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「自分をさらけ出して」発信し続ける 映画監督・平林勇さん #noteクリエイターファイル

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は映画監督・演出家の平林勇さんに話を聞きました。

短編映画がカンヌ、ベルリン、ベネチアほか海外の映画祭で高く評価されてきた平林監督。2019年、初の長編映画である『SHELL and JOINT』がモスクワ、ロッテルダムで上映され、2020年3月27日には日本で劇場公開へ。

新型コロナウイルスの影響で自粛ムードが高まる最中、劇場公開に先立って、noteで「オンライン試写会」を実施。70名ほどの観客がオンライン上に集まり、平林監督と主演の堀部圭亮さんのトークも繰り広げられ、上映後にはnote上に感想がアップされました。

この新しい試みが実現したのには、平林監督が『SHELL and JOINT』の公開に向けてnoteを書き続けていたから。

映画の告知のために始めたnoteが、長文を書くリハビリに

平林監督がnoteを始めたのは2018年12月。『SHELL and JOINT』の劇場公開を見越して、告知の場として活用しようと思ったことがきっかけでした。

「長編映画を劇場公開するのは初めてで、広告宣伝費に最低でも2000万円ほどいると聞いて驚いてしまって。僕らの予算は0円なので、自分たちでやるしかないと、noteを書き始めました」

そこから、平林監督の個人のアカウントで、2000文字以上の長文記事を月3〜4本のペースで投稿。内容は、制作チームや俳優陣のことから、映画祭や完成披露試写会、レビューまで、映画づくりにまつわることを中心に、大好きな昆虫や子育てのことなど、日々の日記も綴っています。

「10年以上前にブログで長文を書いていたんですが、ここ数年はずっとTwitterで短文を書くことに慣れてしまっていたんです。でも140字で伝えられることには限界もあるし、どうでもいい戯言ばかりを書いてしまう。長文を書くためのリハビリにもなっていますね」

会社員時代の先輩であるワタナベアニさんの勧めで、実験的に定期購読マガジンもスタート。更新しないと届くnoteからの「注意」にいい意味でお尻を叩かれていて、次第に増えていったフォロワーも、書くモチベーションになっているそうです。

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「発信しない人」と「発信する人」の差が広がっている

平林監督がnoteで書き続ける何よりの理由。それは「発信しないことのリスク」を感じるから。

「極端なことを言うと、発信している人の声で国が作られていると思うんです。発信しない人たちの声は届かないし、ないものにされてしまう。大きな動きだけでなく、ビジネスにおいても、個人も、発信する人と発信しない人の差が広がっているように感じるんですね」

その一方で、思いがけず負のエネルギーを集めてしまうなど「発信するリスク」もあります。

「東日本大震災の時に、Twitter上で発信をした人が攻撃されているのを見て危険だと感じたこともあります。だからこそ発信する時には、誰かを傷つけることがないか、しっかり考えますね。発信は散弾銃のようなもの。特定の人を思い浮かべて書いたとしても、弾は四方八方に飛び散り、思いがけないところ飛んでいく。誰かに弾が当たることがないよう、何度も読み返して見直します」

「誰かを傷つけないか」には心を砕くけれど、「自分がどう思われるか」は気にしない。作品づくりも発信も「自分をさらけ出す」ことをモットーとしているそう。

「自分をさらけ出さないと面白くないと思うんです。自意識がないわけではないけれど、自分が思っているほど人は見てくれないんで。前面に自分を押し出していかないと興味を持ってもらえない。僕は、下ネタを含んだ作品も全部、何年も前から親きょうだいにも観られているんで(笑)、今さら人の目を気にすることはないですね」

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海外の映画祭へ行くため、1年に1本作品をつくり続けた

平林監督はCMを制作する傍ら、30歳の頃から15年以上、年に1本のペースで短編作品をつくり続けてきました。CMディレクターという多忙な仕事、さらには子育てもしながら(ちなみに、子どもと過ごす「子守の日」は撮影と同じレベルの扱いで、その日に仕事は入れられないそう)、なぜ創作を始め、続けることができたのでしょうか。

「僕が初めて作品をつくったのは30歳でした。ずっとCMを作っていたので、周りにいるスタッフは一本立ちをしている一流のプロ。短編は仕事を一緒にしていたスタッフに声をかけてつくり始めました。日本の映画祭に出したけど、全く引っかからなくて。でも、海外の映画祭には呼んでもらえたんです。

実際に海外の映画祭に行ってみたらものすごく楽しい。日本だとスポンサーが一番偉いという空気がありますが、海外は、“FilmMaker”がまるで神かのように、物づくりをする人を讃えてくれるんですね。毎年映画祭に行きたいから、1年に一本つくるというノルマを立てて、作品づくりをしてきました」

『HELMUT』(2003)の釜山上映を皮切りに世界各国の映画祭へ、世界4大映画祭、ベルリン、カンヌ、ベネチア、ロカルノすべての映画祭で上映されるまでに。短編で世界を見た平林監督は、長編の制作に踏み出します。

「映画業界では短編で世界一になってもアマチュアなんです。このままずっと短編を撮り続けるのか。やっぱりプロの世界に行きたいと。僕、今年で48歳になるんですけど、年齢的にもラストチャンスだと思って長編にチャレンジすることにしました」

脚本に1ヶ月、撮影は1日、予算も100万円ほどで制作する短編に比べて、長編は脚本に1年、撮影は20日ほど、予算は数百万円。平林監督自身とCM制作会社が出し合って集めたこの予算は、映画業界では「なにもできない」に等しいほど少額だそう。

「だから、脚本も撮影も広報も全部自分でやっています。でも、出資者ではなく自分たちが権利を持っているからこそ、オンラインの試写会など、フットワーク軽く新しい試みができるんです」

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「noteで映像について語ること」の可能性を感じるから

noteで映画の意図や制作の裏側を監督自ら書くことも、オンラインでの試写会も、映画業界ではまだまだ珍しいこと。

「映画業界で知らない人からも、実際に会ったときに“note読んでます”と言われることがすごく増えました。オンライン試写会も刺激になったと言われましたね。

日本は監督はあれこれ説明せずに作品で語れといった風潮がありますが、ヨーロッパではコンセプトを語ることが求められます。『SHELL and JOINT』は相当わけがわからない作品で、どれだけ書いてもネタバレがないという特質もありますが、僕は意図も含めて書いています。noteと映像は相性がいいと思うんです」

新しい試みとして、平林監督はお笑いトリオ「パップコーン」とタッグを組んで、コントプロジェクトにも取り組んでいます。noteをプラットフォームに、Web、本、映像、舞台などメディアを限定せずにコントを展開する「ぱっぷこーんと」。

「パップコーンの3人と企業をコントにするブランデッドコントをやりたいねと話していて、そのアプローチとしても、noteでコントをやってみよう!と。noteでコントをつくる過程を見せられたら面白そうだなと思い、発信を始めました。まだまだですが」

映画にコント、既存の枠組みにとらわれない豊かな発想でnoteを楽しむ平林監督。noteを舞台に、どんどん創作して遊んじゃってください。

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■クリエイターファイル
平林勇

映画監督・演出家。短編映画が、カンヌ、ベルリン、ベネチア、ロカルノ、サンダンスなどで上映。2019年、初の長編映画『SHELL and JOINT』が、モスクワ、ロッテルダムにて上映。2020年3月27日劇場公開。http://www.hirabayashiisamu.com
note:@hirabayashiisamu/magazines
Twitter:@hirabber

text by 徳瑠里香 写真提供:平林勇監督(オンライン試写会にて)

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