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私の人生を破壊した『APD』を1年間かけて考察してみた(2022/5/16更新)

#X日間やってみた

本記事は、当方が運営するブログにて投稿していた記事群を再編・統合したものになります。内容は、聴覚情報処理障害(以下APD)についての考察です。最新の研究や現在判明している情報、また当事者様の声などを参考に執筆いたしました。個人的な経験による理論や、独自の解釈部分等も含まれますのでご了承ください。

5/16追記
《コラム④》に関して、新たに考察を加筆しました。

【まえがき】

やっぱり耳がおかしいと思う…
当時はどれだけ家族や病院の先生に訴えても、返ってくる台詞はいつも同じでした。
気のせい
聴力は正常です
聞こえの悪さに気付いて20年強。2021年3月、私は28歳11ヶ月にしてついに『APD』だと診断されました。つい数年前からようやく日本でも認知されるようになったこの障害。医学界の先生方の尽力により、私だけでなく多くの人達の『聞き取りの困難』に名称が付くようになりました。

ですが、2022年現在APDの研究は発展途上にあり、まだまだ不確かな点が数多く存在します。それもそのはず、国を挙げての研究は去年始まったばかりなのです(2021年にAPDがAMED(日本医療研究開発機構)の公募課題として採択されたため)。ここから数年をかけて、再定義や訓練法の確立等がなされるようです。もう少し待てば、きっと今よりも生きやすい世の中になることでしょう。

ただ、私はその時まで待ち切れませんでした。私は診断前の時点からAPDについて徹底的に調べ、独自に対策するようになりました。その流れで、診断後にはAPDの布教活動も始めました。ブログやTwitterを開設し、記事を執筆するようにもなりました。多くのAPD当事者にも出会い、私以上に苦しい思いをしている人達が想像以上に多くいることを知りました。

昨年の夏には、勤めていた会社(建築関係)を退職しました。
その聞き取りの悪さのせいで仮に事故が起こっても、うちは責任取れんから…自力で何とかしてくれ
と突き放されたのが退職の直接の原因です。そういえば、1社目でも2社目でも聞き取りが悪くて周りから虐げられてきました。もっと言うと、学生時代の授業中や日常会話などでも、ずっとずっとイヤな思いをしてきました。

人生を、ものの見事に破壊されまして。その憎しみはやがて『APD考察シリーズ』という記事群に化けていきました。20年以上私を苦しめてきた『目に見えない敵』を、必ず自らの手で白日の下に晒す。そうして最終的に出来上がったのが本作品となります。

決して「誰かを助けたい」といった美しい動機から生まれたものではありません。ハッキリ言って自己満足です。それでも、もし本記事が少しでも悩める方々のお役に立てるのでしたら、それはそれで幸いです。

【APDとは】

APDは、聴力自体には問題はないのに、聞き取りに何らかの問題がある状態を指します。ですので、前提として聴力が正常であるものとします。なお、聞き取り困難の例としては以下のようなものがあります。
・聞き漏らし、聞き返し
・聞き誤り、誤認識
・聞き取り状態の維持困難

聞き取りに必要な能力

初めに、国際医療福祉大学の小渕千絵先生の書籍及びいくつかの記事(巻末に掲載)を元に、聞き取りに必要な能力をまとめました。

A. 注意力
 a. 容量性注意力:注意そのものの容量
 b. 選択性注意力:複数の音から必要な音を選び取る力
 c. 持続性注意力:注意を持続させる力
 d. 転換性注意力:注意の方向を適宜切り替える力
 e. 分配性注意力:同時に注意を向ける力
B. ワーキングメモリ:相手の話の一部を一時的に記憶し処理する力
C. 知識:言葉に対する知識(=語彙力)、及びその場の状況に対する背景知識
D. 推測力:文脈や状況から推測する力

これらA~Dまでの能力のうち、1つでも欠如していると聞き取りにくさが生じます。また、欠如した能力を他の能力や、他の情報(特に視覚情報)でカバーすることで、APDの症状を軽減できる場合もあります。

逆に言うと、それらが機能しない条件下だと、APDの症状が著しく表出すると考えられます (例. マスク等で口元が見えない時、電話や無線の使用時など)。

APDの症状の整理

次に、上記A~Dまでの分類に従い、それらがそれぞれ欠落している場合を考えます。APDの症状を、欠落した能力ごとに並べていきます(参考:APDオープンチャット、近畿APD交流会)。

A-a. 容量性注意力
・早口を聞き取るのが難しい ※1
・小さい声・低い声・抑揚のない声を聞き取るのが難しい ※2
・電話・無線を聞き取るのが難しい ※3
・マスク越し・パーテーション越しの声を聞き取るのが難しい ※3

A-b. 選択性注意力(=カクテルパーティ効果)
・雑音下で会話を聞き取るのが難しい
・同時に声が飛び交う中で、特定の声だけ聞き取るのが難しい
・他に雑音等の音刺激があると気が散る (他の音も聞こえてしまう)

