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こたくま71 猫って意外に新参者なんです、犬に比べりゃね

今から7千年あまり前の縄文時代の遺跡から、埋葬されたとみられる犬の骨が見つかっています。犬は古くから日本人の友だったようです。だったら猫も、とはならないんですね、それが。猫が日本にやってきたのは奈良時代だと言われています。

●ネコの誕生

ワタシらの祖先はね、もともとは中東あたりで登場したといいますよ。それまでは森の中とかで、ひっそりだったかどうかは分かりませんが、とにかく人間とは関わりを持たずに暮らしていたのでしょう。関係ができたのは今から9000年ぐらい前。

人間が農業を始め、定住するようになると、穀物庫なんかができますでしょ。ねずみさん大喜びです。貯蔵穀物を狙う大量のネズミを追っかけて、ワタシらの先祖は人間の周りに集まるようになりました。

ワタシら一匹で、一日に20匹のネズミを食べますから、これは役にたつじゃん、と古代エジプト辺りで家畜として飼われるようになったんですね。初めはリビアヤマネコを飼い慣らしたようです。ネコの誕生であります。*注

●文献だって守ります

エジプトの人たちはネコを神聖視していました。なんせ穀物の番人なんでね。もはや戦略物資、禁輸品の一つだったんです。あんまり大事にするものだから、そこにつけ込んだペルシア軍は、戦争の際、ネコを軍の先頭に並べたと言います。弓矢を射かけられるものなら、やってみろ、とね。この卑怯な戦術に、エジプト軍は大敗したそうですよ。

禁輸といったって、役に立つものは、その流れを止めることはできません。商売上手のフェニキア人があっちゃこっちゃに連れてったんです。「こいつは役に立つぜ」と密輸したんですね。程なく世界に伝播していきました。

そんなこんなで日本にたどりついたのが奈良時代。お経を守るために、お経とともに船に積み込まれたんです。

仏教と一緒、ネコも輸入品なんです。渡来人同様、もはや根付いちゃいましたが、ネコにとって日本は移民国家なんです。9世紀には、文献資料にもでてきますよ。平安時代に入ると『源氏物語』や『枕草子』にも登場します。位を与えられたネコもいるとか。偉くないとみかどのおそばにはいられませんもの。

拾われたばかりのくまさん(右)とこたさん(中)

●「かわいい」でつかんだ世界

で、ここからが、本日の本題です。かつては重要な仕事を任され、今も活躍しているネコもいるとは思いますが、犬ほど多様な場面で頼りにされるような存在とはいえません。警察ネコなんていませんでしょ。もっとも犬も、近頃は愛がん目的というのが圧倒的多数ですがね。

ネコの多くは割り切っております。早くからペットになっちゃいました、とね。人間と一緒に生きていこう、それが私の生きる道。「かわいい」が私の仕事なんですとね。家を出たり入ったりして、ネズミやカエルを食べる子もいますが、基本的には人に飼われてなんぼの暮らしです。人間のそばにいることで勢力を拡大してきたのです。

 その戦略の一、かわいくあること
 その戦略の二、こびすぎないこと
 その戦略の三、といいつつ、たまには甘えてみること

と、まあ、大体のネコが伝統的にこうした戦略をとってきました。ワタシらが言うのもなんだけど、子猫の間は別格だよねえ。「かわいい」というのが生き残り戦略の第一なので、かわいい子猫しか生き残ってこれなかったのかもしれませんが、こりゃもう、あらゆる生き物の中でもトップクラスであることは間違いないねえ。

先にもらわれていったきょうだい

●大人になったら変わるのかい

ところがです。大人になったら、随分変わるよね。きりりとすまし、子猫の雰囲気は吹き飛んで、なんだかふてぶてしい。「飼われて感謝」って感はほぼありません。

あんなになついていたのに、呼んでも知らんぷりを決め込む日さえある。鮮やかに裏切るあたりもネコらしいでしょ。独立自尊の気風といいたいところではありますが、例外もあってね。チュールにはどないもこないもなりまへん。

それにしても冷静に考えれば驚くでしょ。「かわいい」を生き残り戦略の第一に掲げ、堂々と世界を制覇してしまったのです。そんな生き物ほかにいる? 考えてみりゃ、ワタシらすごいでしょ。

断っておきますが人間の皆さん、「癒やし」とはコストがかかるものなんです。AIなんぞには代替できない仕事を、ワタシら決して自覚的にやっているわけでもありませんが、社会的に言やあ担当しとるわけではあります。そこんとこは、よろしく、です。

*注 ここで問題にしているのは、誰しもがネコと聞いて想像する、イエネコのことで、野生のものなら、日本の縄文遺跡からも出土しています。

「なんでい、何か用かい」

くまさん(左)、こたさん(右)


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