OJTでの人脈形成がキャリアを左右する理由 ― 社会化エージェントの役割と支援策
人脈形成の支援とOJTにおける重要性
最近、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授の中原 淳氏が編集した『人材開発研究大全』という書籍が発刊されました。この書籍には、キャリア形成や能力向上に関するさまざまな研究知見が詰まっており、その中でも特に注目すべきは「OJTと社会化エージェント」に関する論文です。これまでの研究で明らかにされたのは、新卒社員の組織社会化を支援するために、3人の社会化エージェントが重要な役割を果たしているということです。
社会化エージェントの役割
社会化エージェントとは、新入社員が組織に適応し、効果的に社会化するために重要な影響を与える存在を指します。この研究では、3人の社会化エージェントが新卒社員の組織社会化を促進する上で重要な役割を果たしていることが示されています。それぞれのエージェントは、非明示的な役割分担を持ち、その行動が新入社員の適応をサポートしています。
指導者(トレーナー):新入社員に対して直接的な指導や業務の教育を担当します。彼らは新入社員のスキル向上や業務の習得を支援し、組織内での基本的な役割を果たすことを助けます。
メンター:新入社員が職場に適応するための個人的なサポートを提供します。業務外の悩みやキャリアに関する相談に応じるなど、新入社員が職場に安心して定着できるよう支援します。
ピア(同僚):新入社員と同じレベルや近い立場の同僚であり、業務上の協力関係を築くことで社会化を助けます。ピアは、日常的なサポートや情報共有を通じて、新入社員が組織に自然に溶け込むのを助けます。
人脈拡大の支援の重要性
この社会化エージェントの中でも特に重要とされるのが、「人脈拡大を支援」する行為です。新入社員が組織内で効果的に働くためには、業務スキルの習得だけでなく、組織内での人間関係を築くことが不可欠です。特に、新しい環境での「人間関係」に不安を抱える新入社員にとって、人脈の形成は心理的な安心感を提供し、仕事に集中できる環境を作るために重要です。
私自身の経験を振り返ってみても、人脈の広がりがその後のキャリア形成に大きな影響を与えたことは確かです。人脈を築くことで、仕事上の協力者が増え、新しい情報や機会にアクセスできるようになります。また、人間関係が良好であることで、仕事に対するモチベーションも向上します。このため、OJTのプロセスにおいても、人脈形成を意識した支援が重要であると感じます。
OJTにおける人脈形成の啓発
今後のOJTに関する研修では、この人脈形成の支援を意識することが求められます。研修担当者や指導者は、新入社員が業務スキルを習得するだけでなく、組織内での人間関係を築く手助けをする必要があります。具体的には、以下のような方法が考えられます。
ネットワーキングイベントの開催:新入社員が他の部門やチームのメンバーと交流できるイベントを定期的に開催し、人脈形成の機会を提供する。
メンタリングプログラムの導入:経験豊富な社員をメンターとして割り当て、新入社員がキャリアについて相談できる環境を整える。
ピアサポートの推進:同僚同士の交流を促進し、互いに助け合える関係を築くための活動を支援する。
これらの取り組みを通じて、新入社員が組織内で安心して働ける環境を作り出すことが可能になります。また、人脈形成が進むことで、組織全体のコミュニケーションも活性化し、業務の効率化やイノベーションの促進にもつながるでしょう。
まとめ
『人材開発研究大全』の中で示された「OJTと社会化エージェント」に関する研究は、新入社員の組織社会化における人脈形成の重要性を強調しています。OJTの過程で新入社員が組織内での人間関係を築くことが、キャリア形成や能力向上に大きな影響を与えることが示されています。今後の研修においては、人脈形成を支援する取り組みを強化し、新入社員が安心して働ける環境を作ることが求められます。これにより、組織全体の成長と発展に寄与することができるでしょう。
(この記事は、2017年6月2日にオフィスKojoのブログ「伝刻の詞」にエントリーしたものを再編集したものです。)
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