A-c. 持続性注意力
・長い話を聞くことが難しい
・集中力の続く時間が短く、注意が逸れてしまうことが多い

A-d. 転換性注意力
・前触れなく話しかけられた際に聞き取りが難しい(特に背後、横などから)
・音源の方向の特定が難しい

A-e. 分配性注意力
・同時もしくは交互に言われたことを聞き取る、または理解するのが難しい

B. ワーキングメモリ
・言われたことをすぐに忘れてしまう(メモを取る前など)
・聞いたことを後で順序立てて思い出すのが難しい

C+D. 知識力 (=語彙力&背景知識)+ 推測力 ※4
・知らない単語や聞き慣れない単語等を著しく認識できない
・言われたことを間違って把握してしまうことが多い

※1 時間分解能(音の情報を時間的な流れで理解する能力)がAPD当事者は比較的低いために、聞き取りが困難になっているのではないか

※2 これらは本来誰であっても、ある程度の聞き取りにくさが生じやすい音声群であり、そこにAPDが掛け合わさることで相乗的に聞き取りにくくなっているのではないか

※3 ※2と同様の性質があり、同時に視覚情報まで制限されるため、それらの影響を受けることで更に聞き取りが困難になっているのではないか

※4 知識と推測は連動しており、聞き取りの際は先に知識で聴覚情報のフォローを行い、その後埋まらなかった情報を推測でカバーしているのではないか

【背景要因】

APDは症状群の総称であり、そこには背景要因が存在します。そしてこの背景要因によって、脳の処理機能に部分的な欠落・低下が生じると考えられています。これに関して、小渕先生はAPDの主原因を引き起こすものとして以下を示しています。

発達障害

APDの最も大きな背景要因として、発達障害があります。顕著なのはやはりADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉症スペクトラム障害)です。また、LD(学習障害)が背景要因になるケースもあります。

先述した書籍によると、APDの背景要因の55%は発達障害と言われております。しかしながら、オープンチャットの声を踏まえると、この割合は増加する可能性もあります(発達障害に関して未診断なだけの方もおられることから)。

そもそも発達障害とは、生まれつき見られる脳の働きの違いによって生じる、行動面や情緒面の特徴のことです。この働きの違いが、APDの主原因となる聞き取り能力の欠落につながるのです。故に、物心ついた時からAPD特有の聞こえ方をしており、それが正常な聞こえを持つ人達とは違うということに気付くこと自体が難しいのです。

一方で、発達障害の診断を受けた人なら、連鎖的にAPDに辿り着けるという可能性が生じるという側面もあります。いずれにせよ、発達障害は他の背景要因と比較しても、特筆してAPDと密接に関わっていると言えるでしょう。

認知的バランスの悪さ

発達障害と同様に、脳の働きの差によってAPDが生じています。いわゆる、発達障害の『グレーゾーン』の方に多い背景要因です。そういう方々に関しては、ただ設定された発達障害の診断基準というラインに引っかかったか否かの差になります。

また、脳のワンポイント的な機能欠落によるAPDも存在します。発達障害に次いで31%の割合を占め、合わせると背景要因の8割強は脳の働きが影響していると言えます。

睡眠障害等による覚醒水準の低下

上手く眠れないと、脳はパフォーマンスを落とします。逆にきちんと寝ることで脳機能は底上げされます。実際、睡眠時間が十分だとAPDの症状が緩和される、といった声も当事者からは挙がっています。

言う間でもなく、ちゃんと寝ることが最も手っ取り早い対策となります。そして、それが難しいから問題になっているのです。そもそも日本人は慢性的に睡眠不足の方が多い民族です。それに比例して、APDの症状を抱える人も多くなっていると推測できます。

ただし割合としては、前述の2つと比べるとかなり低くなります(10%程度)。これは、睡眠障害の上位要因として発達障害が存在しているためだと考えられます。

後述するメンタル面の負荷もそうですが、APDの根元には発達障害が潜んでいるケースが非常に多いのです。こうした上位・下位要因の存在もあり、割合としては低い値が出ているのではないでしょうか。

心理的負担による覚醒水準の低下

精神疾患や過剰なストレスなど、心理的に負担がかかることでも脳のパフォーマンスは落ちます。逆にストレスフリーな生活を心掛けると、APDの症状は緩和することがあります。実際、(私含め)職場環境が変わったことでAPDが改善したという意見、そして逆に悪化の一途を辿ったいう意見も当事者から出ています。

やや本筋とは離れますが、ストレスを抱えやすい人がいることは確かです。これに関して、個々人の性格が影響しているという論もあります。例としては、聞き取れないことを許せない完璧主義者や、聞き取れない自分自身を責める人、そもそも自己肯定感が極端に低い人などが挙げられます。

こうした性格は、育ってきた環境はもちろんのこと、発達障害による情緒面の特徴の影響も考慮しないといけません。以上を踏まえると、やはり発達障害(+グレーゾーン)が幅を利かせているのではないかと考えられるのです。

幼少期の言語環境

レアケースではありますが、幼少期の言語習得時の状況も背景要因の1つに数えられるとされています。家庭内で2ヶ国語以上を使用する場合や、家庭内と学校で使用する言語が違う場合などです。

言語の習得がどっちつかずになり、それによって知識や慣れ具合の部分に遅れが生じ、APDの症状が表出すると考えられます。他の原因とは少し毛色が異なり、親や学校側の配慮、そして個人の素質や努力量に大きく左右されます。

