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患者とのトラブルも,法的根拠で余裕のある対応を――『〈続〉もつれない患者との会話術』編著者・大江和郎先生インタビュー

患者とのトラブルになりやすい場面を,会話形式での具体例と法的根拠を示して解説するwebコンテンツ「〈続〉もつれない患者との会話術」が, 2021年5月に配信となりました。

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今回は編著者の大江和郎先生(元東京女子医科大学附属病院事務長)にコンテンツの魅力やおすすめの使用方法など,インタビューを行いました。

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大江 和郎(おおえ わろう)先生
1975年明治大学法学部法律学科卒業,同年4月に東京女子医科大学庶務課入職。医事課,看護部,広報室,学務部等の業務を経て退職。現在は医療業務コンサルタントとして,長年の大学附属病院事務長の経験を生かし,医療安全対策,マスコミ対応,患者クレーム対応などの講演活動に取り組まれています。
在職中から執筆活動を行い,著書に『アカシア病院物語:パート1~3(全3巻)』(医学通信社),『医事業務と法律』(産労総合研究所),『改訂医療保障』(建帛社),『医療事故緊急対応マニュアル』(産労総合研究所),『もつれない患者との会話術』(日本医事新報社)など。


――早速ですが,本書の特徴を教えてください。

医療機関におけるクレーム対応に関する書籍は数多くあります。また,法律の専門家が執筆している書籍も多く出版されていますが,本書の特徴は,1つ1つ事例を取り上げ,対応の際の根拠を示して解説していることです。

このような形式の書籍は今まで少なかったと思います。患者の中には「根拠を示せ!」という方もおり,窓口担当者が返答に苦慮する場面も少なくありません。そのような時に法的根拠を持ち合わせていることで,余裕のある対応ができるのではないかと思います。

また,本書の魅力としては,長年医療機関で実務を経験してきた筆者が解説していますので,法律に縁遠い医療従事者にとっても理解が深まると思います。

最初から読み始めても良いですし,あるいは気になる事例から読み始めてもかまいません。

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1つの項目は,①会話形式の事例紹介,②良い例・悪い例,③ポイント,④解説,⑤関係法令,⑥参考文献,などで構成されています。
――本コンテンツでは70の事例を取り上げていますが,先生が実際に経験したなかで印象的なトラブルはありますか?

今も思い出す事例としては,担当医の作成した診断書に文言の修正があって加筆した際,その診断書の余白欄に院長自筆で修正したことの証明を記載してほしいという患者家族の要求です。

診断書は医師個人の責任のもと作成する文書であり,作成した診断書の余白欄に,さらに院長自筆で記載するような診断書は見たことも聞いたこともなく驚いてしまった次第です。患者自身が認知症でクリアな状態の時の診断書が必要だったとのことで,父親死後の兄弟による財産相続争いも想定してのことでした。今後益々相続絡みの診断書作成および修正等が増えてくるものと思われます。

――「させない!つくらない!モンスターペイシェント」という副題に,単に「うまくクレームを処理しよう」という以上の患者さんへの思いが感じられますが,いかがでしょうか?

医療に従事している者は,おおむね心優しい方であり患者に寄り添って診療に取り組んでいます。また,患者もほとんどの方は医師を信頼しており,医師と患者双方の信頼関係が構築されていると思います。

患者に寄り添う診療を意識するも,保険診療のルールに則っての診療となり,そこには自ずと制約が生じてしまうことで,診療に対する不満が鬱積してしまうのです。規制のある各種法律の中での診療であることを,患者に理解してもらう努力も必要と思います。

――お互いに情報を共有し,理解しあうことで,事前にクレームを防ぐということですね。
――診療にあたる医師はもちろん,病院業務にかかわる職員の方,それぞれの読者の方に「こういうふうに役立てて欲しい!」というメッセージはありますか?

本書は,もともと窓口担当者向けに執筆したものですが,もちろん医師や看護師等医療に従事している方,そして保健所等の患者相談窓口を担当している方にもお読みいただきたいと思っています。

患者にとっては,「困っているので何とかしてほしい」という要求を満たしてくれないことで融通の利かない医師(医療機関)と映るのですが,それは融通が利かない医療機関の事情を知らないためです。

長年,医療機関は「守秘義務規定」を盾に,積極的に情報発信をしてこなかったため,医師(医療機関)の立場・事情を知らせることはほとんどありませんでした。保健所に寄せられる苦情からも,医師(医療機関)の立場・事情を知らないがためのものが多数見受けられるのはそのためです。

本書では,患者の「困っているから何とかしてほしい」に対して,公法上の契約のもと制約のある医師(医療機関)の対応を解説していますので,患者対応時の説明に役立ててほしいと思います。また,保健所等の患者相談窓口担当の方には,患者からのクレームに対し,医師(医療機関)がどのような根拠で対応しているのかを理解していただければと思います。

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患者とトラブルになりやすい個人情報保護法についての解説と,よくある質問をまとめたQ&Aも収録。
――最後に,読者に向けてメッセージをお願いします。

クレームは事業を行うすべての企業において避けることの出来ないものです。そして患者の「困っている状況」が解決されない限りクレームは解消されません。

保険診療のルールに則って「出来ること」「出来ないこと」を患者には明確に説明すること,そして従事する職員全員が共有することです。患者の威圧的な態度や,長引く患者との話し合いに根負けして法に反する行為を行っても,罰せられるのは医師であり医療機関であることを肝に銘ずる必要があります。

良い意味で患者と対等の立場を守り,良好な関係を築いていきましょう。

この記事に関する書籍
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▶『もつれない患者との会話術〈第2版〉』webコンテンツ

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