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桑海——水門の消失

2005-02-14  たぶん昔は見渡す限りの水田だった平野。その真ん中、一キロ四方が新興の住宅地に変わった。そこが故郷の実家だ。小学1年から高校卒業まで暮らした。  我が家ができて数年の間、庭に大きなジョロウグモが巣をかけることがあった。ジョロウグモの吐く糸は丈夫できらきらと光に反射し、指で触ってみるとナイロン糸のような張りがあった。普段は現れないのだが、旅行で留守をしたりして庭を歩く者がいなくなると、張るのである。張られてしまうと、それが通路の真ん中だったりして邪魔な

    • 魂が望むことをした人

      旅館のお嬢様が音楽学校に上がることを反対されて諦めたあと、同い年の書生さんと駆け落ち同然に家を出て結婚した。それがわたしの祖母だ。 お隣からプラムをいただいた。庭の木になったのが熟れたから、と。 皮をむいて食べると手に甘酸っぱい香りが残る。そして、ふと祖母のことを思い出した。 祖母の家の庭には、果実がなる木がたくさんあって、わたしが初めてプラムという果物を食べたのも祖母の家だった。 生まれは明治末年。男女4人を生み育て、54歳で夫を亡くし、その後は未婚の娘とずっと二人暮ら

      • 洋菓子店「トマトランタン」のしっとりフロランタン追憶

        出会い 大学生らしき若い男の子が、他のおみやげ菓子に目もくれず特定の菓子の箱を5箱も持ち上げ、すたすたと手慣れた様子でレジに持っていくのを目撃した。それが、洋菓子店トマトランタンのフロランタンとの出会いでした。 年の瀬も迫った帰省ラッシュの時期。大学生の彼ははじめから目星をつけていたようで、
迷うことなくその菓子を買って新幹線ホームに消えて行きました。あのお菓子はきっと毎年恒例のおみやげで、お正月に親戚中で食べるんだな、美味しいんだろうな、と思ったら、わたしもつられて買って

        • 起立性調節障害について学んだことを話すよ

          わが中2息子、昨年末までは、むっちゃ元気でした。それが……。 経験者の方のお話でわたし自身がとても助けられたので、この半年でわたしが学んだことをまとめて置いておこうと思います。 発症前の息子わが中2息子、昨年末までは、むっちゃ元気でした。 朝6時半に家を出て、学校の開門と同時に教室に入るっていう(朝練があるわけでもないのに)。 親友もいるし、かつて小学校に行き渋ってたのがウソのようだったんですよ。 発症した時の息子それが今年の正月明けから、起きていられなくなりました

        桑海——水門の消失

          こぼれ話を置いておくので

          はじめまして。 中国語に関する仕事をしている者です。 日中国交正常化の年に生まれました。 誕生日はヘレン・ケラーと同じで、自分が発音の仕事をしていることには運命を感じています。 尊敬する人はアン・サリバン先生です。 ここではパーソナルなこぼれ話を書いていくと思います。 P.S. 尊敬する人はあと二人います。 翻訳家でエッセイストの村上春樹さんと、作家で文化人類学者の上橋菜穂子さんです。

          こぼれ話を置いておくので