水産業の未来を拓く「未利用魚」
こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。
食を取り巻く課題の一つに、漁獲したにも関わらず食べられずに廃棄されてしまう「未利用魚」の存在があります。
「Tカードみんなのエシカルフードラボ」は、自治体・漁師・地元事業者といった地域関係者、生活者、流通、食品メーカー、飲食関係者など、異なる立場のステークホルダーが対話しながら「未利用魚」を活用した商品を開発する共創の場「未利用魚活用プラットフォーム」を立ち上げました。「未利用魚」の活用を通じて、その存在を多くの方に伝え、海の恵みや持続可能な漁業、ひいては未来につながる食の循環に貢献することが目的です。
今回は、「未利用魚活用プラットフォーム」を立ち上げたラボリーダーの瀧田希さん(CCCMKホールディングス株式会社)、ラボコアメンバーの植草茂樹さん(公認会計士、東京農業大学客員教授)、佐々木ひろこさん(フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue代表理事)へのインタビューをお届けします。未利用魚を活用することの意義について、詳しくお話を伺いました。
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ー 佐々木さんと植草さんはラボのコアメンバーでもいらっしゃいますが、どのような経緯で「未利用魚活用プラットフォーム」の立ち上げに参画することになったのでしょうか?
(佐々木さん)
私は、主に料理業界と水産業界に軸足を置いて活動しているのですが、業界に対しては大きな課題感を感じています。そのような中で、瀧田さんから「未利用魚活用プラットフォーム」のお話をお聞きして、非常に魅力を感じたので、参画させてもらいたいとお願いしました。
(植草さん)
私は、農林水産省6次産業化サポートセンターで6次産業化を推進していたこともあり、未利用資源に価値を見出して発信していくことに元々強い関心がありました。持続可能な食を考える上では、特に日本は、海の未利用資源に目を向けることが大事だと思っています。水産資源が枯渇していく中で、タンパク質は取り続けなければいけないので。そういった課題意識から、「未利用魚活用プラットフォーム」に参画させていただいています。
ー 瀧田さん、植草さん、佐々木さんが「未利用魚活用プラットフォーム」を始動させたのはいつ頃でしょうか?
(佐々木さん)
「未利用魚活用プラットフォーム」の活動は、東京海洋大学学術研究院 海洋政策文化学部門准教授の松井 隆宏先生と「未利用魚」を定義するところから始まりました。2年ぐらい前のことです。その約半年後から、未利用魚の活用に取り組んでくださるステークホルダーを探し始めました。
ー 未利用魚を活用したい自治体・漁師・地元事業者といった地域関係者の方々はどのように探されたのでしょうか?
(瀧田さん)
植草さんと佐々木さんに、未利用魚について課題意識を持っていそうな地域を教えていただいて、1回お話してみる、ということを繰り返しました。
(植草さん)
漁業が盛んな地域は、何かしら課題を感じているんじゃないかと思ったんです。特に、魚種が多い地域であれば、未利用の魚も当然出るだろうという考えで候補を探しました。
私は自治体を中心に当たっていたのですが、正直そんなに困っていない、というお話もありましたね。未利用魚の活用に重点を置いている自治体は、それほど多くなかった、というのが現実です。魚を目の前にしている漁師さんはもちろん問題意識を持っていますが、それが自治体の政策にまで届いていない。そこが、難しい部分だと感じました。
(佐々木さん)
一般に、未利用魚が出やすいのは、定置網漁と底引き網漁なんです。要するに、色々な魚がたくさん取れて、そこから必要な魚だけを抜き出して使うという漁業です。セリや入札で価格がつかない魚は沖合で捨ててくるというパターンがとても多く、たとえ水揚げしたとしても、いわゆる「低利用魚」になるものもあります。低利用魚というのは、捨てられはしませんが、たとえばキロ単価数十円程度でまとめてフィッシュミール(養殖魚向けの飼料)用の加工に回るような魚です。それは「未利用」ではないものの、本来の価値に見合った使われ方をしているとは言えない場合があります。
ですが、そこに対して課題感を持つかどうかは、自治体によって異なりますね。植草さんのおっしゃるとおり、問題意識が自治体にまで届いていないことも多いのだと思います。
(植草さん)
自治体からすれば、練り物などに使っている、ということになるんですよね。その魚の値段がどうであるか、その魚自体が注目されているかどうかは別としても、使っていることには間違いないと。そういった考え方をする自治体に、未利用魚への問題意識を持ってもらうことはなかなか難しいです。
以前、未利用魚活用のプロジェクトを行なった長崎県の五島は、まさに練り物の産地でもありましたが、漁師さんの「未利用魚を活用したい」という想いが強かったからこそ商品化を実現できたのだと思います。そういう想いのある方にめぐり会うことが、活動を広げるためには大事だと感じています。
ー 漁師の方々ともお話をされてきたかと思いますが、未利用魚や低利用魚について、皆さんどのように考えていらっしゃるのでしょうか?
(佐々木さん)
本当に様々です。課題に感じている方もいれば、「売れてはいるから、別にいいよ」とおっしゃる方もいます。後者の方に対して、無理やり課題感に火をつけるわけにもいきません。
ですが、このような魚にもっと高い値がつく可能性があることを知っていただく機会を作れば、未利用魚活用の動きが広がる可能性は十分にあると考えています。
ー 未利用魚に対する認識に差がある中で、未利用魚を活用することの意義を、ステークホルダーの方々にどのように伝えましたか?
