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昭和の成田市を描いた漫画が話題に。大人になってから漫画家の夢を叶えた、日暮えむさん
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昭和の成田市を描いた漫画が話題に。大人になってから漫画家の夢を叶えた、日暮えむさん

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noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は漫画家・日暮えむさんがご登場。背景を担当する息子でイラストレーターのDontaさんと一緒にお話を聞きました。

2019年に開催された幻冬舎×テレビ東京×note「#コミックエッセイ大賞」で、けらえいこさんから審査員特別賞を受賞した日暮さん。現在は、受賞作である「ひぐらし日記」の続編、「新ひぐらし日記」をcakesで連載しています。

利根川沿いの村で生まれ育った、市井の人びとの“普通の生活”を描く本作。頭に着物と草履をくくりつけて利根川を泳いで渡った祖父、片道5時間歩いて野菜を売りに行っていた曾祖母、遺影を絵で描き「土葬」していたお葬式の風習……。40年以上つけてきた日記と記憶をもとに、今はなき、失われた時代の日常がつづられています。曾祖父母の時代まで100年以上遡った、ささやかで壮大な物語はどのように生まれたのでしょうか。

noteのコンテスト受賞をきっかけに「漫画家になる」夢を叶える

田園風景が広がる昭和の成田に生まれた日暮さん。中学生のころから漫画を描きはじめ、高校時代は美術部に入って油絵に夢中に。大学卒業後は就職し結婚を機に退職、ふたりの子どもを授かります。その後地元企業で働きはじめて20年間、仕事と家事育児をこなす慌ただしい毎日に、漫画を描く余白はありませんでした。

「中学生からただの憧れで漫画家になりたいとは思っていたけど、当時はSNSもないし、奥手な性格なので出版社に持ち込むなんてこともできず、ずっとその気持ちは封印していたんです。子育て中は漫画どころじゃなくて、子どもたちを大学に出すまではお金もかかるので、フルタイムで働いてきました。でもあるとき、武蔵野美術大学に通っていた息子がタブレットで漫画を描きはじめて、ちょっと触らせてもらったらおもしろくて。『漫画を描きたい』という気持ちがマグマのようにあふれ出しちゃったんです」

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仕事と家事を終えた夜、日暮さんは漫画を描くことに没頭。そんな最中にnoteと出会います。

「漫画投稿サイトに作品をアップしていたら、娘が『Twitterを始めたら?』と言うので、登録したんです。タイムラインを眺めていたら、誰かのつぶやきでたまたまnoteさんでコミックエッセイ大賞が開催されることを知って。大好きなけらえいこ先生が審査員をつとめられることに胸が高鳴って、ハッシュタグをつけるだけで参加できるなら、と応募しました」

そして、応募作「ひぐらし日記」はけらえいこ先生の審査員特別賞を受賞。

「発表の日は働いていて、お昼休みに車の中で受賞を知り、うそ〜って震えました。涙もちょちょちょって出て。けらえいこ先生に漫画を読んでもらえて書評まで書いてもらえるなんて。本当に感動しました」

受賞後、隔週でcakesでの連載「新ひぐらし日記」がスタートします。

「最初はcakesの担当編集さんのすすめもあって会社を辞めずに、平日の夜や土日に描いていたんです。でも体力的にも大変で、かと言って納得のいかない作品を発表するのも嫌だったので、思いきって20年間勤めた会社を辞めちゃいました。担当さんに報告したら驚きつつも『だったら連載を毎週にしましょう』と言ってくださって、できるかなと思いながらも嬉しくて『ぜひ!』と即答しました。漫画家になりたい、ここでやらなかったら後悔するって思ったんですね。子育ても落ち着いていたので、これからは自分のための人生だ、万が一ダメになっても悔いはないだろうって飛び込んじゃった」

