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『丁子と肉桂のガブリエラ』ジョルジェ・アマード

丁子はクローブ、肉桂はシナモンです。皆さんはスパイスの香りが好きですか。私は昔から大好きで、タイトルを初めて見たときからとても気になっていた本でした。

舞台はバイーア州の町イリェウス。イタブーなという町も出てきます。(後者はジョルジェ・アマードの出身地)

イリェウスが町として大きく発展を遂げている真っただ中に生きる人々を描いています。政治的対立、町の抱える港問題、街での恋愛関係、女が浮気をしたら殺されるというしきたり、等々、発展の中、新しいことと慣習に揺れ動く町の様子がとても細かく描かれていて、実際にその町の暮らしを覗いているようです。

そしてタイトルにもなっているガブリエラ。彼女とアラブ系の男性ナシブ、この二人の関係を中心としながら、物語が進められていきます。彼女は料理人としてナシブに雇われることになり、そこから話はスタートします。タイトルは『丁子と肉桂のガブリエラ』、とスパイスの名前が彼女の名前とともに並べられています。それは彼女が料理人であることという事実をほのめかしつつ、彼女が体から香らせるその匂いが魅惑的だということも意味していると思います。

ガブリエラは美しい女性で、作中ではとても官能的に描かれます。そうしたエロチックな点は当時の読者を惹きつけた点の一つだったのだろうと思います。実際、この作品は映画化されるほど人気を博しています。官能的であること、それ自体が悪いとは思わないけれど、感想としてとても男性的な目線で描かれた女性像だなと感じました。女性の恋愛感情も描写されますが、男性の理想、妄想的なイメージでキャラクタができている部分もあると感じました。

ジョルジェ・アマードの事を調べると、彼の作品の特徴を前半、後半と分ける考え方があります。そしてその後半のスタートとなった作品がこの『丁子と肉桂のガブリエラ』だそうです。彼の前半の作品は社会問題や政治問題に関することを取り扱ってきたのに対し、後半では、より民衆的なシーン、日常的な場面そしてセクシーな女性たちを描く、といった特徴がみられます。ガブリエラの作品はそうした特徴を備えた1番目の作品だそう。

この作家の『砂の戦士たち』という日本語訳も出ている長編小説がありますが、私としてはこちらの方がずっと気に入りました。(私のブログにもあるのでみてみてください)『砂の戦士たち』は1937 年に出版されたもので、ジョルジェ・アマードの前半期に当たる作品です。是非こちらも手に取ってみてください、とってもおすすめです。


原書:Gabriela, Cravo e Canela (Jorge Amado) 1958


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