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「自分で考えろ」というバカほど陰謀論に陥るよねという話

ポジティブでバカな陰謀論者

 反知性主義は「バカ」みたいなニュアンスで使われやすい言葉に思う。「お前バカだな」という感覚で「お前反知性主義者だな」という感じで使われている場面をよく見る。でも、反知性主義は、バカという意味ではない(このことは「反知性主義者の中にバカはいない」ということを意味しない)。著述家の木澤佐登志はその意味を次のように説明している。

反知性主義はまずもって「知性」を不当に(?)独占する知識人階級のエリートたちに対するアンチテーゼとして理解する必要があるだろう(中略)。

(木澤佐登志 『失われた未来を求めて』)

 反知性主義とは、知性の特権を批判している思想だ(というと少しわかりにくいかもしれない)。簡単に言ってしまえば、学者や専門家、専門機関などを批判し、自分たち大衆も専門家と同等なレベルに物事を知っているのだと考える思想だ。神学者の森本あんりも「反知性主義」の意味を次のように説明している。

反知性主義は単なる知性への軽蔑と同義ではない。それは、知性が権威へと結びつくことに対する反発であり、何事も自分自身で判断し直すことを求める態度である。

(森本あんり 『反知性主義』)

 反知性主義は「知性が権威へと結びつくことに対する反発であり、何事も自分自身で判断し直すことを求める態度である」。この指摘は非常に重要である。

 反知性主義者は「専門機関の言うことを鵜吞みにせず、何事も自分自身で考えろ」という。この姿勢は、近年の「マスコミ(という専門機関)は真実を報道しない。自分たち自身(裏取りのアマチュア)で考え、真実を見つけ出し、それをSNSで流すしかない」と必死に(非専門的で)無知な人々が考えた間違った情報(デマや陰謀論)を真実と勘違いし、垂れ流している状況と非常に似ている。

 「ワクチンが安全という専門家や公的機関はあてにならない。専門家や公的機関の言い分など聞く必要はない。自分自身で考えれば自ずと『ワクチンは危険だ』と気づけるはずだ」と言っている陰謀論者とも重なる。

 陰謀論者たちは、専門家や公的研究機関を疑う。「奴らは嘘の情報を流しているに違いない」と。

 しかし、何故か陰謀論者たちは「自分自身で考えれば正しい答えがわかるはずだ」と自分自身の知性は絶対に疑わない。専門家は疑うが、自分自身が間違う可能性は全く考えない。自分は賢く、真実に到達できるほど賢いと信じて疑わない陰謀論者たちは非常にポジティブなバカだろう。著述家のジャン=クロード・カリエールの言葉を引用しておこう。

 もっとも愚かなのは、自分を頭がよいと思いこむことでしょう。「わたしは世の中のあらゆることを知っていて、すべての人間を理解できて、明白で明晰できちんと整理された考え方ができる」と、信じている人です。「わたしは確実なやり方でこの状況を分析できる自信がある」などと口にする人間は、本物のバカです。

(ジャン=フランソワ・マルミオン (編著) 『「バカ」の研究』)

 自分自身で考えれば絶対に正しい答え(真実)に辿り着けると勘違いし、自分の知性だけは疑わない反知性主義者の自惚れはダニエル=クルーガー効果で説明ができる。

知識のない人ほど、自分には能力があると過大評価してしまう効果のこと。一方で、知識が豊富だったり能力が髙かったりする人は周囲も同じだけのものを持っていると考え、自分を過小評価する。

(情報文化研究所 『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』)

 簡単に言ってしまえばバカほど自分を賢い(物事をよく理解できている)と思い込むわけだ。反ワクチン的な態度を示す人間ほど学歴が低いことを示す興味深い調査もある。

・22%

高卒・中卒の人の割合:モーニング・コンサルトの調査では、ワクチンに対する考え方と学歴には関連性がみられたという。絶対に接種を受けないという人は、大卒者の10%、修士号取得者の7%だった(すでに接種を完了した人の割合は、それぞれ78%、83%)。