脳の損傷

今まで問題なく聞き取れていた人が、脳梗塞や脳卒中などの前後で症状を訴えるといった。例もあります。発達障害(グレーゾーン)が先天的な要因に対し、睡眠障害や精神疾患、幼少期の言語環境、そしてこの脳損傷のタイプは後天的な要因と言えます。やはり割合としては非常に少ないのですが、その性質上「誰にでもAPDが生じる可能性がある」とも言えます。

加えて、APDと脳の損傷の関係性について、最近新説が浮上しました。児童虐待等、幼少期の不適切な養育を『マルトリートメント』と呼ぶのですが、これによって脳の聴覚野が肥大化することが最新研究で示されているのです。

「聴覚野が肥大すると神経伝達の効率が低下してしまい、言葉の理解力、特に語彙理解力が落ちます。また大事な音や会話が聞こえなくなることから、対人関係に支障をきたしてしまうのです」(友田さん)

【特集】“子どもの脳”を守れ 脳科学が子育てを変える – NHK

聴覚野の肥大化により、APDに類似した症状が現れると言われています。これに関しては、今のところAPDの研究者もほとんど触れておりません。今後の研究報告が待たれるところです。個人的には、発達障害との兼ね合いも考慮して、今後背景要因の有力候補に挙がってくるのではないかと考えています。

【APD概略図】

以上を踏まえて、以下のような図を作成しました。以降、この『APD概略図』をベースに議論を進めていきます。

《コラム①》APDと発達障害の自覚

先述の通り、私は2021年3月に正式にAPDと診断されました。しかし、受診に踏み切った時点(2020年秋頃)では、すでにある程度の情報収集は完了しており、自分が障害持ちであることには薄々感づいていました。

その障害とは、APDだけではありません。APDの母体とも言うべき障害…発達障害に分類される、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)です。

実際、私は2021年9月に両障害と診断されました。現在は、障害者手帳及び障害年金の取得を目指し、諸手続きを行っております。

さて、今思えば本当に苦しい人生でした。いじめを受けた回数は数知れず、不注意でなくしたり壊したりした物も数知れず。社会からは理解されず、家族にすら理解されず。うつや適応障害を経て、ようやく人生29年目にして伏線が回収されました。

自覚する」ことは、少なからず心の平穏に繋がります。ずっとダメな自分を責めてきましたが、それが仕方のないものなら話は別です。割り切ってもいいのです。苦手な分野で戦う必要はない。そのことに気付けたのが、2021年で最もラッキーだった出来事でしょう。

【容量性注意力】

容量性注意力とは、「注意そのものの大きさ・深さ」のことです。APD概略図を作成するにあたり、小渕先生の著書での見解や注意障害の文献等を参考に設定しました。注意力の中でも、1対1の会話のようなシンプルな場面で機能する能力です。故に日常生活でも頻出し、ここに聞き取り困難があると単純に生きにくさを感じると考えられます。

① 早口の聞き取り困難

会話の相手が早口であると、部分的に聞き取れないことがあります。また、会話以外でもテレビやラジオの声がこれだと聞き取りにくさを感じます(例えば芸人の漫才など)。これは時間分解能が関わっていると考えられます。

時間分解能とは、音の時間的な解像度のことを指します。簡単に言うと、「ある秒数の間に頭の中で何単語処理することが出来るか」という能力です。一般的に、高齢になるとこの機能は低下していくとされています。そのため、高齢者との会話時に「もっとゆっくり話してくれ」と言われるのです。

APD当事者は、この能力が同年代と比べて低いのではないかと考えます。加齢によって聴覚野の老化が進み音信号の処理速度が低下する、という研究もあるのですが、これがAPD当事者は若年時から低い状態なのではないのでしょうか。いずれにせよ、相手が早口で聞き取れない場合は、素直に話し方の修正を要望することをお勧めします。

なお、この能力は英語などのリスニング時にも使われます。故にAPD当事者は、『ワーキングメモリ』の低さも相まって、この科目を非常に苦手としております。時間分解能については、背景要因でも触れられた『覚醒水準』の改善による脳機能の向上が対策として挙げられます。

② 小さい声・低い声・抑揚のない声の聞き取り困難

会話の相手が上記の特徴を持っていると、やはり聞き取りが難しくなります(特に男性に多い)。これらの特徴は、APD以外の人でもある程度の聞き取りにくさが生じます。そこにAPDの諸症状が掛け合わさることで、相乗的に聞き取りにくくなっていることが示唆されます。

①が時間的な解像度に基づくものならば、こちらは音の量的な解像度に基づくのではないでしょうか。いわゆる、周波数分解能(音の高さ・低さの解像度)と、最小可聴値(聞こえる音の限界値)です。音の高低は音波の振動数、音の大小は音波の振幅によって決まり、外耳~内耳にかけて電気信号へと変わり脳の聴覚野で処理されます。

ただし、APDは聴力に問題はないという前提条件から、①と同様に聴覚野の能力に弱い部分があり、周波数分解能・ 最低可聴値が狭まっているのではないかと考えます。

③ 電話・無線の聞き取り困難

第一に、電話・無線は音に対応する視覚情報がありません。これが単純ながら大きな影響を及ぼします。APD当事者の症状のほとんどは生まれつきのものです。その対抗手段として、視覚情報で補正をかけているのです。その補正が大きいほど、電話や無線、あるいは下記の④といった「物理的な壁」が現れた時に聞き取り困難が生じるのです。

