ファンドレイズ業務から見えた、VCというプロダクト
インキュベイトファンドの岩崎と申します。
昨年までは新規投資関連や投資先支援業務に一辺倒だったのですが、今年からファンドレイズやLPリレーション業務に携わらせてもらうようになりました。
①お金を集めて②お金を使う、と大別したときに、今まで見れていなかった①に頭を使うことで、大きく自分のVCに対する思想やミッション観が変化しました。
勿論、自分のファンドではなく、GP5名の過去実績をセールスしているエンプラセールス部隊にすぎず、ファンドレイズの本質をまだまだ体感できていないとは思いますが、それでも自分にとっては大きな変化でした。
なので、いくつかの記事に分けて、シリーズとして学びを言語化しようと思います。
1番このメッセージを届けたい相手は2人います。
1人は、新規投資や投資先支援業務が中心となり「VC」の理解を進めづらい若手VCの方々へ。
ベンチャー投資家/担当者としてのVCの顔がSNSやメディアなどでは取り上げられがちですが、ファンドレイズ業務を通じて、VCや自社(インキュベイトファンド)が世間に対して出している価値を再言語化することができ、自分がVCに勤める意義を再定義することができました。この「起業家と共に汗を流す興奮」以外の面白さをシリーズものとして言語化したいです。
もう1人は、今接点のある起業家や未来の投資先含めて、自分を応援して下さる方々へ。
インキュベイトファンドにて信頼を積み重ね、自分というプロダクトを唯一無二にできると自信を持てた際に、自分は自分でVCとしての独立という形で世に立とうと今は考えています。
「こういう思考の変遷を経て、岩崎は岩崎というプロダクトを作ってきたんだな」と見守っていて頂けると嬉しいです。
スペシャルサンクスはHIRAC FUNDの甚野さんと上司和田さんと、日々問いをくれる周りの経営者の方々です。
特に、昨年「とりあえずLP営業早く関われ」と強く言ってくれた甚野さんと、新規LP営業はミッションじゃなかったはずなのに勝手に岩崎がやっていたらいつの間にか正式業務にさせてくれた和田さんがいなければ、今回の学びは得ることができませんでした。
結論
この記事を纏めるとこんな感じです。
背景説明
「何故VCなんてやっているのか」という無数の問いかけと悩み
この章は自己紹介+背景説明ということで、若干自分語りをしようと思います。興味なければ飛ばしてください。
実力が付いたタイミングで独立をしたいと目上の経営者の方々などに話すと、以下のような問いが入社以来無限回飛んできました。
どうしてVCに勤めるのか
なぜGPを目指すのか
USでは起業家やプロファーム出身者ばかりの中で、なぜ若手で入るのか
投資先に対するバリューをどう与えるのか
独立した後、インキュベイトファンドにどうやって勝つのか
嫌味ではなく、ホントに内省の機会をいつも頂きありがとうございます。
同世代のVC勤めは、みんな1回は転職考えたことあるんじゃないですか?笑
今年1番自分の中で炸裂した言葉は、とある起業家(≠投資先)の「VCってmust haveなアドバリューあるの?」です。自分はまだまだできることが少なくて、起業家や投資先をクリティカルな危機から救ったことは無いですし、自信を持って「できる!」とは言えないのですが、そのたびに振り返るのが「それでもVCをやりたいと思った理由」と「やりがいを感じる瞬間」です。
ただ、徐々に担当先企業が大きくなるにつれて当然相対的に自分が出せるバリューは少なくなってきて。
GPになっていないから当然ですが、GPになったとしても僕の価値観軸では「完全に起業家とシンクロをして、一緒に人生を賭けて同じ目線で戦っているよね」とは言えないのかも、という考えに2023年末時点では至っています(※)。
(※)勿論「起業家とシンクロをして、一緒に人生を賭けて戦っている」と言えるくらいコミットをしたい、というのは変わらず追求したい部分です。
ファンドレイズ業務を通じた変化
そんな中、ファンドレイズ業務を通じて、
「インキュベイトファンドは唯一無二のプロダクトである」
とLP候補に対して説明する機会が増えて、考えがアップデートされました。凄く難しいですが、社会に対してmust haveであると思える瞬間が多く、凄く面白いです。
