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小噺 ハイヒール

何度かデートしてだいぶ気心知れた間柄になった男性との話。

彼はニューヨークではそれなりに稼ぐ、お金には困らない人。ある時、ニューヨークを出て、数日旅行に行くことにした。そして、せっかくのバケーションということで、その夜はカジノに行くことになった。

普段はジーンズにスニーカーの私も、今夜は張り切ってハイヒールを履いてドレスアップ。化粧も念入りにして、こういうのも悪くないなとワクワクする。
さてさて、ギャンブルの前に腹ごしらえ、ディナーをすることに。ホテルから5分のレストランなので、慣れないハイヒールも心配などしていなかったが
「ハイヒール履くのはじめてだね、すごく素敵。Uber呼んだよ。」と。

歩いて5分だよ?大丈夫なのに!と言いつつ、お洒落した私に気遣ってくれたのが内心嬉しい。女性の扱い方に慣れてるなアメリカ男子、さすが、と思いレストランに向かい、素敵な食事にまた満足し、プリンセスにでもなった気分だった。うん、たまにドレスアップするのも悪くない。

すると彼が、常用薬をホテルに忘れたらしくホテルに戻りたいと言い出した。全然構わない、どうせ歩いて5分だし。散歩がてら歩こうと提案すると「いやUber呼ぼう。」と頑な。

私歩けるよ?さ、行こう。と促すと「今日はキャッシュ(現金)持ち歩いているから夜道を歩きたくない。」はは〜ん、全てはこれだったか。

そう、アメリカでは防犯のため、基本的にキャッシュを持ち歩かない。そしてカジノでギャンブルをする場合、キャッシュからチップに換金する。だから彼は今夜、ギャンブルのために普段持ち歩かないキャッシュを数千ドル分持っていたのだったので、それを持って夜道を歩けない(車がいい)と言うことだった。ドレスアップしたかわいい私のためのエスコートではなく、キャッシュのためだったのだ。心から悔しい。でも見事なオチに笑いが止まらなかった。


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