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「日本的なエシカル」を紐解く|「エシカルフード基準」づくりの裏側 vol.4

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

エシカルフードの有識者12名と対話を重ね、2022年3月30日にラボが発表した「エシカルフード基準」。約1年かけて、「エシカルフード」を定義し、「どの食品がエシカルなのか」を示すための基準を策定しました。

国内において先進的な取り組みと言える基準の策定にあたって、運営面ではどのような課題や工夫があったのでしょうか。ラボの運営事務局の皆さんに「基準づくりの裏側」をお聞きしていきます。

今回は、前回に引き続き、ラボリーダーであるCCCMK ホールディングス株式会社の瀧田さんと、株式会社フューチャーセッションズの有福さんへのインタビューをお届けします。欧米で広がりつつある「エシカル」の概念は、そのまま日本にも適用できるものなのでしょうか。それとも、日本ならではの考え方があるのでしょうか。お二人の考えを伺いました。

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「調和」を重視する日本的なエシカル

ー エシカルの概念は、欧米では広く受け入れられつつありますが、日本でも浸透するのでしょうか?

(有福)
以前、エシカルについて話をした時に、「それって、元々日本にもあった考え方じゃない?」と言われたことがありました。たとえば、「足るを知る」という考え方や、あらゆるものに感謝する「いただきます」という言葉は、エシカルにも通じますが日本的ですよね。

島国である日本は、使える資源に限りがあります。なので、あらゆるものを循環させていかなければいけない、という状況が古くからあったのではないかと思います。昔からの知恵に立ち返ってみると、エシカルに通じる、よりよい行動のヒントがたくさん見つかるのではないでしょうか。

ラボの基準は、そうしたことも強く意識しながら作成しています。たとえば、参考にしたイギリスの「Ethical Consumer」の基準には、地産地消や伝統的製法の継承に関する項目は少なかったのですが、ラボでは基準に盛り込むことにこだわりました。

(瀧田)
エシカルは欧州で生まれて発展してきた概念ですが、欧州はキリスト教文化が浸透しているので、「神様が人間の行動を見ている」ということが前提の倫理感になっているような気がします。日本人は、あらゆるところに神が宿っているという感覚を持っているので、欧州人とは大きく違います。

欧州人がエシカルに行動しようとすると、非常にロジカルになるのではないかと思います。一方で、日本人は頭で考えるというより、昔から受け継がれてきた方法で自然と調和していく。元々、日本人の暮らしはかなりエシカルだったのではないでしょうか。たとえアウトプットが欧州と一緒だったとしても、そこにいたるまでの考え方は若干違うのではないかと思います。

(有福)
大いに共感です。瀧田さんが言った「調和」という言葉が、日本的なエシカルをよく表していると思うんです。

環境が厳しくなっていく中で、「こうやらねばならない」とロジカルに行動を組み立てるのが欧米的なエシカルで、「あるものをどのように使えば調和が取れるのか」と発想するのが日本的なエシカルではないでしょうか。

日本には物理的な制約が多いので、あるもので何とかする、足るを知る、という考え方がベースにあるように思います。足りなければ外に拡大して増やせばいい、という発想になりにくい。今、若い人たちがローカルに向かっていくのも、そうした考え方に基づいているのかもしれません。拡大、成長していくというより、循環、調和に基づく環境を生み出すことに、彼らは新しい可能性を見出しているのではないかと思うんです。

有福さん

ー ラボの「エシカルフード基準」にも、そのような考え方が取り込まれているのでしょうか?