そこに①や②の聞こえの解像度の問題が重なります。加えて電話や無線は雑音が混じりやすく、後述する選択的注意力の影響も受けると考えられます。こういった特徴から、電話・無線は聞き取りの中でも最難関と言えるでしょう。メモを取る、逐一確認しながら聞くなどといった対策はあるものの、どれも一定の訓練を要するものです。可能な限り避けた方が賢明でしょう。

④ マスク越し・パーテーション越しの聞き取り困難

コロナ禍で急増した聞き取り困難の代表です。③と同様に、視覚情報の制限の影響を受けることによって生じています。これらに関しては、やはり遭遇率の高さが一番のネックと言えるでしょう。日本で普通に生きている限り、もうしばらくはこの状況と付き合っていかなくてはなりません。

さらに、それによってストレスが重なれば、覚醒水準の悪化に伴い、一層聞き取りが悪くなる可能性もあります。いっそ「聞こえなくて当然」くらいの気持ちでいた方が良いでしょう。

《コラム②》リスニングが苦手な人達へ

学校のテストの中で、皆さんは何が一番苦手でしたか?私は「英語のリスニング」でした。基本的に答えが音声情報に依存するリスニング問題。APD当事者はこの科目を非常に苦手としている節があります(そもそも日本語すら聞き取るのが困難)。私が学生の頃もリスニングでは7割以上を取ったことがなく、一種のコンプレックスとなっていました。

現在、私は塾の講師兼家庭教師として働いています。中学生相手ですが、英語を教えることもあります。さて、指導者という立場に立っておきながら、一方で英語は聞き取れないというのは許されるのでしょうか。

APDを盾にして、努力することから逃げてしまっては、生徒に失礼なのではないか。そういった思いもあり、昨年末から8年振りに英語のリスニングのトレーニングを行うようになりました。

後述しますが、聞き取りには知識が必要です。それは言葉の意味だけでなく、発音もです。以前の私は、その苦痛さ故に困難に向き合おうとしていませんでした。勉強を怠っていました。もしかしたら、その姿勢がセンター試験の英語リスニング20/50という無残な結果に繋がったのかもしれません。

何にせよ、やる前から諦めていては絶対に成し遂げられません。本当に全部やりつくして、それでもダメだったら、その時は堂々と言い訳しましょう。繰り返しになりますが、発音上の単語・熟語を知ることがリスニングの第一歩です。

なお、今のところ(2022年2月現在)は「前よりはマシ」程度にとどまっています。早く成果を出して、皆さんに良い報告をしたいものです。

【選択性注意力】

選択的注意力とは、複数の音声から必要な音声を選び取る力のことです。注意力の中でも、1対複数の会話のような場面で機能する能力です。職業によっては、先述した集中的注意力以上に必須な能力とされ、この能力の欠如によって転職等を余儀なくされることすらあります。

⑤ 雑音下の聞き取り困難

例えば、工事現場や駅、オフィス街など、主にガヤガヤしている場所で相手の声が聞き取りにくくなります。多くの音声の中から、拾いたい声を拾えないという状況です。APDの中でも特に自覚しやすい症状の一つと言えるでしょう。雑音下の聞き取りは、仕事内容によっては出来て当然という認識なので、不本意な叱責を受けてきたAPD当事者も多いようです。

現在、補聴器や補聴援助機器等の活用が症状緩和に有効的であると言われてきています。PHONAK社製の『ロジャー』や、Apple社製の『AirPods Pro』など、数多くの商品が存在します。

問題は、これらが比較的高価であること、そしてその人に適した商品かどうかが判別しにくいところです。一念発起して買ったものの、あまり効果がなかったという声もあります。購入を検討される際は、かなり慎重に選ぶことをお勧めします。

⑥ 複数音声からの特定の声の選び抜き困難

⑤と類似していますが、こちらは声が重なった際の聞き取り困難です。例えば飲み会のような、誰かと話している時に別の誰かの会話が存在する場面で聞き取りにくさが生じます。

いわゆる『カクテルパーティ効果』が機能していないために、このような聞こえ方になってしまうのです。また、TVや動画などからの音声があっても、聞き取りが難しくなってしまいます。一貫して「声の重なり」がAPD当事者を悩ませているのです。

補聴機器の使用も一定の効果は認められますが、こちらに関して言えばやはり環境そのものを整えた方が良いように感じます。というのも、⑤は雑音vs声という構図だったのに対し、こちらは声vs声という構図なので、必ずしも意図した声だけ聞こえるようとは限らないのです。

とはいえ、出来るだけ他の人の声が聞こえない場面を作ってもらえるように周りに働きかけることは、容易なことではありません。かなりの努力を要するので、改善が難しいようなら身の振り方を考えることも選択肢に入れた方が良いかもしれません。

⑦ 不必要な音声情報の半強制聴取(≒聴覚過敏)

⑤・⑥に重複するのですが、聞くつもりのない音声が意図せず聞こえてしまうのもAPDの症状の1つです。これにより脳内で音声の重なりが生じ、処理が困難になるのです。私の前職での状況を例に挙げると、工事現場での工事車両の音、空調機器の音、作業音や会話など、全てが耳に入っていました。

