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「安静」と「笑い」

若手芸人です。昨日、昼と夜とライブが2本あったんです。夜のライブでは、ネタを3本やるということでかなりハードな1日でした。

そこに追い打ちをかけるかのように、昼前から、いきなり、腰の痛みが爆発しました。立ってても痛いし、座ったら立てないほど痛いし、歩くとさらに痛い。とにかく息吸うのも痛い。これは、まずいと思い、急遽、内科のクリニックを受診してから、ライブへ行くことにしました。

診断的には、整形外科的な痛みと思われるとのことでした。痛み止めを処方してもらい、湿布を貼られました。一応撮ってもらった、レントゲンにも異常はなし。念のため、尿検査をしてしてみることになりました。

お医者様には、「こういうのは、安静にしなきゃだよ?」と言われ、僕は、これから、移動して騒がなきゃいけないと、正直に伝えました。「じゃあこのまま、突撃か」と言われ、僕は、こくんと頷き、右手を敬礼しました。

「痛み止めの注射か、坐薬を入れてくか?」と先生が、ちょっとお茶する?みたいな気軽さで提案してきましたが、怖かったので、断りました。痛みを引きずりながら、ライブ会場に旅立つことにしました。

コントをやるためには、必然的に荷物が多くなります。漫才師であれば、自分の衣装と靴で済みますが、コント3本とかやる時は、女装とか、靴とか、もろもろ、大きいリュックにパンパンに詰め込まなきゃなりません。重くて、腰も痛くて、男はつらいよと、涙ながら、這う這うの体で池袋に向かいました。

新宿駅に到着し、池袋行きの電車に乗り換えます。雨が降っていたので、いつもより車内は混雑しています。扉が閉まり、出発した矢先、電車が「キイイイ」と音を立てて、緊急停車しました。その大きい音から、一瞬遅れて、乗客たちは、いとも簡単に、進行方向の重力に負けました。ワッと揺れる車内。僕はかろうじて、吊り革に捕まっていたので、耐えられました。しかし、僕の少し離れたところにいた、小柄なアジア人留学生みたいな女性が、僕目掛けて、ミサイルみたいに飛んできました。そのあまりの衝撃で、僕の口からは、人生で初めて、ぐふう、といううめきが、漏れ出ました。い、痛い。

カタコトの日本語で「ゴメナサイ、ゴメナサイ」って、蚊の鳴くような声で謝る女性。本当に留学生だったのかよ。

「全然大丈夫。気にしないで」と僕は言いたかったけど、そういった余裕は、ひとかけらもないので、完全に無視しました。

僕は、今、優しくできない。腰が痛い。

気づけば、心の中で一句詠んでました。

これがジャパニーズカルチャーやで。留学生。外の世界と内の世界を繋げることがWABISABIや。

そして、5分ほどの点検の後、見事、池袋に到着。

一本目のライブは「ラスタ池袋昼寄席」という初めてのライブで、そこでは、開演の前に、街へ繰り出し、呼び込みをしなきゃならないとのことでした。雨の中、お客さんの呼び込みをしました。正直、この時がもう、腰が痛すぎて、本当に辛かったです。

「お笑いライブやってまーす。いかがでしょうかー?」と、道ゆく人に、声をかけます。先輩方が言うには、今日は、雨なので、いつもより難易度が高いそう。

そんな話をした後、僕の前に、若い女性が2人が歩いてます。目があったので、ニコニコして「いかがですか?」というと、2人は「見ていく?」「うん」と気軽にオッケーをしてくれました。僕は、なんと、開始数分で、初呼び込みを成功させました。これは、ギネス認定待った無し。

そこから、ライブ会場まで、女性をお送りするわけですが、僕の任されていた、エリアは会場から、一番遠いのです。ここのエリアを任された人は、芸人として、軽快なトークで女性をライブ会場までお連れしなくてはならないわけです。

