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ソフトバンク井上さん×Facebook中村さん「マーケター視点で自身と他者の感性をキャリブレーションする」SNSのつづけ方

さまざまな分野で活躍しているゲストをお招きし、noteやSNSとの付き合い方をひも解いていくトークイベント企画「ビジネスに役立つnoteやSNSのつづけ方」。

第3回目のゲストは、ソフトバンク コミュニケーション本部でメディア統括部長をされている井上大輔さんと、Facebookでマーケティングサイエンス ノースイーストアジア地域統括に従事されている中村淳一さんです。

どちらも外資系企業でマーケターとして数多くの経験を積んでおられ、現在SNSでの発信を活発にされています。おふたりがSNSをはじめるまでの葛藤や、SNS活用についてマーケター視点で考えることなどを、noteプロデューサーの徳力がおうかがいしました。

▼イベントのアーカイブ動画はこちらでご覧になれます

登壇者紹介

マーケターの視点1_井上さんプロフィール写真

井上大輔さん 
ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部 メディア統括部長

ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパン、ヤフーを経て現職。雑誌・WEB媒体への寄稿や講演会・セミナーの登壇多数。NewsPicksアカデミアプロフェッサー。「やりたいこと」を見つけなくてはいけない、という呪縛に苦しんでいるひとに「最も多くのひとが自分にやってほしいと思っていること=天職」と説く近著『マーケターのように生きろ』(東洋経済新報社)が好評発売中。
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Twitter

マーケターの視点2_中村さんプロフィール写真

中村淳一さん
Facebookマーケティングサイエンス ノースイーストアジア地域統括

2002年にP&G入社。柔軟剤「レノア」ヘアケアポートフォリオ戦略、かみそり「ジレット」店舗営業チャネルシニアマネジャーを担当後、グローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターを経て執行役員。2017年6月Facebook Japan入社。アルゴリズムやマーケティング理論を研究するマーケティングサイエンス部門の日本および韓国代表。
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Twitter

Twitterをビジネスで活用しはじめたのは3、4年前から


ーーお2人はどのようなSNSを使っていますか。また、それらをはじめたきっかけを教えてください。

井上 Twitter、note、Facebookを使っています。Facebookは友人とのコミュニケーション用で、ビジネス活用はしていません。

Twitterは、SNS黎明期から使っていました。震災前には、Twitterを使ったマッチングサービスをつくっていたりしたこともあったんです。ただそれから長いこと、休眠状態にしていて。Twitterでの発信に力を入れ出したのは3、4年前です。

きっかけは、田端 信太郎さんの『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』を読んだこと。「広告マーケティング関係者はTwitterをやっていないとだめだ」「1000人フォロワーがいないとだめだ」と書かれていて「よし、頑張ってみよう!」と思ってはじめました。

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中村 私は、Twitter、Facebook、Instagram、note、LinkedInを使っています。FacebookとLinkedInは友人・知人とつながるためで、ビジネスでは使っていません。

Twitterは、2017年にFacebookへ転職したのを機にビジネス活用を目的としてはじめました。前職では、SNSで発信することが認められていなかったんです。でも、現職ではいろいろなマーケティングの考え方を知り、もっと現場の方々の声を聞く必要があります。それにはTwitterが有効だと思いました。自分としても、会社を超えていろんな人と広く知り合い、つながりをつくりたいという思いもあったんです。

Twitterはキャリブレーションのツール


ーーnoteとTwitterはどう使い分けているんですか。

井上 Twitterは、1番荒い「ものさし」だと思っています。実験的にばんばん発信して、みなさんが求めているトピックはなにかを探るいわば一次フィルター。そこで反応が良かったものを、noteでしっかり文章にしてお届けするようにしています。私は「キャリブレーション」と言っているんですが、自分の感性と受け手の感性を調整するのがTwitterです。

マーケターの視点4_井上さんお顔写真


中村 私はnoteを「コンテンツ」だと思っていて。マーケティングを中心に、あらゆる物事に対する自分の解釈をしっかり書いているのがnoteです。Twitterはその吐き出し口の一つですね。

井上さんが言うように、Twitterやnoteの反応を見ることで「このコンテンツは発信する意味があったな」とか「これは伝わらなかったんだ」ということがわかるので、キャリブレーションができます。


自分のスタイルは他人が作ってくれた


ーー記事の内容についてはキャリブレーションで選ぶとして、文章やコンテンツのスタイルはどうやって決めていったんですか。

井上 自分では決めていないんですよね。SNSはどちらかと言うと、我を殺すためにやっているところがあって。

Twitterをはじめたころ、自分がいいと思うことや好きなことをつぶやいてもまったく反応がなかったんです。それで、みんなが自分に求めるものをツイートするようにしたら、だんだんウケるものがわかってきて。自分が好きなものと、人が自分に求めるものの違いがだんだんキャリブレーションされていったんです。


悪い言い方をすると、読者におもねっていることになるかもしれないんですけど、私自身としては自分の個性を皆さんが見つけてくれたって感じています。

ーー人間はみんな多面的だと思うんですが、井上さんは意識的に、みなさんがよろこんでくれる面をSNSでは見せるようにしているということですね。

井上 そうです。自分がやりたいことも個性ではあるんですけど。たとえば300人が「井上さんのこういう文章を読みたいです」って言ってくれるとしたら、それこそが真実の自分の個性なのかなと思うようになりました。こうやってみなさんから発見されるプロセスが、ソーシャルメディアの1番の価値だと考えています。

