【書評リレーマラソン⑤】『解剖から理解する頚椎診療』―臨床経験と解剖に基づいた自身の考えで頚椎臨床に真摯に立ち向かう姿勢に共感
本書を読んで
頚椎分野では,わが国(特に整形外科)は神経症候学の面で非常に優れた業績と歴史を持ち世界をリードしてきた。手術手技的にも,神経根症に関してはわが国独自の発想に基づく手技はあまりないが,脊髄症に関しては特に長大なOPLLに対する前方除圧固定(浮上術を含む)の開発・実績に代表されるように,他国の追随を許さないほどの高レベルの手技も実践されてきた。
一方,頚椎変形に関する知識と治療技術は,わが国の臨床レベルは決して高いとは言えない。この分野での低迷ぶりには常々危機感を覚えている。私の知る限り欧州,中国,ブラジル等の頚椎変形に関する治療技術は相当高度であり,一方米国のそれは実は後塵を拝し,日本も同様である。本書はそのような状況の中でも,北米中心の情報に引きずられることなく,臨床経験と解剖に基づいた自身の考えで頚椎臨床に真摯に立ち向かっており,その姿勢に共感を覚えた。
スマホやゲームの影響で「ストレートネックが急増」「側弯症が増加中」といった明らかに誤った情報が,時に医師からも発信されている恐ろしい現状を憂える者として,本書の普及とそれに伴う啓発効果に期待してしまう。本書により基礎知識をスッキリと脳内整理し,現行の疾患概念や一般的とされている治療法の正当性を考え直す良いきっかけになればと思う次第である。
私の頚椎診療
私はもともと「頚椎は9個」と考えて診療に臨んできた。後頭骨・頭蓋底(C0)~ C1-C7 ~ 第1胸椎(T1)が“頚椎柱”を形成していると考えてきた。環椎~軸椎頭側は発生学的に”頭”のお仲間であることはよく知られたことであり,頚胸移行部の奇形椎による変形手術や頚胸椎移行部を展開するたびに「C7とT1の形態的類似性」を実感する。だから頚椎矢状面アライメントを論ずる際に,いまだにC2~C7角を指標にしている発表を見ると「患者さんを素直に見て,そういう発想になるかな~?」と疑問に思わざるをえない。
頚椎疾患による脊髄症に対し前方除圧固定と後方除圧(椎弓形成術等)の両者を経験すると,明確な理由を他者に説明できないが「前方は術後がすっきりしているな〜」と感じる。私は神経症状やその他の所見,術法等に関し,こういう臨床的な感覚がすごく気になり,かつ大切にしたいと考えている。そこからまた,何かが見えてくるような気がして。
書籍概要
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