ところで、APD当事者の多くは、同時に『聴覚過敏』を有しているケースが非常に多く見受けられます。私が思うに、APDと聴覚過敏はそもそもカテゴリーとしては同種なのではないでしょうか。

確かに「聞こえ方」に関しては相反する症状です。しかし、前述した選択性注意力の説明から派生させて考えたらどうでしょう。「聞こえ過ぎるから聞き取れない」と仮定したら、聴覚過敏とAPDの症状が地続きになると考えられないでしょうか。現状では仮説止まりに過ぎませんが、一考の価値はあると思っています。

この症状への対策としては、やはり補聴器具等がベターな解決手段でしょうか。特にノイズキャンセラーイヤホンを使用することで、無駄な音が抑えられ、精神衛生的にも生きやすくなることが期待されます。

《コラム③》聴覚過敏の逆用(?)

参考にはならないとは思いますが、私が行った少し特殊なAPD対策を紹介いたします。

私も元々現場での聞き取りの悪さに悩んでいました。そこで私は自身の聴覚過敏に目を付け、これを逆用してみることにしました。無意識的な聴覚過敏を意識的に強制発動させ、全ての音を拾い総当たりで情報処理することで、相手の声を聞き取ろうと考えたのです。

イメージとしては、『HUNTER×HUNTER』に登場する概念の1つ、『円』でしょうか。2ヶ月ほど訓練した結果、雑音下での聞き取りは以前より明らかに容易になりました(ただし声が1つだけの場合に限る)。

ただしこの話には続きがありまして…。
退職し訓練を中断してからは、やはり以前同様聞き取りが難しくなったように感じます。
要するに、慣れと訓練が前提の対策だったということです。

また、このやり方を仮に「」とした場合、聴覚過敏の問題はむしろ悪化しているように見えます。実際、以前よりも不意な音で驚く場面が増えてしまいました。

以上から、皆様にこの方法を推奨することは出来ません。ただ、1つのやり方としてこういうものもあるということだけ、せっかくなのでお伝えしておこうと思います。

【持続性注意力】

持続性注意力とは、注意を対象に向け続ける能力のことです。簡単に言うと、聞き取り時のスタミナです。特に社会において、多くの場面で必要とされる能力です。

このスタミナが切れてしまうと聞き取りが困難になります。特に公共の場ではこの能力が必要になりがちなので、ここで引っかかって悩む当事者も方も多くおられます。

前提として、後述する⑧と⑨の症状はともに「スタミナ切れ」と表現できるのではないかと思います。両者の違いを陸上競技に例えると、⑧は1500~10000m程度の長距離走、⑨は400~800m程度の中距離走といったところでしょうか(100~200m程度の短距離走は容量性注意力に該当)。

⑧ 断続的な聞き取り状態の持続困難

性質上、学校や会社などオフィシャルな場で表出しやすい症状です。例えば、授業や講義、講習、会議など、いわゆる「長時間ちゃんと話を聞かないといけない場面」で登場します。

故にそこでの聞き取り難はストレスになりやすく、さらなる悪循環に入り込んでしまった経験を持つ当事者の方も多数おられます(詳しくは【背景要因】にて)。

高校の授業を例に挙げると、前半の方は先生の話が聞き取れていたのに、後半に差し掛かると聞き取れなくなってくるといったものです。その授業が終わって一度回復すると、次の授業で再び前半~後半の現象が起こるといったものです。

やはり、適宜休憩を入れることが大切です。しかし、授業や会議など他者がいる場ではそうもいかないのが現実です。そのため、聞き取り困難の中でも、ある意味解決が難しい1つと言えます。

⑨ 半瞬間的な聞き取り状態の持続困難

症状としては⑧と似ていますが、こちらはやや瞬発的な場面で見られる症状です。例えば、会社で上司から指示を与えられる際、少しずつなら聞き取れるのに一気だと聞き取れないといったものです。

前項と同様にスタミナ切れによって能力が低下するといったイメージですが、同一視までは出来ないと考え、本記事では別症状と定義しました。

持続的注意力は、先述した通り人によっては非常に対策が難しいです。これには理由があり、その1つに背景要因である発達障害の影響をまともに受ける可能性の存在があります。

特にADHDは不注意傾向や気の散りやすさが性質として存在するため、そもそも継続的に注意を向け続けること自体が難しいのです。

よって、根本的な部分が改善しないうちは上記の症状も出続けると考えられます。ただし、ADHDは薬物治療による改善例があるため、これによって症状が緩和する可能性も考えられます。

また、⑧とは表出するシチュエーションが異なるため、特に長文の指示に関してはその場で聞き返す、逐一確認するなどの対策も存在します。

【転換性注意力】

転換性注意力とは、注意の矛先を適宜切り替える力です。集中状態で対象音声に注意を向ける行為はもちろん、いわゆる「気の抜けた状態」でパッとその音を捉える行為も、この能力に依存します。咄嗟のタイミングで注意が向けられないと、聞き取るべき情報を獲得できません。

⑩ 意識外からの声の聞き取り困難

APD当事者から、「急に話しかけられると何を言っているか分からない」という意見をよく聞きます。例えば、作業中に後ろから話しかけられる、黙っていた人に突然話しかけられる、といったものです。想定していない方向からの音声が聞き取れないのです。