 (有福)
そうですね。ラボがこだわった点の一つは、基準を加点評価にしているところです。「Ethical Consumer」は減点方式で、基準に達しているかどうかを厳しくチェックしています。ですので、項目レベルでは「Ethical Consumer」を参照させていただいているものの、根本的な考え方は違っていると言えます。

ロジカルに「基準をクリアしていない企業はだめだ」というコミュニケーションを取るのではなく、「少しでもいいものを増やしていきたい」という思想のもと、ラボでは基準の設計をしました。厳しく制限するのではなく、いい面を伸ばしていく。そんな空気づくりにこだわりながら、「エシカルフード基準」を作ったんです。

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食に感謝するということ

(有福)
少し話は変わりますが、私はラボの活動とは別で、「いただきますの日」を作るという活動をしています。生物多様性によって私たちの食卓は豊かになっている、ということを伝えるために、想いのある人たちが集まって進めている普及活動です。

お箸がたくさん並んでいるように見える11月11日を「いただきますの日」として、「みんなで食に感謝しましょう」というメッセージを発信しているのですが、その時に、食への感謝のしかたには5つの方向性があるのではないかと思ったんです。

自然の恵み、そのものに感謝すること。肉や魚、野菜など、いただくあらゆる命に感謝すること。生産者さんや、料理をしてくれる方など、食卓に料理が並ぶまでのあらゆる方々の行動に感謝すること。おいしく食べるための知恵に感謝すること。一緒に食べてくれる周りの方々に感謝すること。この5つです。

これらの感謝も、もしかしたらエシカルな考え方に通じるのかもしません。瀧田さんが宗教観の話をされていましたが、食事の前に発する言葉について考えてみると、欧米人は神様に感謝を述べています。神様が与えてくれたことに感謝している。一方で、日本人が「いただきます」と言う時は、神様に対していただきますと言っているわけではなくて、あらゆるものに言っていると思うんです。このように、日本土着の文化を調べていくと、日本的なエシカルがもっと見つかるのではないでしょうか。

(瀧田)
感謝のしかたのお話は、「エシカルフード基準」の有識者でいらっしゃる井出留美さんの、食品ロスについての考え方にも通じるものがあると思いました。ラボの発足当初に井出さんからお聞きして、とても感銘を受けた考え方です。

井出さんが話してくださったのは、一つの食品が完成するまでの過程には、たくさんの人々が関わっているということでした。たとえば、チョコレートであれば、インドネシアでカカオを生産する人、発酵する人、日本まで運ぶ人、日本で工場を動かして加工する人がいます。そうした一人ひとりの人間、つまり命から成り立っている食品は生命そのものであり、食品を捨てるという行為は、その命を捨てることに等しいのです。

この考え方にとても共感しますし、日本的なエシカルに通じるものがあると思います。

瀧田さん

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他国との違いから日本のエシカルを知る

(瀧田)
「Ethical Consumer」の基準には「地域」というカテゴリがないのですが、ラボの基準には取り入れています。その中に、有福さんもおっしゃった「伝統的製法の継承」があるのですが、「Ethical Consumer」からは「それはマーケティング領域の話であり、エシカルの話ではない」と言われたことが印象に残っています。

日本人にとって、「伝統的製法の継承」は地域の文化を脈々と受け継いで次世代に残すことを目的としたものです。もちろん、それをマーケティング的なアピールポイントとして打ち出すことは日本でもあるかもしれませんが、継承そのものをマーケティングと捉えているところに、イギリスのエシカルと日本のエシカルの感覚の差を感じました。

なので、欧米の方々や、アジアの他の国の方々と一度セッションをしてみたいという気持ちがあります。

(有福)
他国との違いを知ることで、日本らしさを再定義できるかもしれませんね。オリジナリティは違いからしか見出だせないので、ラボの活動として国を超えた対話ができると面白いと思います。

正直、SDGsもサステナビリティもエシカルも、欧米からの借り物の言葉だという気がするんです。単純に日本語に置き換えるのではなくて、きちんとその意味を理解した上で、日本の風土に合った形に意訳していくという作業が重要だと思っています。

日本の文脈に合わせたらどうなるのか、ということを丁寧に紐解いていくには時間がかかりますし、大変な作業ではありますが、とても意味のあることなのではないでしょうか。

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