SNSこそwin-winのコミュニケーションが求められる


ーーSNSでの発信におけるこだわりを教えていただけますか。

中村 SNSは個と個の集合体なので、win-winの関係でないとコミュニケーションが成立しないと思うんですよね。だから、自分のコンテンツを読んでくださった読者が、読んで良かったなと思えるものを書くことにこだわっています。

noteでは、自分なりのマーケティング手法を開発するために勉強していること、読んだ本やP&G時代の要素も入れながらコンテンツをつくります。心理学や行動経済学、脳科学、遺伝子工学、進化心理学などについて書いたり、最初にクイズを出して読み物としてたのしんでいただけるようなくふうをしたりしていますね。

絶対避けたいのがWin-Loseの関係


ーーSNSにおいてwin-winが成立しないWin-Loseの状態とは具体的にはどのようなことがあげられるでしょうか。

中村 例えば誰かが言った言葉に対して上から乗せてそれを責めることです。相手を負かせて自分は気持ちがいいかもしれないけれど、やりとりを見ている回りの人たちは不快に感じているかもしれません。また、だれかに対して言いたいことだけを言っているばあいも、それを聞いている人たちが嫌な気持ちになるんだったらWin-Loseです。対相手もそうですが、オーディエンスにも気を配ってその方たちにとっても意味があることを考えることがwin-winの関係には欠かせないと思いますね。

聞く耳を鍛えることからはじめる

ーーでは、SNSで発信して良いリアクションをふやしていくにはどんな能力を磨けばいいんでしょうか?

井上 「聞く耳をもつ」というのが、1番大事かも知れないですね。最近の優秀な広告クリエイターは話しやすい方が多い気がします。情報の受け手を知るためにはオープンマインドで話を聞くとか、評価を受け入れる態度が非常にたいせつなんじゃないでしょうか。

評価って、ポジティブなものであれネガティブなものであれ有用です。ネガティブなリアクションが返ってくると人格否定のように感じてしまうひともいると思いますが、1つのフィードバックとして受け止めることをお薦めします。お金のかかる「360°多面評価」をタダで受けているようなものです。自分を客観視する能力は、フィードバックを受けることでしか鍛えられませんが、そういう機会は意外とないものです。


炎上するものが変わってきた


ーー炎上についてはどう思われますか。ぼくはむかし「悪いことさえしなければ炎上はしない」と考えていたのですが、最近はなにが炎上するかわかりづらくなってきた気がしています。

井上 そうですね。最近は、炎上した内容を読んでも、文脈がわからないと「そこまで炎上するような内容だろうか?」と思うこともふえています。

マーケターの視点7_炎上

中村 賛否両論ある議論で、否定的な文言だけがニュースなどでピックアップされて、炎上として扱われてしまうケースもありますよね。

井上 炎上はもちろんしない方がいいですし、避けるべきなんすけど。ほかの人が炎上しているのを観察するのもキャリブレーションには役立ちます。そういうことの積み重ねが、リスクを下げることになるんじゃないでしょうか。

視聴者からの質問①「ゲストのおふたりが、SNSを使って「楽しい!」と感じるのはどんなときですか?


井上 自分のメッセージがいろんな界隈に広がっていく瞬間がすごく楽しいですね。SNSでよいコメントをもらうとすごくうれしい。英語では「You made my day.」というのですが「あなたの一言のおかげで今日1日が良い日になった」という気持ちになります。

中村 SNSをきっかけに、だれかとコミュニケーションできたときが楽しいですね。たとえばnoteを書いたあとにTwitterのDMで質問がきて、30分ぐらいのミーティングをして。相手がなにに困っているか話をすることがすごく学びになるし、楽しい瞬間です。これをきっかけに、ビジネスに発展するケースもあって。偶然の出会いが仕事のアウトプットにつながったときは、めっちゃくちゃうれしいです。

マーケターの視点8_中村さんお顔写真2

視聴者からの質問②ビジネスアカウントはやはり実名がいいのでしょうか


井上 どちらでもいいと思います。ただ、実名の方が信用できると言う人も中にはいると思うので、匿名よりちょっと有利かなとは思います。でも、重要なのはキャリブレーションできるかどうかなので、匿名であることはあまり関係ありませんね。

中村 私もどちらでもいいと思います。読者の反応がほしいのであれば、信頼されやすい実名の方がブーストはされますよね。でも、大事なのはコンテンツ。コンテンツが良ければ、実名じゃなくてもちゃんと反応していただけると思いますよ。

ーー発信をつづけることで読者からリアクションを得て、そのリアクションから自身と他者の感性をすりあわせるキャリブレーションが完成する。ときにネガティブな反応をされても、自分を磨く材料として活用できたなら。自身も成長できて、結果として良い発信ができるwin-winの関係ができるはず。

おふたりとも、発信の質を担保することと、読者からのリアクションを非常にたいせつにしていることがよくわかりました。井上さん、中村さん、本日はありがとうございました!

※敬称略

interviewed by 徳力基彦 text by いとうめぐみ

*この連載は、日経クロストレンドにも寄稿しています。


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