音声が聞こえてから注意を払うまでにラグがあり、そのラグが生じているコンマ何秒の数文字の聞き取りが難しくなると考えられます。そのため、語頭が曖昧になり聞き返しや聞き間違えが多々生じてしまうのです。

その性質から鑑みるに、あらかじめ話しかけられる前にサインを出してもらうと聞き取りやすくなります。肩を叩いてもらう、「あの~」といった間投詞を使ってもらうなどの配慮をしてもらえるよう交渉するのが良いでしょう。

⑪ 音声の方向特定困難

そもそも音源の方向が分からない、というのも転換性注意力の欠如が原因と考えられています。音がどこから聞こえるのかが分からないと、注意を向けること自体が難しくなります。

また、音源が分からないということは「誰が話しているか分からない」ということにも繋がる可能性があり、推測が難しくなります。

なぜ私たちは音の聞こえてくる方向がわかるのでしょうか。それは簡単にいうと「耳が二つあるから」です。要は、左右の耳それぞれに聞こえる音の、音量と時間の微妙な差を認識して判断しているということ。ただ、これは単純なことのように見えて、実は意外に複雑な仕組みなのです。

音の聞こえる方向がわかるのはなぜ?|TOA株式会社

上記の複雑な機構を我々人間は有しています。そして、転換性注意力が欠損することでこの処理が円滑に進まないと考えられます。

ただし、この機構は音声の聞き取りの経験則に基づくものなので、聞こえ方のパターンを多く学習・記憶していくことで聞き取りやすくなるのではないか、と予想します。

【分配性注意力】

分配性注意力とは、複数の音声に対して同時に注意を払う力のことです。選択性注意力と似ていますが、私としては下図のように解釈しております。

仮に聞き取る力を100%だとすると、選択性注意力は1つの音声に対してより多くの力を集中させる機能です。その際、他の音声は必要のない情報として排除します。

対して分配性注意力は、均一的に力を割くことで、音声を同時に処理する機能です。

⑫ 複数音声の同時聞き取り困難

複数の音声情報を同時に処理するような場面で表出します。単語レベルですら困難な人にとっては、文章レベルはもはや不可能の領域であり、能力的にも精神的にも非常に負荷がかかります。

いわゆる『マルチタスク』に該当するため、特にADHDの人が苦手としていると考えられます(詳しくは【ワーキングメモリ】にて)。

他者と話す際に困るのはもちろん、ラジオ等で楽曲を聴きながら話を聞くのも難しいと言えます。選択性注意力とは密接な関係があり、複数音声に対して処理不全が生じるのはどちらかまたは両方が機能していないためと考えられます。

対策はシンプルで、可能な限りシングルタスクに持ち込むことです。話は1人ずつ聞き、出来るだけ他の声が聞こえないようにするべきです。逆に言うと、それが出来ない環境では非常に対応が難しくなります。

【ワーキングメモリ】

ワーキングメモリとは、作業や動作の際に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力のことです。簡単に言えば、頭の中にあるメモ帳のようなものです。これが機能しないと、会話を聞いたそばから内容を忘れてしまい、結果聞き取りミスに繋がってしまいます。

記憶には3つのプロセスがあります。
1. 記銘:感覚器官から受け取った情報を覚える機能
2. 保持:記銘によって覚えたことを忘れずに維持し続ける機能
3. 想起:保持した情報を思い出す機能

また心理学領域では、記憶を時間という観点で3種類に分類します。
A. 感覚記憶:瞬時(約2秒まで)に感覚器官から送られてきた情報を保持する記憶
B. 短期記憶:一時的(約1分ほど)に情報を保持する記憶
C. 長期記憶:短期記憶よりも長い時間(数分~数年)情報を保持する記憶
ここでのB(=短期記憶)を用いた処理能力が、ワーキングメモリに該当します。

⑬ 保持した音声情報の想起困難による処理不全

一度記銘・保持したはずの音声情報を想起できず、結局相手が何を言っていたのかが分からなくなることがあります。原因としては、第一にそもそもの保持容量が小さいことが考えられます。容量が小さいほど保持できる情報は少なくなります。

これに関しては、現在では様々な手法によるトレーニングが提案されています。ただし、それら全てが実践した全ての人に効果があるわけではありません。向き不向きを見極めつつ、継続的に訓練を積むことが大切と言えます。

また上記に加え、情報の取捨選択時にエラーが起きていることも考えられます。すなわち、取得した音声情報に優先順位が付けられず、結果として必要な情報を取りこぼし、想起できなくなってしまうのです。

こちらは、訓練による能力向上はもちろんのこと、応用技術として「会話の傾向」を理解しておくことも重要になると考えられます。例えば、ある人が話の結論を最後に持ってくることが多いのならば、保持すべき情報は後半部分に集中していると予測できます。

