出版社がnoteユーザーに求めるクリエイター像(4)【幻冬舎編】
noteと、幻冬舎、ダイヤモンド社、扶桑社など33社(50音順)が締結した「クリエイター支援プログラム」。今回の施策にあたって、どのようなクリエイター、コンテンツを求めているのかを各出版社に聞く企画。第4回は、株式会社幻冬舎の取締役・石原正康さんと、幻冬舎plus編集長・竹村優子さんにお話をうかがいました。
第1回 : ダイヤモンド社
https://note.mu/notemag/n/n78f7b3a1a1cf
第2回 : マガジンハウス
https://note.mu/notemag/n/nc3fd9c4162dc
第3回 : 扶桑社
https://note.mu/notemag/n/n697f7c85ba67
今回お話を伺った石原さんは、『新 13歳のハローワーク』(村上龍)、『大河の一滴』(五木寛之)、『永遠の仔』(天童荒太)…など、数々のミリオンセラーやベストセラーを生み出してきた編集者です。2006年10月にはNHK「プロフェッショナル - 仕事の流儀」でも紹介されています。
一方、竹村さんは、『幻冬舎plus』編集長を担当しながら、自ら編集者としても単行本、新書、文庫の編集を手がけ、多くのヒット作を出しています。これまでに手がけた本は、『じっと手を見る』(窪美澄)、『弱いつながり』(東浩紀)などがあります。
この対談は、まずは加藤と幻冬舎との関わりから、編集者としての心構え、最近のクリエイターについて、そして、どんなクリエイターを求めているかまで、幅広く話をしました。
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加藤貞顕(以下、加藤) このたびは、「クリエイター支援プログラム」に参加していただきありがとうございます。ただ、幻冬舎さんとはこれまでにも、いろんな取り組みをしてきているんですよね。この辺の本は、いままでにnoteやcakesで公開して書籍化した本です。
竹村優子(以下、竹村) 最近では、cakesで連載しているはあちゅうさんの「仮想人生」も、1年前から私と加藤さんといっしょに編集をしてきました。他にも藤沢数希さんの『ぼくは愛を証明しようと思う。』、林伸次さんの『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』も加藤さんとつくった本です。
加藤 そうなんですよ。竹村さんとずっといっしょに編集してました。『仮想人生』の単行本も1月に発売されるんですよね。竹村さんと最初にあったのはけっこう前ですよね。
竹村 2013年に幻冬舎plusを立ち上げるときに、加藤さんにcakesの話を聞きに行ったのが最初だと思います。当時はニュースサイトが立ち並ぶなか、cakesはエンターテイメント系のエッセイ・コラム・小説を掲載されていたので、ネットで読まれるものは、紙の本とはどう違うのかをいろいろ質問しました。
(幻冬舎plus編集長・竹村優子さん)
加藤 そうそう、そうでした。それで、石原さんは、じつは僕の高校の先輩なんですよね。
石原 そうなんだよね(笑)。
加藤 新潟南高校というんですが、ほかの先輩にアーティストの会田誠さんとか、「パタリロ!」の作者の魔夜峰央さんとかもいます。
竹村 それはカルチャー系の人材をたくさん輩出されている学校ですね!
図鑑のような「ひく本」をつくりたい
加藤 さて、この「クリエイター支援プログラム」を出版社のみなさんといっしょに運営している理由なんですが、要するに、noteのクリエイターの「出口」を増やすためなんです。
石原 はい。
(取締役・石原正康さん)
加藤 つまり、ぼくらはサイトを運営しているから、データなどから人気のクリエーターの状況がよくわかっているので、それをふまえて、ぴったりあった出版社さんをご紹介して、それで本にするといいだろうということですね。
石原 なるほど。
加藤 幻冬舎さんとして、どんなクリエイターに来てほしいとか、こういうテーマが幻冬舎に合うみたいなものはありますか?
石原 以前、僕が編集した本で『新 13歳のハローワーク』という、職業に対する図鑑のような本をつくったんです。
加藤 これ、ぼくも読みましたけど、ミリオンセラーにもなりましたよね。で、すごく分厚くて図鑑というか辞典みたいな本です。
石原 こういうぱらぱらめくると楽しい本って、本が向いてるんです。手元に置いて、いろんなページをめくってもいいし、必要なときに調べてもいい。読破の必要もない。
こういう紙ならではの大判の本をnoteのクリエイターとつくりたいですね。チャーリーさんの『ビジネスモデル2.0図鑑』は、すごくおもしろいと思います。
幻冬舎の「世に知らしめる」ためのこだわり
加藤 幻冬舎といえば、作品もですが、大々的な宣伝とか販売にも強みがある会社ですよね。この取材は、クリエイターのみなさんが、幻冬舎と仕事がしたいと思ってもらうための記事なので、そこのところをうかがえますか?
