。

結局それが企業にもあり、さまざまな組織にもあり、個人にもあります。それぞれがフラットに、点在している物語です。それをいかに大きな「ナラティブ」として同一化していけるか、一緒につくっていけるかが肝なんですよね。

「ナラティブ」は個人起点からも考えることができるので、ビジネスや企業のことはあんまりわかりませんという方も考えられます。そこが面白いところですし、共創につながればダイナミックなところかと思います。

ーー本日はありがとうございました。

※敬称略
※当イベントでは、noteでの「ナラティブ」な事例についてもお話ししています(32:25ぐらいから)。くわしくは以下の動画アーカイブをご覧ください。

ゲストプロフィール

本田哲也ほんだてつやさん
本田事務所代表/PRストラテジスト

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出されたPR専門家。世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人を経て、2006にブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』など著作多数。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。


Twitter

interview by 徳力基彦 text by 須賀原優希


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