こういった「読み」による処理時の負担軽減も、聞き取りにおいては必要不可欠なのです(詳しくは【知識力+推測力】にて)。

⑭ 聞き取りと情報整理の並行作業困難

先に説明した通り、『マルチタスク』と呼ばれる作業に関する困難です。ワーキングメモリが弱いと、話を聞きながら同時にその内容を精査することが難しくなります。

よくある例としては、いくつかの数字を聞き取りながら、同時に暗算するといったものです。計算に集中するあまり、保持すべき情報を忘れてしまうという失敗は、多くの人が一度は経験したことがあるでしょう。この一連の作業が、ワーキングメモリが弱い人は苦戦しやすいのです。

この症状に関しても、やはりトレーニングによる改善の可能性が示唆されています。いずれにせよ、前回までの注意力と比べて改善意欲による症状軽減の可能性が高いように感じます。

【知識力+推測力】

知識力とは、文字通り物事に対する知識に関する力です。知っているだけでなく、それを他の事柄に結び付けるのもこれに該当します。 幅広い知識があると、相対的に聞き取りが容易になります。

例えば、誰かに何かを言われたとします。ある文言が、APDだと「虫食い状態」の音声情報になりやすいのです。しかしながら、知識があればその穴が補完出来る場合があるのです。

ただし、知識力はマイナス方向に働く場合もあります。知識があると、情報に対して複数の選択肢を準備することが可能になります。しかし、選択肢が増えれば増えるほど一発で正解を引き当てる確率は低くなります。ここにおいて、知識力をサポートするものがあります。それが推測力です。

推測力とは、有している情報から自身が求める情報を「読む」力のことです。増えた選択肢から正解を導き出すのも推測力の仕事になります。

こうして、知識力と推測力が合わさることで、本来聞き取れていないはずの音声情報も処理出来得るのです。

⑮ 不慣れな単語・表現等の聞き取り困難

APD当事者にとって、知らない単語や表現は著しく聞き取りを困難にする厄介な存在です。この現象を紐解くと、やはり知識による補完が不十分なことが最大の問題になっていると考えられます。推測力だけではカバーできず、結果としてそういった文言が聞き取れないのです。

対策はシンプルで、1つ1つ語彙を増やしていくことです。知っていれば聞き取れるのであれば、もう知るしかありません。一般的な言葉から仕事に関する専門用語、果ては日本語だけでなく外国語(特に英語)も学んでいった方が良いでしょう。

やるべきことは多岐に渡り、途方もないように感じます。ですが見方を変えれば、難しいことを要求されておらず、またやればやるほど聞き取りが楽になっていきます。明日の自分、1ヶ月後の自分、1年後の自分を救うのは、今この瞬間の学びなのです。

⑯ 受け取った音声情報に対する誤認識

行き過ぎた推測は、時として誤った認識をもたらします。これは、実際にあった私と妻の会話です。
妻「~~んき~~てくれる?」(実際は「充電器返してくれる?」)
私「分かった」⇒部屋の電気を消す

この時、私は夜間ながら作業をしており、部屋には電気がついておりました。私はその点を妻から言及されたと思い、わずかに聞き取れた音声情報から「電気消してくれる?」という言葉を予想したのでした。しかし実際は、語頭の位置を誤判断しており、全く異なる言葉だったのです。

このように推測によって誤認し、誤った行動を起こしてしまうケースもあります。当人が「分かったつもり」であるという点で、普通に聞き取れなくて聞き返す場合よりもはるかに危険と言えるでしょう。そして同時に、誤認識は語彙力が多くなることでも起こりやすくなります(単純に選択肢が増えるため)。

対策としては、慎重な姿勢を意識することが一番でしょう。確認の工程として復唱するだけでも全然違います。特に行動を起こす際は一層気を付けましょう。

実際、私は前職でも前々職でも、誤認により機材の破損や自身の事故を引き起こしかけました。一歩間違えば大損害、果ては命を落とすことにも繋がりかねません。繰り返しになりますが、自身のAPDを自覚した上で、慎重に聞き取りましょう。

《コラム④》聞き間違え実例と考察

昨年末、実験的に自分の聞き間違えを記録してみました。そして、そこに何らかの傾向があるかどうか考えてみました。結論としては、私の場合は4パターンあるのではないかというものになりました。

①早とちり型
受け取った情報から、特徴的な既知の単語に引っ張られ、見切り発車で処理を行ってしまうケース
・簡単ならやる ⇒ タンタンメン
k/an/t/an/n/a/r/a/y/a/r/u
⇒ t/an/t/an/m/en
・プレゼント取って ⇒ クレッシェンド
p/u/r/e/z/en/t/o/t/o/tt/e
⇒ k/u/r/e/・/sh/en/d/o

②造語型
受け取った情報で強引に推測した結果、造語になってしまうケース
・じゃあもう書かなくていいよ ⇒ ジャンボかかし
j/a-/m/o-/k/a/k/a/n/a/k/u/t/e/i/i/y/o
⇒ j/an/b/o/k/a/k/a/sh/i
・スノータイヤ ⇒ スモークフェア
s/u/n/o-/t/a/i/y/a
⇒ s/u/m/o-/k/u/f/e/a

③語頭抜け型
語頭が抜けていることに気付かず、それ以降で聞こえた母音・子音を語頭において推測してしまうケース
・充電器返して ⇒ 電気消して
 j/u-/d/en/k/i/k/a/e/sh/i/t/e
⇒ d/en/k/i/k/e/sh/i/t/e

