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「エシカルフード基準」セッション対話録 第2回

エシカルフード・キックオフセッションDay2(2021年3月24日10-13時)

「エシカルフードについて多様な知恵を集める」
参加メンバー:五十音順
井出留美さん
蟹江憲史さん
河口眞理子さん
佐々木ひろこさん
須賀智子さん
中西悦子さん
平井巧さん
藤田友紀子さん
ぺオ・エクベリさん
森枝幹さん
山本謙治さん
「Tカードみんなのエシカルフードラボ」事務局メンバー


セッションDay1をふりかえり、「サステナブルな暮らしについて多様な知恵を集める」ことへの観点を整理。前回の有識者の発言を整理し、あらためて共有。その後、今回のセッションで「エシカルフードの定義」を検討するにあたり、エシカルフードについて多様な知恵を集める目的で、「持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準(エシカルフードの定義)とは」について対話した。セッションは有識者11名が2グループに分かれ、それぞれ同じ問いで行われた。

(グループ1・1回目)
山本
蟹江
佐々木
平井
藤田友紀子
井出

(問い)
持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準(エシカルフードの定義)とは?

(山本)
そもそもエシカルフードとはなにか。9年ほど北海道大学の博士課程にいて、倫理的消費についての研究をしてきました。「エシカルっていったいなに?」をずっと探し続けています。前回、ペオさんがサステナブルは定義化されているとおっしゃっていたけど、エシカルはその上位概念で欧米でも可視化されているものはない。定義しづらいものです。

イギリスの『エシカルコンシューマー』という雑誌では、エシカルで考えるべき話題は人(人権)、環境、動物(アニマルウエルフェア)といっています。


人への取り組み
・児童労働への対応
・賃金、労働者を搾取しない公正な報酬
・労働者の待遇の公正性、平等な待遇


環境への取り組み
・持続的な土地利用、天然資源の活用
・化学肥料、農薬などに起因する汚染の減少
・食品輸送などでの環境コスト削減


動物への取り組み
・動物実験の排除
・アニマルウエルフェアの実践

つまり、エシカルフードとはなにかといったときに、人、環境、動物への配慮がなされていることが重要であるといえると思います。では、「エシカルな配慮がなされている」ということがどういうことか。それはそのときどきで変わっていくものです。たとえばフードロスがクローズアップされてきたのはここ10年のこと。その前は倫理的といえば「環境」でしたが、今はそれだけではない。

ラボで「エシカルフードとはなにか?」を定義するにあたって具体的になにをしていくのか。欧米で問題になっていることと日本で問題になっていることも違うので、われわれの社会で何を話すか選ぶ作業は必要になってきますね。日本ではまだ動物実験にどれだけ関心をはらっているかということにあまり注目されていません。パームオイルもそれほど問題になっていない。われわれの社会で何を話そうか、選ぶ作業は必要です。

(蟹江)
エシカルとサステナブルの関係性についても考え方がいろいろ。インターネットの世界は「エシカルに物事を進めるのが大事」といわれますが、その点においてはSDGsの考え方が役に立つという話をします。SDGsはエシックス(倫理学)のどちらが上位かは議論の余地がある。エシックスをいまの世の中で考えると、いちばん普遍的なエシカルであることを体現したのがSDGsで示せているとも考えられます。

そういった意味では、いまある世界の範囲でSDGsを基本に考えると、エシカルな消費、エシカルフードというのも、確実に定義ができるのではないかと思います。

(井出)
エシカルフードというと、“もの”に焦点があたっていますが、エシカル消費というと“人の行動”にフォーカスする印象。本当は人の行動ももっと議論にいれたほうがいいと思います。エシカルな買い方、エシカルな売り方、エシカルなものの作り方を考えるという意味で。

買い方だったら、コロナ禍で世界的に買い占めがおきましたが、医療従事者、高齢者が買える分を残しておくとか。

売り方だったら、「1つ買うともうひとつ無料」という売り方がよくありますが、アイルランドではそれを禁止しています。フードロス対策として、まとめ売りをやめるところもでてきました。流通にとっては売れたほうが得ですが、倫理的に売るという考えが広まっています。

ものの作り方では、生産者の場合と食品メーカーでは違いますが、少し前にサッポロビールとファミリーマートが開発したビールで缶の表記にスペルミスがありました。でも「EじゃなくてもAじゃないか」という記事に100万以上ページビューがあり、世の中的な流れも後押ししてそのまま販売することになりました。中身が大丈夫なら捨てない。0リスクではなく、許容範囲を広げようという取り組みでもあったと思います。