(ワクチンを拒否する米国人に見られる傾向は? 職業や性別で分析)

 Swamiら(2011)は、(中略)陰謀論への同意傾向と、様々な心理的傾向の相関を調査した。(中略)またオーストラリア人二八一名を対象に架空の陰謀論を使った同様の調査を行い、別の陰謀論を信じること、超常現象を信じること、結晶性知能(経験や学習によって身に着けた知識・技能)が低いこと、と相関があったことを示した。
 Douglasらが過剰な主体性検知と陰謀論的信念の相関を指摘したことは既に述べたが、この研究では、教育水準と陰謀論的信念との間に、主体性の帰属によって媒介される相関がある、という結果も示している。つまり、教育水準が高いほど、不適切な「擬人化」傾向が抑えられ、それを介して陰謀論的信念との相関も弱まった、ということである。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 陰謀論にはまる人間ほど教育水準が低く知能が低い傾向にあるという興味深い調査だ。

 また、こんな興味深い調査もある。それはニュージーランド・オタゴ大学の心理学者リッチー・ポールトンらの研究チームが行った、国語の理解力(例えば、文章を読み解く能力など)と陰謀論との関係を調べた調査だ。

また今回の分析では、ワクチンへの抵抗感がある人の中には幼少期から認知能力に問題があった人も見られたとのこと。具体的には、高校生時代に読書が苦手で、国語の理解力や処理速度に関するテストのスコアは低めでした。「長年にわたり認知力が欠けていれば、誰だって健康に関する複雑な情報を理解することは困難なはずです。このような理解力の低さと、ワクチンに抵抗感がある人によくある極度にネガティブな感情とが結びついたとき、医療従事者には不可解なワクチンへの考え方が形成されるのではないでしょうか」と、ポールトン氏らは指摘しました。

(『反ワクチン派になる人は「児童虐待や親がアルコール依存症など悲惨な過去」を持っている場合が多いとの研究結果、認知機能との関連も』)

 陰謀論者は「認知能力に問題があった」のだ。陰謀論者は国語が苦手であり、リテラシーが低いことが陰謀論に陥る原因になっていると考えられる。ニュースを読んでも、本を読んでも正しく情報を読み解けない。だとすれば、誤った情報を信じ、陰謀論に陥るのも無理はないだろう。

 彼ら陰謀論者は文章を読み解く能力が低いのではないかと言うことを私は以前から指摘していた(https://note.com/koppepan01414/n/n608a176d8e14)が、実際にそれが証明されたわけだ。

 文章から意味を読み解く能力が低い。文脈を読み解く能力が低い。だから、情報を正しく読み取れない。国語の理解能力の低さは論理的に物事を読み解く能力の低さに直結する。それを表すような興味深い調査があるのでそちらも紹介しよう。

Michael J. Woodら(2012)の研究では、互いに矛盾する陰謀論でも支持率に正の相関があった。「ダイアナ妃は死を偽装した」と考える人ほど、「ダイアナ妃は殺害された」と考える人が多かったのである。また、米国特殊部隊の急襲時にはオサマ・ビン・ラディンはすでに死亡していたと考える人ほど、彼がまだ生きていると考える人は多かった。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 これらの調査で陰謀論者は明らかに論理的に矛盾した陰謀論的信念を持っていることがわかる。彼ら陰謀論者は論理的思考力が低いのだ。だから、証拠や事実に矛盾するような物語(陰謀論)でも信じてしまうのだろう。


陰謀論は無敵の論理

 しかし、これだけ陰謀論者にとって不都合な研究や調査を示しても、おそらく陰謀論者は受け入れないだろう。というのも、バックファイア効果が働くからだ。

バックファイア効果・・・自分の考えに合わないことに出会ったとき、これを否定しつつ、自分の考えにさらに固執してしまう傾向

(池谷裕二 『自分では気づかない、ココロの盲点』を基に構成)