最初の方は、少し笑いも交えて、女性と会話していたのですが、もうお分かりの通り、本当に一歩踏むごとに、腰が、ズキズキ痛むのです。笑うと痛むのです。これ、芸人として、致命的じゃないですか。道のり後半は、腰が痛いし、女性との会話どころでもなく、先導して、ライブ会場に着けばいいという気持ちになってました。

そして、ライブ会場へ女性2人を無事にお連れした後、僕は、元の持ち場に戻ることになりました。

大通りに戻ると、ヒロオクムラさんという、その日のラスタ池袋を仕切っている先輩から「兼子くん、もっと、お客さんに、質問して、盛り上げられる?」と声をかけられました。

「え?」ときき返すと、

「さっき、すごい険しい顔で、歩いてとったから」と言われました。

あちゃー。見られていましたか。ぼくの般若フェイス。

オクムラさんは「初めてで、お客さん呼べたのはすごいんやから、あとは色々質問すればええから〜」と優しく色々レクチャーしてくれました。

すごい親身にアドバイスをくれるオクムラさん。僕を会話が苦手な、人見知りだと思ってタメになることをたくさん言ってくれています。

そう、オクムラさんの言う通り、確かに、僕は、会話は続かなかったんです。

ただ、本当は、少しだけ、違うんです。オクムラさん。僕は女性との会話が苦手で、うまくいかなくて、険しい顔をしていたわけではないんです。

もう、腰が爆発するほど痛くて、もう、辛くて、早く、会場に着きたくて、険しい顔をしていたんです。

ただ、これ、すごく、言い訳ぽくて、ずっと黙ってました。

正直、この時も座っていたい気持ちでした。

僕は、今、話を聞けない。腰が痛い。

気づいたら、また、一句詠んでました。

そして、はじまったライブのオープニング、MCのオクムラさんは、「初めてのお客さんを、初めての演者が連れてきたんですけど、もう、会話も続かなくて、めっちゃ険しい顔してて〜」と、僕のことを面白いトークにして客席を盛り上げてくれたそうです。

その女性客も大いに頷いて笑っていたそうです。

裏で、「兼子くんのことつかわせてもらったわ」と言われました。

そして、全ネタが終わり、エンディングMCの全員集合で「オープニングの答え合わせをしよう」ということで、こいつこそがが「会話ゼロ、険しい顔してた芸人やで」と前に出させてもらいました。

そして、そのまま、少しトークをしました。結果的に、客席から笑いもとれました。

そして、ライブが終わりました。そこで、ハッと気づいたのですが、さっきまであった、腰の痛みが和らいでるのです。痛み止めが効いてきたのか、それとも、「笑い」がやはり万能の薬だからなのでしょうか。

すごく、不思議な気持ちになりました。

そして、そこから相方と移動して、新井薬師まで、バスで行きました。その頃には、腰の痛みもかなり引いていました。

2本目のライブは、たくさんの芸人が2分ネタをたくさんやるライブなので、養成所のネタ見せみたいな感じで懐かしくて楽しかったです。コント3本やって、帰宅しました。

香椎由宇に似てると思った。後輩、すずき
同期の大島

そして、僕は、終演後、ライブ会場に、皮靴を忘れて、後で、後輩に届けてもらうという、失態を犯してその日を終えました。

普通に、帰り道、荷物もってても、腰が痛くないから、よくなったと、勘違いしてました。ただ、靴の重さがなかっただけでした。

靴を届けてくれた後輩、佐藤、古屋。


ああ、本当に、この腰の痛みをどうにかしたいです。そして、もっと、会話して盛り上げられるようになりたい。

ただ、本当のことと、違くても、結果的に、笑いになれば、なんでもいいかということを思ったんです。

そんな1日でした。

今日から、少しライブがないので、お医者様の言う「安静」というものをやってみようと思います。

「安静」ってマジでどうやるのかわからないけど。

面白く書けずに、すみません。また書きます。


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