(佐々木)
私は魚をメインにはたらきかけしていますが、「サステナブルシーフード」には、エシカルとは微妙に違っていてアニマルウエルフェアの概念は含まれていません。養殖事業においての外国人労働者の不当な雇用や、児童労働はしないといった人への配慮や環境への配慮はあります。サメでは、ヒレだけをとって生きたまま海に投げ込むという行動が行われていて、MSC認証ではそういったフィニング行為が禁止されていますが、日本ではまだまだ。絶対に導入しないといけない概念ですが、日本ではそこをどうするか。環境や人権よりも、アニマルウエルフェアを下に考えている人もいます。「とはいっても、人間のほうが大事でしょ」という議論が起こることが考えられます。

(平井)
エシカルフードの定義にあたり、抽象度と具体性のバランスが大事になってくると思います。あまりに具体的すぎると定義にはまらないものが多く出てきてしまうし、逆に抽象的すぎると何をいいたいのかわからなくなってしまう。実際の解決に向かわないことにもなってしまいます。定義を使う人、見る人の解釈、想像性も加味できると使いやすいスコアになりそう。

(山本)
平井さんがおっしゃっていることは重要ですよね。『エシカルコンシューマー』では食品に限らずですが、商品やサービスについて1990年台から「エシックスコア」をつくっています。スコアの方法を見ると、原子力にどう働きかけているかとか、軍事産業に対して資金提供をしていないかなど、日本だと物議をかもすものも含まれています。遺伝子組み替えに対しても議論が分かれるところですし、今回どういった色を出していくのかを考えないと。

(藤田)
小売、流通現場からすると、お客様は認証マークやラベルをよく見ている印象があります。ただ、いろいろな認証があって迷走しているところも。国や協会で基準が違うのでわかりにくい。消費者が認証マークの意味を知らないと、伝わらない気もします。そういった意味では、具体的なのもふわっとした抽象的なものも必要。

しばりが厳しすぎると、生産者がついてこられない。日本では生産人口が減っていて、高齢化の課題を抱える方や新規投資ができずにいる生産者が多くいて認証というと「うちはいいや」になってしまいます。

(山本)
そうですね、ハイレベルな人しか参加できないようなスコアリングにはしないほうがいいと思います。

(蟹江)
みんなが「これは必要」だと共通認識をもてるものと、個人個人で譲れない部分が違うものが出てくると思います。今回のラボではこれだけさまざまな背景をもつ専門家が集まっているので、そこを議論するのは大切な気がします。共通認識と専門家によって色がでるもの、その両方を見て考えていったほうがいい。

エシカルフードに、買い方、売り方、作り方という「行動」の部分を入れていくという観点にも賛成です。

(グループ2・1回目)
森枝
ペオ
須賀
中西
河口

(問い)
持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準(エシカルフードの定義)とは?

(ペオ)
動物の目からしたらエシカルかという議論は必要。絶滅危惧種を食べないことや温暖化を進める肉を減らす取り組みは当たり前。環境負担を減らし、環境価値を増やしましょう、よりよいことを増やしていきましょうということ。

(河口)
食べることは政治的な活動です。命を食べると考える意識は大切で、それでいうと環境負荷が大きいのは生産段階です。温暖化の問題に関しても、土はもっとも二酸化炭素を吸収する力があります。エシカルな消費だけでなく、農業の問題や、絶滅危惧は食べないといった生産に目を向けるのが基本だと考えます。

(須賀)
人が他者の命をいただいて生きているというのは大前提。それは人が生命そのものであり、自分自身が、人間が、循環の一部であるという認識につながります。料理して身体にとりいれるまでの一連の流れのなかで、すべてをいただくという共通の眼差しを持てることが大事。消費者庁による倫理的消費の意識調査をみると、消費の現場では「どれがエシカルなのかわからない」「そもそもエシカルな消費とはなんぞや」という声が大半を占めています。この活動で可視化できるといいと思います。

(森枝)
「お金がないからエシカルな消費は無理」という人たちに振り向いてもらうためには、どんなことができるか。いちばん簡単なのは、おいしいという驚きや楽しさといった、相手の感情をゆさぶることがひとつあると思います。消費者にストレスなく、情報が入りやすい柔軟に考えられるマインドになってもらうにはどうしたらいいか。そこはコミュニケーションのおもしろさがあると思います。生産者に目を向けるのはもちろん、興味のある人、ない人が二分化することは避けたい。

ブラックバスや虫を使って料理をしていた当初は、「気持ち悪い」といった反応しかありませんでしたが、ここ数年で意識が変わってきた感覚はあります。そのスピードをもっと速めることや、シェアすることができればいいなと思います。少しずつでもボトムアップしていければいい。

ペオさん、スウェーデンでは、意識が高い人が変わっていったのか、ルールで変えたのか、どういった流れだったんでしょうか?