この「プロダクトとしてのVC」を、シリーズ第一弾として書こうと思います。
昨年までの業務はいわゆるフロント業務で、新規投資関連業務を中心に、担当の会社に対してはバリューアップ支援を行います。
今年から、次号ファンドのLP候補となりうる事業会社のCVCやベンチャー連携部の方々に対して、「インキュベイトファンドや岩崎は使える存在である」と思わせることがミッションの1つとして増えました。(機関投資家営業はしていないので、そこの解像度はまだ少ないです)
具体的には名刺交換から始まり、ディスカッションやイベント企画などを通じて「インキュベイトファンドが、自社のベンチャー連携に対して使える存在である」とアピールをします。
そうして担当者のグリップをしながら、稟議フローの確認や決裁権者へのアクセスを開始します。これ以降、実際にファーストクローズが近付けばDDQなどの業務が増えてくると想定しています。
これらを時にはGPと2人で、時には岩崎が単独で行う、というのが具体業務です。
この際に「我々はこういう存在で、こういう理由でx億円預けてください」という説明を、ひたすら業界外の方々にし続けることになります。どういうメッセージでどういうアクションを起こせば、どういう存在に見えるのか、を思考して営業をします。
GP達の実績のおかげで、有難いことに業界内では比較的地位のあるファンドかもしれませんが、当然エンタープライズの「これからCVCを始めよう」という方にとって、40人程度の弊社は鼻くそのような存在でしかないので、「我々は何者なのか」をシャープに伝えなければならない機会が非常に増えました。
また、既存LP様との接点も業務となり、彼らとの会話を通じて「インキュベイトファンドを何者だと捉えて、お金を預けて頂いているのか」がシャープになってきました。
プロダクトとしてのVCファンド
「起業家の伴走者」以外のVCとしての見られ方
1年前までの自分を思い返し、起業家やスタートアップのみを見て仕事をしていると色々とGPやファンド戦略の意図が分かりづらい部分がありました。
何故Valuation Capがここまで厳格についているのか
何故LPAはここまで厳格視されているのか
なぜxxよりyyの予定の方が重視されるのか
なぜ投資稟議のタイミングでこのようなことが聞かれるのか
など、挙げるとキリがないです。
でも、今回の業務を通じて、GPの考えやファンド戦略への解像度が一気に上がりました。
既存LPの方々は、インキュベイトファンドが自らに課している厳しい制約とファンド戦略を徹底しているからこそ、競合のVCと比較した際にインキュベイトファンドを選んでくださっていると実感しました。
また、新規LPの方々には、例えば「First Round,Lead Position(新規投資はシードから・リード投資のみ)」を貫いているからこそ、「自分たちはこういう存在なので、こういうことがあなたたちにできます」という説明が非常に簡略化され、LP候補の担当者から決裁権者に対する説明コストも低い(はず)です。
もう少し具体的に一例を出すと、「First Round,Lead Position」を貫くことで、Strategic Return目的のLP候補に対しては「必ず我々はリード投資家として創業期から関わっているので、GPを中心に他の投資家よりも起業家との関係値が深くなりやすいです」「シードから緩くイベントなどで起業家・LPとの接点構築をさせて頂くことで、然るべきタイミングで事業提携・資本提携の機会を創り出します」という風な文句で営業をすることができますし、実際に既存LP様からは価値を感じてくださっています。
もし自分が「エントリーラウンドがばらけており、リードorフォローが入り混じっているファンド」を売ることを考えると、上記とは他のストーリーで営業戦略を考えなければいけなさそうです。
ファンドのバリュープロポジションを全体設計に染みこませる
ここで重要なのが、表面的に「こういう投資をしたいです!しました!」ではなく、投資方針・重点投資領域・バリュエーションポリシー・管理報酬のリソース配分(新卒採用など含む)・既存LP構成…などファンド経営の構成要素を全てをインキュベイトファンドであれば「First Round,Lead Position」「Zero to Impact」「Build Industries」「More than a VC」などいくつかのタグラインからブラさずに集約することです。