(瀧田さん)
持続可能な食、持続可能な漁業という文脈でお話をしています。もう一つは、タンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質クライシス」への備えという文脈です。食料自給率が低い日本では、唯一頼れるタンパク質がお魚なのに、捨てている場合ではないという話をしてきました。
私が今までお会いした漁師さんで、未利用魚の問題に目を向けている方は、こういった文脈で未利用魚活用の意義を感じていらっしゃいました。自分の収入が上がるということだけではなく、自分たちの海の問題として未利用魚に目を向けている方が、何とかしなきゃと声をあげています。
(植草さん)
視野を広げないと、問題意識が持ちづらいテーマですよね。漁師さんは生活がかかってるので、いかに高い魚を獲るかという話になりますし、1人の漁師さんが未利用魚の活用に関心を持つということは珍しいことなのかもしれません。
(佐々木さん)
目の前の浜のことしか知らない、隣の浜のことさえ別世界なので考えることもない、という漁業関係者の方は、比較的多いように感じています。そのような中で、水産業の未来や日本の自給率といったところにまで視野を広げられているかどうかが、このプラットフォームに食指が動くかどうかに直結していたように思います。
行政についても同じことが言えます。未利用魚の課題は水産業における課題の中のほんの一部ではありますが、水産業の未来、漁業者の方々の未来、その地域の子供たちの未来にまで関わってくるという風に、想像力を豊かに展開できるかどうかが重要です。
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ー 現在、愛媛県の八幡浜と千葉県の船橋が、「未利用魚活用プラットフォーム」に参画して未利用魚の商品化を進めていますが、どのような部分に共感して参加してくださったのでしょうか?
(植草さん)
八幡浜には、次第に漁獲量が減っている中で、未利用資源を活かさなきゃいけないという問題意識を持つ加工業者さんがいらっしゃったんです。ご自身で何かをしようと考えられていたタイミングで、ちょうどお会いしてお話ができ、参加いただくことになりました。
(佐々木さん)
船橋には、サステナブルな東京湾を作ることに長く取り組まれてきた方々がいらっしゃいます。スズキを将来に繋げる取り組みをずっとされていて、スズキの産卵期にあたる冬は別の漁業に切り替えているのですが、その時にコノシロを獲っているんです。コノシロを何とか生かせないかというお話から、今回の参加が決まりました。
コノシロ資源が潤沢にある、ということも重要でした。なぜなら、未利用魚の活用にあたっては、その魚種が減っていないことが絶対条件であると決めていたからです。未利用であっても、獲ること自体を避けるべき魚種で加工品を開発してマーケットを作ってしまうと、マイナスのインパクトが生まれてしまいます。この条件に当てはまる地域は本当に少なかったのですが、船橋はうまく合致しました。
ー ステークホルダーとして、流通の方々も参画されていますよね?
(瀧田さん)
「信濃屋」さんが八幡浜の皆さんと、「こだわりや」さんが船橋の皆さんとマッチングし、未利用魚の商品化プロジェクトを進めています。2社とも植草さんのお知り合いで、ラボの意義についてご理解されていて、「未利用魚活用プラットフォーム」への参画にも快諾いただきました。
(植草さん)
想いを持って販売いただける方、というのが重要だったと思います。
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ー 最後に、「未利用魚活用プラットフォーム」の今後の展開について、期待されていることをお聞かせください。
(植草さん)
未利用魚というテーマや取り組みは、だいぶ広がってきました。報道でもよく見ますし、活用事例も色々出てきています。現在の「未利用魚活用プラットフォーム」のミッションは加工品を作ることですが、発信も行いながら、未利用魚活用の動きをプラットフォームとしてさらに広げ、漁師さんが1円でも高く魚を売れる仕組みを実現できるといいですね。
日本の漁業が衰退していく中で、漁師さんが後を継げるような環境を作ることが最終的なゴールなのかなと思っています。個人的な話ですが、祖父は船橋の漁師だったんです。ですが、私の親の代では漁を続けるのが難しくて農業だけをすることになりました。そういう事実が身近なところにもあるので、やはり水産業が後に続く産業になってほしいと思っています。未利用魚の活用は、そのきっかけの一つになるかもしれません。
(佐々木さん)
未利用魚がブームになりかけていることには、問題意識も持っています。見ていると、「もったいない魚を何とかしよう」というフードロス文脈で語られることが多いんですよね。未利用の魚を今まで通り安く買って、それに付加価値をつけてお金にしていく、みたいなことが散見されます。
フードロス文脈ではなく、水産業の未来という文脈で未利用魚を捉えないといけないと思うんです。未利用魚も本来価値がある魚なので、水産業の現場の方々が、その価値に見合った対価を手に入れられるマーケットを作る必要があります。
現在、未利用魚の活用で多く見られるのは未成魚(幼魚)の活用で、これも問題だと思っています。たくさん獲ったものの小さくて売れないので、たとえばそれを炊き込みご飯にしてみよう、といった展開です。小さい魚を獲ることを推奨してしまうと、結局海の豊かさを損ねてしまうことになるので、そこにはストップをかけなければいけないと危機感を持っています。
(植草さん)
野菜の規格外品と未利用魚が同じように扱われる場合があると感じていますが、全然背景が違いますよね。数年前に瀧田さんと、未利用資源として何を活用すべきか議論しましたが、最終的に未利用魚に行き着いたのは、正確な知識を伝えていかないと問題が解決しないからだと思います。
(佐々木さん)
そうですね。なので、「未利用魚を活用しよう。でも、正しい未利用魚を使おう」というメッセージは、ラボとしても引き続き発信していきたいと思っています。
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■ Tカードみんなのエシカルフードラボ