 このバックファイア効果によって、いくら陰謀論やフェイクニュースを信じている人にファクトチェックで事実を伝えたとしても有効ではないのではないかという指摘がある。

 よく知られているのが、自らが信じている考えを否定されると、かえってその信念を強めてしまう「バックファイアー効果」だ。
 「バックファイアー効果」について政治ブログでフェイクニュース研究をおこなっているダートマス大学のブレンダン・ナイハンらは、ニュース記事を訂正すると逆に間違った情報を信じ込んでしまうと指摘し、ファクトチェックの有効性に疑問を投げかけた。

(藤代裕之 『フェイクニュースの生態系』)

 ほとんどの陰謀論者たちは、(基本的に)いくら陰謀論が間違っているという事実を示されてもそれを受け入れようとはしない。バックファイア効果によって、益々、陰謀論にのめり込むだけだ。

 陰謀論を否定すればするだけ、陰謀論者は「真実だから否定されるんだ!」と益々勘違いを強めていく。

 こうした状況において、陰謀論が厄介になるのは、いわゆる「バックファイア効果」ゆえである。陰謀論はわかりにくい現実を理解可能なものにし、自分の正しさを補強する性質を持つ。さらに、批判されるとかえって陰謀論は確証を得て(私たちの主張こそ正しいから隠そうとするんだ!)、反復と相互引用によって強化されていく。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 陰謀論を否定すればするほど、陰謀論は真実味を増してゆくというのは何とも皮肉な話だ。

事実誤認の指摘や反証は必ずしも陰謀論を揺るがせない。むしろ、否定されてこそ陰謀論は成立する。「真実は隠されている」のだから、否定され、認められないのが当然なのである。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 陰謀論者にとって不都合な調査や研究は捏造や虚偽として退けられ、自分たちにとって都合の良い情報だけが受け入れられるのだから陰謀論には、ある意味で反証不可能性がある。

 陰謀を証明する証拠は真実であり、陰謀を否定する証拠は虚偽である。Brian L. Keeley (2006)は陰謀論の特徴として、陰謀を反証する証拠が、逆に陰謀を証明する証拠として解釈される点を指摘する。「ある理論を支持する証拠が当局によって積み上げられれば積み上げられるほど、陰謀論者は「彼ら」がいかにひどい公式のストーリーを私たちに信じさせようとしているかを指摘するのである」
(中略)
 あるいは陰謀を証明する証拠がないこと、それ自体が陰謀の証拠とすらなる。陰謀があるのは確実なのにどれだけ探してもその証拠が無い、それはつまり、それだけ陰謀勢力が強大で周到であることを示しているのだ、という具合である。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 こうした不都合な証拠は無視し、「陰謀を証明する証拠がないこと、それ自体が陰謀の証拠」とするようなバカな陰謀論者を相手にしていても時間の無駄なのだろう。彼ら陰謀論者は事実を無視し、陰謀という信仰に取りつかれたカルトなのだから。


反ワクチンは何故バカげているのか

 当初、反ワクチン陰謀論者は、「ワクチンを打った人は2年以内に死ぬ」と言っていたが、その2年が近づいてきて予想が外れそうになった瞬間「5年以内に死ぬ」とこっそり修正しているのが何とも滑稽だ。


 5年に近づけば「10年以内」、10年に近づけば「15年以内」みたいに修正し続ければ、陰謀論者の予想は絶対に外れないだろう。当たるまで修正し続ければいいのだから。

 いずれワクチンを打った人が寿命で死んだときに、「ほらみろ!ワクチンを打ったから死んだ!」とかいうのだろうか(笑)。それがありならば、「水を飲んだ人は200年以内に死ぬ。だから水は危険だ」と言っているのとほぼ同じようなものなのだが(笑)。

 それに反ワクチン陰謀論者にとって不都合な事件や事実はすべてワクチン肯定論者の捏造や自演自作だと言えば、いくらでも反ワク陰謀論者は無敵になれる。

 反ワクチン活動家が起こすテロ行為も「反ワクチン活動の印象を悪くするために、ワクチン肯定論者の誰かが仕組んだことなんだ!自作自演だ!」とか言っておけば、反ワクチン陰謀論者がどんな悪さをしようが自分たちは知らぬ存ぜぬで済む(しかも、それどころか自作自演したワクチン肯定論者が悪いとアクロバティックな主張ができる)。そりゃ最強だよ、陰謀論者は(笑)。