(ペオ)
スウェーデンでは、環境教育は義務教育になっています。教えないといけない。環境ラベル認定は「私たちの友達である絶滅危惧種のものを買わない」ためにあるものだから、環境ラベルを探しましょうという教育がされます。楽しさ、おいしさがいちばん大事なのは当然ですが、レストランも教育者になる必要があります。

味だけで考えると日本のお寿司は当然おいしいものですが、MSC認定を知ると、そのおいしさが自分の口のためだけなのか、世界のためのおいしさなのかといった意識で考えられるようになります。天然がいいに決まっているし、おいしいに決まっていますが、「環境にとって正しい」情報に関して、こわがらないことも大切。その上でおいしさをどう伝えていくかですね。

魚や肉の話でいうと、ベジタリアンの人の多くは、動物かわいそうという理由ではなく、CO2減らすという意味でベジタリアンを選択しています。でも肉がすべていけないわけではないので、放し飼いの牛肉を今回のフードスコアのポイントに入れることはありだと思います。選択肢の幅は多いほうがいい。

揚げ足をとる人はヨーロッパでもいます。でもそういった人と戦うよりも、味方を増やしたほうがいいと思います。揶揄していた人が「自分が良くなかった」と思えるような環境になるといいですよね。

(河口)
日本食でベジタリアンをやろうとすると、味噌汁やごはんなど身近にたくさんあって、そういった生活もできる。ベジタリアンと主張しなくても、自然とやっている人が多いのかも。欧米との差はそこにもあるかもしれません。

ただ、表示はあったほうが選びやすいですよね。昆布やしいたけの出汁を使えば味噌汁はベジタリアンフードになります。今回のエシカルフードの定義にも、「肉を食べない」「ベジタリアン」という選択肢がポイントにあるといいと思います。

(須賀)
原点回帰というか、植物性への回帰。土地土地の風土や文化に合った食べ方につながる定義を入れられるといいですよね。

(森枝)
HACCPの義務化で、昔ながらの野菜や漬物の路上販売などができにくくなってしまった側面もあります。もともと日本人が食べてきた発酵食品などが先細りになっていかないよう、取り入れられるといい。

「持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準とは」について、メンバーを入れ替えてさらにセッションを行った。

(グループ1・2回目)
(メンバー)
平井
河口
藤田(友紀子)
山本
須賀

(問い)
持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準(エシカルフードの定義)とは?

(山本)
先ほどのグループでは、イギリスのエシカルコンシューマーでは、人、環境、動物への配慮と3つにわたっているという話をしました。蟹江さんのほうからは、その3つを反映したもの、かつ今日的なものがSDGsに具現化されているという話がありました。エシカルフードスコアでは、SDGsを参考に選択肢を考える方法はありだよねとも。

(河口)
たしかに人、環境、動物という配慮があるかないか、それらをどの段階でやるかどうかも考えないといけませんね。生産段階、小売段階なのか。私たちの先ほどのグループでは、環境負荷の大きい生産段階が重要だろうねという話がありました。

いちばん日本で弱いのは、アニマルウエルフェアの考え方。イギリスは動物愛護が古くからあるけど、日本だと動物福祉の意味がわからないという人もいるので、そこをしっかり伝えていくのが大事。人に対する配慮に関しては、SDGsで児童労働、強制労働などが取り上げるようになって、広まりつつあります。環境においても、「オーガニック」という言葉は好き嫌いにかかわらず一般的になっています。そう考えていくと、SDGsは学校教育でも伝わっている言葉なので、そこと結びつけたほうが、テクニカルな意味ではやりやすいと思います。

それから、「パタゴニアプロビジョンズ」の話で印象的だったのは、食べるというのは政治的なアクションであるということ。あなたは食べるもので出来ている。そういう部分を見直すことも重要。本来食は、自分にも社会に対しても強い行動なんだけど、食べることを無自覚にやっていて、真剣に向き合ってない人も多い。

ひとつひとつのフードがエシカルかの前段階で、食べることの意味から考え直そうよというのもあわせて伝えていきたい。というのも、適当に食べている人にはいくら伝えても響かない。「そもそも食とは」を前段にいれることで、エシカルの選択肢の理由を知ってもらうという方法はいいと思います。

(山本)
アニマルウエルフェアは難しいですよね。僕は畜産関係の仕事をしていますが、日本とヨーロッパでは基準が違いすぎます。ヨーロッパではバタリーケージに鳥をおさめて飼うという方式が犯罪という認識すらあります。より広いケージ、放し飼いの方向に誘導されていますが、それは日本ではまったくストップしてしまっています。

それを日本では、卵に糞がつくとサルモネラ菌が付着して生食ができなくなってしまうから、衛生面の問題でケージにしているという人もいます。でも、とある会社が賄賂をわたして、世界基準をとりいれないよう働きかけていたことが判明してしまいました。