時には目先の簡単に儲かるチャンスを逃しながらも、一貫するからこそLPをはじめステークホルダーに対して、説明コストが低く認めてもらえる存在になっています。
これはまさしく、ビジョナリーカンパニー2のハリネズミであり、スタートアップの定石の「一点突破」です。
スタートアップのプロダクトと同じで、「とにかくバリュープロポジションをシャープにすることで、刺さる人と刺さらない人をはっきりさせる」ということなのでしょう。
インキュベイトファンドも先ほどの「シードでリードだから~」をはじめ、いくつかの基本原理・基本概念をシャープにし、1点突破をする部分をブラさないことで、LP候補に対してバリュープロポジションをはっきりさせることができるのだと、ファンドレイズ業務を通じて感じました。
また、それらを自分の中で咀嚼することで、どのようなファンド経営戦略をGP陣が描いているかの解像度が上がった気がしています。
だからこそ、1年目の自分に伝えたいことは、LPAと過去のレイズ資料を徹底的に読み込むことです。LPAからその裏側にある背景やGPが思い描くファンド戦略の仮説を想像することで、(投資案件上程含めて)GPに物事を提案をする際に、GPが重要視していることの解像度が圧倒的に上がるはずです。
事業会社でいう中期経営計画なのかなと。
考え切れていないことのメモ
とはいえファンドである以上ポートフォリオ戦略・分散投資が重要だとよく聞く。この辺のリスクリターンの考え方がよく分かってない。
(再掲)機関投資家目線の解像度があまり上がっていない。
改めて、自分が独立する際に
また自分語りです。
インキュベイトファンドに入社を決めたタイミングから、いずれ自分のファンドを持てるような努力をしたいと考えています。
「良い投資ができる」「投資先を伸ばすことができる」にばかり注力していましたが、何よりも「LPからお金を集めることができるようになる」の重要性を改めて感じています。
また直近、「ファンドとGPにとって何より重要なのは応援団との信頼関係であり、筆頭の応援団がLP様である」という整理をしています。
なので、LP集めに限らず、自分がいずれファンドを持って応援団の方々と信頼関係を作るために「xxを1点突破する」がとにかく重要であることを改めて思い知らされています。結果、いい投資やいい支援に繋がるはずと。(この辺りは次の記事で書きます)
なのでまずはインキュベイトファンドの業務を邁進するということが大前提で、日々起業家の方々と議論をする「この企業のバリュープロポジションは何で、まず少ないリソースを何に対して1点突破をするのか」を自分も1人の起業を志す人間として考えることかなと。
VCを通じてやりたいことのアップデート
再掲ですが、改めていつかGPになってチャレンジをしたいことは、以下の通りでぶれていないです。
2023年末時点では「起業家-VC間で自分の求める【完全な仲間感】は難しいかもしれない」が、そこもできる限り追求しながら、「唯一無二のVCを作って、そのVCにしかできない唯一無二のミッションを掲げて挑戦したい」と思うようになりました。
今回のファンドレイズ業務を経て、インキュベイトファンドというプロダクトの精緻な戦略と社会的意義を言語化する機会を得たこそ、改めて自分は車輪の再発明のようなVCを作りたくないし、どのようなファンドを作りたいかの言語化をしなければいけないなと強く思っています。
結論、「武器を作ってポジションを取ろう!」みたいなシンプルな着地です、頑張ります。
次回予告
「ファンドレイズ業務を通じて、フロント業務では見えない色々な景色が見えてきたので、それを言語化して後輩達や自分の応援団に提供しよう!」のシリーズ第一弾でした。
次回は「ファンドレイズ業務を通じて見えた、VCの投資先支援」とかにしようかなと思ってます。
少しでも業界発展に貢献できますように!
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