石原 幻冬舎では、「書籍をつくること」と同じくらい、「知らしめること」を大事にしています。書籍をつくることは、仕事の半分。書店の店頭だったりPOPだったり、世に知らしめるための工夫を重ねていくんです。
加藤 あとは映像化の回数も多い。テレビや映画などのマルチメディア展開をよくやりますよね。それは意識してやっているんですか?
石原 社長の見城は「最初から、映画とかテレビのドラマになるようなタイトルにするんだ」とよく言いますけど、それがヒントかもしれないですね。新書のタイトルとかもそうです。
竹村 幻冬舎は、タイトルや帯コピー、概要文を編集者がすごく考えます。新聞広告の宣伝コピーも社長と編集者で一緒につくります。タイトルがあって、帯を見て、表紙をめくって中身を読むところまでイメージして、読者がどう思うか、買いたくなるかどうかを突き詰める土壌がありますよね。
加藤 そういうのって、実際はどうやって決めるんですか?
竹村 たとえば新書の場合、まずタイトルを決めます。このタイトルだったらこのコピー。コピーまで決まったら内容紹介。200字の内容紹介をつくるのに上司と何回もやり取りしますよ。それだけで1ヶ月近くかかることも。それと同時に中身のゲラを進めます。
加藤 それはすごい。200字だったら、すぐに書いておしまいのところもあるでしょう。
竹村 1行1行これはどういう意味なのか、何となく書いてないかを突き付けられます。
加藤 厳しいですね。そういう文章って、見城さんも確認するんですか?
竹村 はい、部数会議のときに、社長が、ゲラ、カバー、帯のコピーを見て、部数を決めます。そのときに見てイマイチなものは、「このタイトルで誰が買うんだ」とフィードバックが入るんです。発売3週間前ぐらいで色校ができているタイミングですよ。タイトルが変わると、前書きも直さないといけなくなりますし(笑)。中身がちゃんとしているのは当たり前で、それをどう読者に見せていくか。そこにこだわる会社だと思います。
加藤 幻冬舎さんは、もともと単行本だけでスタートした会社ですよね。だから、最初からヒットさせないといけないという事情があったんですか?
石原 はい。僕は創業メンバーですけど、最初は、単行本が売れなかったら即アウトでした(笑)。1994年の創業時に出版した最初の単行本は、村上龍さんの『五分後の世界』と、吉本ばななさんの『マリカの永い夜/バリ夢日記』、山田詠美さんの『120%COOOL』、五木寛之さんの『みみずくの散歩』、北方謙三さんの『約束』、篠山紀信さんの『少女革命』の6作品。
僕は、(五木寛之さんまでの)4冊を担当しました。ちなみに五木さんは、見城と2人で「会社をはじめます」って訪ねたときに「君たち始めるならこの原稿をあげる」って、日経新聞で連載していた作品を渡してくれたんですよ(笑)。
加藤 ラインナップもすごいし、五木さんのエピソードもすごいです。その最初の6冊は、どれぐらい売れたんですか?
石原 単行本の時点で、ばななさんが21万部。山田さんが13万部。龍さんも15万部。五木さんは10万部、北方さんは5万部ぐらいかな。全部、よく売れましたね。
加藤 それって石原さんが、何歳くらいのころなんですか?
石原 僕が31歳のころですね。見城さんは43歳でした。
加藤 若い! その何年かあとに出た、郷ひろみさん『ダディ』はすごかったです。当時大人気だった郷ひろみさんの離婚を書籍で発表したんですよね。その後すぐ出た、五木寛之さんの『大河の一滴』もめちゃくちゃ売れて。
石原 両方ともミリオンセラーになりました。翌年に出た石原慎太郎さんの『弟』も、裕次郎さんとの2人の関係があるじゃないですか。唐沢寿明さんの『ふたり』もそうだし、『ダディ』もそう。こうしてみると、幻冬舎は夫婦や家族の関係をタイトルにした本が多いですね。親子や兄弟って意外に特異な結びつきだから物語もつきつめれば面白い。そういう作品をつくるクリエイターがいたらいいなと思いますね。
いずれは編集者の仕事をnoteのシステムに組み込みたい
石原 昔から、編集者の大事な仕事って、新人の発掘なんです。今までは、新人賞で1,000も2,000も応募が来て、その中から選んでいったんです。でもnoteの場合って、すでに作品として世に公開されているんですよね。しかも、どれぐらい見られているか反響も分かる。
「小説 野性時代」の新人賞は自分も応募した口なのでわかるんですが、こういうのって昔は誰にも言わないでこっそり書いていたんですよ。
加藤 え? 石原さんも小説を書いて、応募してたんですか?
