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器の世界

良いと思うものには、思いがけず出会う。

昨日のスピーカーに出会った同じ日、別の店でこの皿を見つけた。さほど明るくない店の壁に備え付けられた棚に、シリーズものの器としてマグカップや小皿とともに、ひっそりと並べられていた。

ふだん、あまりものは増やす方ではない。移動することが多いからということもあるけれど、あまりものに囲まれているとそれぞれへの愛着が薄くなっていってしまうような気がしている。けれどもその結果、あるいはその裏返しで、これだけは手元に置いておきたいというものへの感覚は先鋭化してくる。そしてこの皿もそうした部類のものだった。

静けさを感じさせる器だ。静謐という言葉の方がしっくりくるかもしれない。いろいろな濃淡、密度の青が不規則な渦を描き、そのなかに星雲のように白の帯と黒い微小な点が散る。ふちどりは炎の芯のような茶色。写真では伝えきれないけれど、両の手のひらで抱えてもやや余りあるほど、それなりの大きさがあって、そしてずっしりと重い。その重みを感じながらこのきれいな円形を覗いていると、ちょうど自分の顔をおさめるほどの視野にある青がどんどんと広がって、やがて吸い込まれていくような感覚におちいる。海のような、広く深く、心を落ち着かせる青。
裏返してみれば、そこには完全な黒が広がっている。漆黒。顔が映るほど、触れば指紋の残るほど、純粋で崩れようのない黒だ。高台に残る地の白が、かえってその非現実性を際立たせている。複雑で不規則な文様から成り立っていた表面の、その背中合わせのすぐ後ろ側に、埃のひとつすら許容しない黒単色の顔があるという妙。

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たかだか一枚の皿、数十グラムの土のかたまりの中に、大きく深い世界が広がっていて、いくら見ていても飽きない。

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