④重複型
①~③が重複して生じてしまったケース。
例. ①と③の重複
・ねぇこれ捨てといて ⇒ コレステロール
 n/e-/k/o/r/e/s/u/t/e/t/o/i/t/e
⇒ k/o/r/e/s/u/t/e/r/o-/r/u

ただし、重複するほど確かな情報が少なく推測が困難になるので、その場合はそもそも「聞き間違え」に到達しないのではないか、と考えられます。

5/16追記 追加考察

記事の完成から約2ヶ月半。
改めていくつか考察してみました。

まず、上記4パターンはいずれも知識や推測がいまひとつ機能しなかった場合に生じていると考えられます。ここにおいて、仮に知識・推測が「全く」機能しなかったとしたらどうなるでしょうか。思うに、聞き間違えることすら出来ないのではないでしょうか。人はそれを「聞き取れなかった」と表現するのではないか?と私は考えました。

また、そうなると「聞き取れた」「聞き間違えた」「聞き取れなかった」という異なる結果が、それぞれ地続き?に位置していると考えることも出来そうです。下図は私のイメージなのですが、皆様はどう思われますか?

・全て聞き取れた、または聞きミスがあったものの知識や推測によるフォローが成立した
⇒「聞き取れた」
・聞きミスがありフォローが不十分だった
⇒「聞き間違えた」
・聞きミスが多すぎて言葉として認識できなかった
⇒「聞き取れなかった」

となると、聞き間違えが多い、すなわちある程度フォローが機能している人ほど、実は水面下でしれっと聞き取れているケースも多いのでは?と私は予想しています。いわば、聞き間違えはフォローがたまたま悪い方向に働いてしまったがために生じてしまうエラーなのです。方向性さえ合っていれば「聞き取れた」という結果になっていたのかもしれないのです。

それからもう1つ。分析全体を通して、聞き取り成功のカギは以下の3つなのではないかと考えました。

①語頭1~2文字目の母音と子音の把握
②今その瞬間の状況を把握する冷静さ
③幅広く、かつその場に合った語彙力

こちらもただの予想です。私個人としてはかなりしっくりきておりますが、信憑性は正直ないに等しいです。それもそのはず、これらは専門家ではなく、ただの平凡で一般的なAPD当事者が生み出しただけの理論だからです。

なので、この先を切り開くのは、よりそういう分野に特化した方々なのかなぁと勝手に期待しております。もっとも、優秀な方々にやっていただけるのでしたら、その時は盛大に応援させていただこうかと考えております。

あとがき

『APD考察シリーズ』を思い描いてからちょうど1年、ひとまず完結いたしました。何度も書いては消して、また調べて考えて…。最終的には、かつての自身の卒業論文にも匹敵するボリュームになりました。文系出身の素人がやるには、あまりに遠いところまで来てしまったように感じます。

ですが、もちろんこれで終わりではありません。むしろこれでようやくスタートラインに立てた、といっても過言ではありません。そもそも研究というのは、定義が固まってからが本番です。このシリーズをベースに、新たなテーマについて考えていこうと思います。私が満足するその時まで。

参考文献

《著書》
・APD(聴覚情報処理障害)がわかる本(小渕, 2021)

《論文》
・不適切な生育環境に関する脳科学研究(友田, 2019)
・難聴者の周波数選択性と時間分解能(高木, 2002)
・時間分解能と周波数分解能を両立させる超高精度の次世代聴覚指標の検討(広林, 2011)
・発達障害に伴う聴覚過敏と音環境に関する実態調査(松井・佐久間, 2020)
・互換性から見た「的」と「性」の接辞性(曽 睿, 2015)
・記憶とその障害(藤井, 2010)

《ウェブサイト》
【APDとは~】
・注意障害って何?-脳神経リハビリ北大路病院
・高次機能障害とは?~注意障害について~-新百合ヶ丘総合病院

【背景要因~】
・発達障害|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省
・マルトリートメントとは – 公益財団法人母子健康協会
・【特集】“子どもの脳”を守れ 脳科学が子育てを変える – NHK

【容量性注意力~】
・最小可聴域 – Wikipedia
・有毛細胞 – 脳科学辞典
・Q and A – 日本音響学会
・音は何で聞こえるの?音について知ろう – スガナミ楽器
・音とは? 周波数とは?【今さら聞けない用語シリーズ】-デジランド

【選択性注意力~】
・聴覚過敏とは?原因や症状、日常生活や仕事できる対策を紹介します – LITALICO仕事ナビ
・キャラごとに異なる円(エン)の範囲と特徴 – HUNTER×WORLD

【持続性注意力~】
・注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬の解説日経-日経メディカル

【転換性注意力~】
・間投詞・感投詞【かんとうし】の意味と例文(使い方):日本語表現インフォ
・音の聞こえる方向がわかるのはなぜ?|TOA株式会社

【分配性注意力~】
・マルチタスクが苦手なADHDの方に伝える、3つの前提と8つの対策例-キズキビジネスカレッジ

【ワーキングメモリ~】
・ワーキングメモリとは?生活に不可欠な役割、発達障害との関係、調べ方、対処法をご紹介!ーLITALICO発達ナビ

【知識力+推測力】
・長期記憶・短期記憶のメカニズムを知り、効果的に学習する方法とは?ーKATSUIKU ACADEMY

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