石原 そうです。実は最終選考まで残って、そのときの選考委員が、村上龍さんと中上健次さん、宮本輝さん。その時の編集担当が今の社長(見城)なんですけど。「君の作品なら野性時代の賞は確実に取るし、芥川賞の候補にもなるから」って(笑)。ちなみにその時二人受賞者がいて、その一人が草間彌生さん。最近は草間彌生に負けた男で通しています。
加藤 (笑)。小説を書く人って、昔はだれにも言わずに書いて、そうやって応募する人が主流でしたよね。
石原 そうそう。でも今は違うじゃないですか?
加藤 今は、書いたらすぐにネットに公開するほうが多いでしょうね。マンガとか小説とか、noteにも多いですよ。
石原 文章は優越感も劣等感もさらけ出すので、発表することは怖いはずです。その意識が変わってきたことがすごい。発表媒体としてのネットには、書き進める心地良さを覚えるのでしょう。才能がある面白い人も、作品をネットに公開する。一方で誰にも言わずに原稿用紙に400枚分書いて賞に応募する人は減った訳でもない。そこがいいですね。
竹村 ネットに公開される方たちは、本にしたい気持ちはあるのでしょうか? ネットだと、本よりもたくさん読まれることもありますよね。
加藤 もちろん人によりますけど、本にしたい気持ちは、ある人が多いと思います。あとは、本じゃなくても「デビューしたい」というのもかなり強いと思う。この前、noteで「cakesで連載できる」権利をかけたコンテスト企画をやったんです。そうしたら、9,000件以上の応募があったんですよ。中には、プロの写真家のかたや、イラストレーターや、ライターや編集者のひとなどの、すでに名が通っている人も応募してくれてたんです。機会をもうけることって大事なんだなと思いました。
竹村 それはすごいですね! コンテストでは、基準やテーマは決めたんですか?
加藤 テーマとかは、あえて「なし」でやりました。cakesというウェブの場では、紙面の制限もないわけだから、テーマとか軸はいらないのではないかと思ってそうしたんです。おもしろいものはいくらあってもいいし、いろんなジャンルのコンテンツがあったら、人に合わせてリコメンドできればいいと思っているんです。
竹村 それでも、結果的にcakesというメディアのキャラクターはちゃんと確立されてますよね。
加藤 それはあります。限られた人間で、限られたリソースでつくっているので。ちょっとカルチャー寄りですよね。
あと、cakesでぼくたちが一個だけ決めているのは、「悪口はやめよう」っていうことです。インターネットって、ともすると殺伐としがちですよね。それは、広告で儲けようとするサイトだと、ページビューがあるほうが儲かるということと関係していると思っていて。悪口って、言うのはとても簡単だし、面白いじゃないですか。でも、cakesは課金モデルなのでそういうことはしなくていいなと。
竹村 なるほど。その決まりは、全体の空気を大きく変えますね。
加藤 場の空気をよくするということは、noteでもすごく意識しています。そもそも広告を入れていないですし。定期購読やフォローとか、ファンをためていく仕組みなので、クリエイター側に悪口を言うインセンティブがあんまりないんですよ。長期的な関係を築きにくくなるので。他にはnoteでは、こういうこと書きませんか?という「お題」を定期的に提案したり、○日連続して書くとシステムが褒めてくれたりしています。
石原 編集者の仕事って、依頼をすること・締め切りを決めること・褒めることじゃないですか。それらをnoteのシステムの中に組み込もうとしているんですね。
加藤 そうですね。noteは編集とか流通とか、クリエイティブのエコシステムを仕組み化しようと思っています。
竹村 それが誰でも創作をはじめて続けられるということにつながるのですね。
加藤 今日はありがとうございました。今回のお話を聞いて、改めて幻冬舎って「出版界のベンチャー」だったことがわかりました。
石原 今でもそうですよ(笑)。
加藤 今後も一緒にクリエイターの可能性を広げていきたいと思っているので、引き続き、よろしくお願いします。