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日本刀全般の入門書としても読んで欲しい『備前刀』

最後に美術館に行ったのはいつだっただろうか……と遠い目をしたくなる現状が続いています。
しかもそれがどうやらまだまだ続きそうです。
ほんと勘弁して欲しい。

先月、岡山県の備前長船刀剣博物館で山鳥毛の展示がされていましたが、その流れで「この本オススメ」とTwitterに流れてきたのが『備前刀』。
幸い書店で取り寄せができたので、ポチッとしてから数週間後に購入できました。

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備前刀は、現在で言うところの岡山県南東部にあった備前国で作られた日本刀のこと。
特に吉井川下流域で備前刀が盛んに作られていました。
福岡一文字とか長船とか、刀剣乱舞やってたら聞いたことあるような流派が生まれたのが備前です。
この本によると、備前刀は「よく鍛えられた精美な地鉄と、明るく冴えた華やかな刃文」が美点だそう。
なるほど、福岡一文字も長船も、刀剣男士はみんな華やかな成りをしていますね。

『備前刀』目次
第1章 日本刀と備前刀(日本刀の王者備前刀 岡山県内の主な鍛刀地 ほか)
第2章 備前刀を観る・識る(日本刀図解デジタル写真でみる備前刀 ほか)
第3章 備前刀のつくり方(刀装具からみる日本刀文化 現代刀匠の挑戦―古名刀からヱヴァンゲリヲンまで)
第4章 備前刀の産地をめぐる(銘の見所 日本刀にまつわる諺)
第5章 備前刀鑑賞博物館ガイド(岡山県立博物館 備前長船刀剣博物館 ほか)

著者は一人が東京国立博物館、もう一人が備前長船刀剣博物館を経て現在は林原美術館で学芸員として勤務している方々。いずれも専門は刀剣を始めとした工芸。
展示物を解説することに長けているからでしょうか、この本もとても分かりやすかったです。

初心者向けということもあって、日本刀の基礎的なことを踏まえつつ、備前刀に特化した記述もあり。
個人的に理由が知りたかった「なぜ備前長船が栄えたの?」の解答があったのが、ちょっとうれしかったりして。

備前刀は銘に製作年を刻んだものが多く、そのおかげで日本刀の変遷がたどりやすいそうです。
また、備前刀は刀工も多ければ、国宝や重要文化財に指定されているものも多い。
日本刀を知りたいと思ったら、備前刀に関して知っておくのも良いのではないでしょうか。
日本刀の時代別の特徴と、その特徴の理由なんていうのも書いてあります。
たとえば室町時代前半は北山文化の繁栄を背景にして、優美な作風が好まれていたとか。
日本刀の作風も、しっかり時代の流れを反映していたということが分かります。

ムック本より画像が少なく、文章量がとても多いです。
刀の画像がいっぱい見たい! という人には向かないです。
刀の持つ逸話についてたくさん知りたい! という人にも向かないです。
ただ日本刀の歴史について、見方について資料的なものが欲しい、という人には良いと思います。
文庫サイズで156ページと、コンパクトだけど基礎的なことがギュッとなってるので、近くに置いておいて気になることがあったらペラペラめくる、というような使い方もできそうです。

巻末には参考文献と推薦図書も羅列されています。
もうちょっと突っ込んだことを知りたい人への道筋まで用意されているし、今までちょっと日本刀の関連本読んで少しは知識あるよ、という人でも満足できそうです。


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