 全部不都合なことは「それこそが陰謀だ!」で片付くわけだし。頭使わなくても良いわけだ。陰謀論者がバカばかりなわけだ。

 「謎の感染症が流行ってるって?それはディープステートの仕業さ!奴らの陰謀なんだ!」「地震が発生したって?それはイルミナティが核実験を地下でやったのさ!奴らの陰謀だ!」みたいな、「すべて奴らの陰謀」で済むわけだし、馬鹿の一つ覚えとして「それはイルミナティの仕業」「それはディープステートの仕業」「全部陰謀なんだ」と言っておけば、あとは複雑なことを考えなくていいものな。「陰謀の仕業」というだけですべて理解でき(た気がす)るものな。

 世界は陰謀に支配されているという見方は、陰謀があらゆる出来事についてのデフォルトの説明となる、「単一理論の信念体系(monological belief system)」に行き着く(中略)。陰謀論の世界観では、世界の全てが陰謀のフィルタを通して解釈される。逆に言えば、世界は陰謀の視点から解釈するだけで全てが明瞭に理解できる。

(井上弘貴/渡辺靖/石戸諭/木澤佐登志/中尾麻伊香/仁木稔/吉永進一 『現代思想 2021年5月号 特集=「陰謀論」の時代』)

 ”個人的に”「ワクチン怖いから打たない」は別にいいのだが、「ワクチン打つな」と他人にまで強制したり、「ワクチンにマイクロチップが含まれている」などのワクチンに関するデマを流すのはどう考えてもダメだろ、と。

 そういうことがずっと陰謀論者には指摘され続けているのだが、陰謀論者は読解力がない人が多いためか、まったく会話が嚙み合わないことが多い。

 ワクチンに関する不確定なことを確定した事実のように言うな、明らかな嘘をつくなという指摘がされているにもかかわらず、反ワクの人たちってそういう指摘に「でも、ワクチンの安全性はまだ途中段階までしかわかってないんだ」みたいなズレた応答しか出来てない人が多い。

 ワクチンの安全性が途中段階までしかわかっていないのであれば、そのワクチンについていくらでも嘘や不確定なことを言っていいという免罪符になるわけではない。

 それに、確かに、ワクチンの安全性は途中段階までしかわかっていないが、それを承知の上で打ったほうがいいと判断したからこちらは打ってるんだよと思う。

 例えば、スマートフォンやパソコンの電波だって、100年後、200年後の人類にどんな影響を与えるのか正確なことはわかってないけれど、それでも多くの人はスマホやPCを使ったほうがいいと判断して使っている。

 それと同じでワクチンだって、100年後、200年後というような長期的なスパンではどうなるか分からないが、少なくとも、今現在、ワクチンを打たないことよりは、まだ打ったほうが安全で、合理的だと判断する人が多いから打たれてるんだよ。

 なぜ、反ワクはそれがわからないのか....(おそらく、読解力と知能の問題)。

 なんにせよ、「反ワク陰謀論者」や「コロナ存在しない陰謀論者」がそのコロナにかかって、死んでるのは笑えないな、と。

補足

 先ほどワクチンの長期的安全性に関する話をスマホやPCの電波の長期的安全性を例に説明したが、反ワク陰謀論者は「長期的な安全性のわからないワクチンを打つべきではない」というのであれば、同じ長期的な安全性のわからないスマホもPCも使うなよと思う。

 都合よく、ワクチン以外の長期的な安全性のわからないスマホやPCを使ってるあたり、完全にダブルスタンダードなの気づけよと思う。

 そこまで言うなら、せめて筋を通して、スマホもPCも、その他の長期的に安全性のわからないものもすべて使わず、非文明人として勝手に生きていってくれと思う。

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