見出し画像

ICTを駆使した広東省博物館のシステム

 少し前のことになりますが、南京市大報恩寺遺跡博物館の王興平館長のご紹介で、広東省博物館に見学に行きました。見学といっても、バックヤードの収蔵品管理や館内システムの調査が目的でした。収蔵部の責任者である黄静先生にご紹介いただいた広東省博物館の管理システムについてお話しします。毎年アップデートを重ねていると聞いているので、既に大きく変わっているかもしれませんが、日本と比べてかなり異なる部分がありました。

 黄静先生には、日本での収蔵品管理のついてご紹介し、広東省博物館でのICTを活用した取り組みについてお話をうかがいました。
 詳しい説明をしてくださったのは、上級システムエンジニアの郭舒琳(かく しゅくりん)さんです。博物館をリニューアルした2010年から、管理システムの構築を進め、もうすぐその3期目に入るシステムをご紹介いただきました。

笑顔の素敵な郭舒琳さん


 博物館の管理システムの主要な機能として、グループウェアによくあるポータル画面に、スケジュール、TODO、ワークフローによる承認システム、収蔵品管理システム(貸出機能付き)、SNS連携(wechat、weiboなど)、屋内測位システムによる館内混雑状況モニタリング、展示施設内の来館者の人気度モニタリング、ホームページのアナリティクス機能、勤怠管理などの機能があるそうです。 

管理システムの画面(詳細がわからないように加工しています)

 これらのシステムを、準備期間(2015年)、第1期目(2016年)、第2期目(2017年)と、国の補助金もあわせて毎年改善を重ねて、新たに構築したそうです。こうしたシステムの構築の背景には、年間150万人、1日最大5,000人にもなる来場者が、どのように回遊しているかや、どの展示が人気なのかなどを数値化することで、次の展示計画に活かしたいというねらいがああるそうです。
 展示のスペースだけでも、日本の東京国立博物館のすべての展示面積を合わせたより少し広い約2万平米あるそうです。館は、特別展をのぞき基本無料です。

 館内では、館内の混雑状況をWi-FiやBeaconを利用して15秒ごとにリアルタイムでカウントし、同時に日毎や週間などの人数はスタッフが計算し、デジタルとアナログの情報を組み合わせて数値化しているとのことでした。 

 また、約16万6,000点にもなる収蔵品管理は画像とメタデータによる通常の情報の他に、今後は個別の管理状況をモニタリングし、各収蔵品に最適な管理環境にあるかどうかチェックする機能とも連動していきたいと言われていました。ちなみに、日本の国立博物館4館の合計の収蔵品の数は、12万7,453点(平成29年3月31日の時点)ですから、数だけを比較するとそのスケールに驚かされます。

 また、他館への収蔵品貸出についても、上司への承認やホームページへの掲載許可もこのシステム上で行うことで、どの収蔵品をどの頻度で貸出しているか、ホームページなどへ掲載しているのかなど記録しているとのことでした。収蔵品の状況を、館の誰もが見る事ができる事がポイントだと言われていました。

 さらに、どの展示物やコンテンツに人気があるかの分析や、中国のチャットアプリのWeChat公式アカウントを利用した展示品紹介ガイドもシステムを使って配信・運用しています。
 実際の展示物前での人の滞留を可視化したデータは、一部の博物館関係者の間で共有され、混雑時には誘導を行い、事故などを未然に防いでいるとのことでした。

 館内のガイドシステムの、外国人対応について聞いてみると、来場者の殆どが中国人で、外国人は5%程度とのことで、英語以外の多言語対応は、もう少し先の対応だと言われていました。
 音声ガイドは、中国語と英語に対応した専用のガイドシステムの他に、wechatのシステムを利用したガイドにも対応しており、音声ガイドの利用状況もモニターしているとのことでした。

 担当の郭舒琳さんによると、新たに館を建てた際にそれに合わせてシステムを構築したため、このような取り組みが可能でした。しかし、既存のシステムにこのような考え方を取り入れるのは、この期間ではとても難しいでしょう、とのことでした。
 広東省博物館の現在のシステムや取り組みについても、今後ご紹介できればと思います。
私たちは、こうした他国の事例も参考にしながら、よりよいミュージアムの管理システムをつくっていきたいと考えています。
--------------------------------------------------------------------------------------

広東省博物館 外観

 広東省博物館は、1959年に設立され、2010年に建築面積4万平米、展示面積が2万平米、収蔵品が約16万6,000点の施設としてリニューアルオープンしました。設計は、国際コンペで優勝した香港のRocco Design Architectsによるものです。建物の外観は、「珍宝容器」という中国古来の透かし細工の意匠を凝らした宝石箱のイメージだそうです。
開館時間:火曜~日曜の9:00-17:00(入場整理券配布:8:50~16:00)
定休日:月曜(祝日や特殊な場合を除く)
入場券配布:8:50~16:00
入場整理券配布:8:50~16:00

注意事項
1、広東省博物館の入場料は無料ですが、入場者数には5000人/日の制限があるため入場整理券が必要となります。
2、館内では毎日午前10時と午後3時に中国語によるガイドツアーが行われます。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!