こうして日暮さんは、中学生のころから思い描いていた「漫画家になる」夢を叶えました。

母の記憶の中にある風景を息子が再現。二人三脚で描く漫画

「土や草の匂いを感じた」
「白黒なのに夕焼けの色が見えた」

読者からそんな言葉が届く背景は、日暮さんの息子、Dontaさんが描いています。

「物語と人物は描けるんですが、背景が苦手で。息子は美大で学んでいることもあって上手なので、お願いしようと思ったんです。一緒に学校や神社に取材に行って、私の記憶を話しながらこんな感じでって伝えて描いてもらっています。彼の背景がなかったら、ひぐらし日記の魅力も半分になっちゃうと思ってるんです」

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「親子で一緒にやっているというと牧歌的だと思われるかもしれませんが、ケンカしてぶつかり合いながらやっています。背景を描くときは、一枚の絵としておもしろいかどうかを重視しています。実際に見に行った現在の絵と母の記憶の中にある絵を重ねながら、歴史や記憶にこだわりすぎず、天気や匂いが漂うように」(Dontaさん)

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親子二人三脚で漫画を描きはじめて1年以上。描き出した当初の絵を見返すとふたりは声を揃えて「恥ずかしい」と言います。

「お互いに下手だったねえ、この歳でも成長するんだねえって。言いたいことを言って指摘し合えるのも親子だからかもしれません」

(息子さんとの物語は『ADHD(アドハド)息子とプチ潔癖母』にも描かれています)

漫画にしたい話はまだまだある。次の夢に向けて描き続ける

連載がきっかけとなり、成田市の主催で「日暮えむ展〜ひぐらし日記より〜」が開催されました。

「成田市役所でひぐらし日記が話題になっていたみたいで、図書館の館長さんからご連絡をいただいて、実現しました。子どもたちに成田市の歴史を伝えるいい機会になると、個展のチラシも学校で配ってくださって。4コマ漫画教室やライブペインティングのイベントも開きました。今後は授業の中でも私の作品を取り扱ってくださるそうなんです。ありがたいですね」

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「成田市の方だけでなく、全国の方から、うちの地域はこんなお葬式があったとその土地の風習を教えてくださるメッセージが届きます。なつかしい記憶を思い出す方が多いみたいで、息子にも感想を共有して、一緒に喜んでいます」

日暮さんにはまだまだ描きたい「その土地で暮らすひとの記憶」がたくさんあると言います。

「小3の頃から毎日日記をつけているんですが、漫画にするときは全部を見返すわけではなく、ほとんどは記憶をもとに描いているんです。私、不思議と1歳くらいの頃からの記憶が鮮明で。あの話も描きたいなって構想をいつもA4の紙にまとめているんですけど、描きたい話は一生かけても描き切れないくらいいーっぱいあるんです。終戦記念日に向けて、戦争に行った祖父の話も描きたいですし。祖父が牛小屋の前でぽつりぽつりと語ってくれた話がどうしても忘れられない。家族の話を書いたら、恩師や友だちの話も描きたいし、cakesの連載が終わらない限り描き続けたいです」

日暮さんが今も毎日つけている日記。その年の目標が書かれている日記帳の1ページ目にはーー漫画を描き始めた2017年「マンガ家になる」、2018年「マンガ家になる」、コンテストに応募した2019年「マンガ家になる」、cakesで連載が始まった2020年「マンガ家としての仕事が途切れないように努力する」ーー夢を叶えた軌跡が残っています。

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「今はいろんな事情で夢どころではない、と感じている方もいらっしゃると思いますが、あきらめなければいつか必ずチャンスは訪れます。そのチャンスを掴むことができればきっと夢は叶うと思うんです。私もまだまだ夢の途中。人生は一度きり、せっかくこの世に生まれてきたのだから、1冊でもいいから自分の本を残したい。漫画家になった今、小さいころから本が大好きだった自分の夢をまた一つ叶えたいなと思って、本にすることを目指して毎日エッセイ漫画を描いています」

■クリエイターファイル
日暮えむ

漫画家。利根川沿いの 田園風景 広がる村に生まれ育ちました。小3の時、担任だった恩師が日記を書く事を勧めて下さり、以来1日も欠かさず書いています。現在は、記録と記憶を元に エッセイ漫画を描いています。
note:@higurashi_5_emu
Twitter:@Higurashi_Emu

text by 徳 瑠里香 photo by 小島瑳莉

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