日本の基準は9割型独自のもの。肉牛や養豚も世界基準とかけ離れているところも多い。そんな日本でアニマルウエルフェアをきちんとやりましょうとなったとき、日本中の畜産農家が対応できなくなってしまうことも考えられる。エシカルフードの項目に入れるなら、どこが基準となるかを丁寧に考えていかないと。

(河口)
平飼いの卵は項目として入れたいですよね。

(山本)
もちろんです。そういった欧米型の配慮をしているのは全体の5%くらいだと思います。そこを応援するような項目はもちろんありだと思います。

(河口)
日本では、卵が物価の優等生といわれる。そのためにバタリーケージで抗生剤をたっぷり使った卵が販売されています。ひとつ50円の平飼いの卵は高すぎて買えませんといわれてしまう。確かにそうかもしれない。、でもそういう方は、100円、200円のスナック菓子を当たり前に食べていたりもする。本当に50円の卵は高いのか?日本でエシカルをすすめるなら、1個50円の平飼いの卵を大事に食べるのは良いという世の中にする必要があります。

逆に、毎日は食べない高級食材が1000円から1200円になってもそれほど気にしないという考え方もある。まずは、多くの人が毎日卵が置かれる状況を知ってもらわないと、なんでエシカルがいいのかを理解してもらえません。平飼い卵の現状5%を10%にできるのであれば、このエシカルフードスコアの意義がありそう。

あとは「エシカルなものは高い」という発想、食のヒエラルキーへの言及も必要かと思います。エシカルというと、50円の卵にしたら、牛肉は100g2000円にしなくちゃバランスがとれない、と思いがちです。でも、エシカルでない安い輸入牛肉を食べるかわりに、平飼いの卵で卵かけごはんを食べたほうが、支払い金額は少なくて、満足度が高いという考え方もあります。今ある食のヒエラルキーの意識をくずすことを同時にしていかないと、「エシカル」が金持ちの道楽のような意味合いで受け入れられかねない。

(須賀)
卵ひとつとってもこれだけの議論があるので、このセッションでどこまで具現化するのか、適切な抽象度という観点で迷うところではあります。さきほどのグループでも食のヒエラルキーにとらわれない食材との向き合い方、多様性へ目を向けていく話をしていました。本来あるべき生態というものに、想像力が働く分野から考えるというアプローチはありますよね。卵、牛乳といったデイリーなものから議論の抽象度を下げていくのはひとつ。

あとは、興味をもってもらうことに対してですが、今回のエシカルフードスコアは一般消費者が対象になるので、対象者にとって受け入れやすい、取り入れやすい形を担保していく必要があります。

(河口)
農水省がやっている『みどりの食料システム戦略』というのは参考になると思います。生物多様性についても戦略を立てているので、そことリンクしていると、生産者にも話をもっていきやすい。

あとは添加物が多いものは避けるというのもポイントに入れたい。原材料の表記の枠ができるだけ小さく、余計なものが入っていないという観点も大事。

(須賀)
食品表示法などの法制度に抜け穴があったりするので、伝達方法で一般の消費者が真に理解できる形になっていないのも問題ですよね。表示を見て安心する、でも安心しきっていいのか。そういったところも論点としてはあるのかもしれません。

(河口)
これはゆくゆくの話かもしれませんが、「ゲノム編集」の話もあります。例えば太り過ぎを制御するDNAをたちきると太り続けるブタができたりする。生産性は高いし、CO2削減に寄与するといったメリットがあるという主張もあります。それならエコだという人もいますが、果たして倫理的に長期的な安全性はどうか、という難しい問題をどうするかは出てきます。

(山本)
河口さんは、企業の環境排出報告書やCSRにタッチしていますが、企業的なランキングを出すことで正しいジャッジはできるものなんでしょうか?

(河口)
あれは、会社の商品ひとつひとつがエシカルかということではなく、会社の経営姿勢の評価となります。商品評価とはギャップがあると思います。エシカル経営で評価される企業があったとしても、製品がすべてエシカルとは限りません。企業姿勢と商品の評価とそこは分けて考える必要があります。

(山本)
それはよくわかります。国産度の高い商品に対するアワードの審査員をしていました。その際に、例えていうなら「99%は輸入小麦を使っているのに、広告のために1%だけ国産の米粉パンを作っている巨大企業」が応募してきた場合、それは評価できるのかという問題がありました。大手なので、受賞すれば社会的にインパクトがあり、よい影響力もあるかもしれない。ただ、私個人的にはそれは評価すべきではないと感じていました。

(河口)
ただ、その企業にエシカル商品の推進をがんばっている社員がいて、社内でエシカルより利益優先の勢力とせめぎあいがあるのだとしたら賞をあたえる価値はある。その米粉パンを1%から5、10%と増やしていけるのであれば応援するという考えもあり。でももともと宣伝として使うことしか考えておらず、せめぎあいもないのであれば応援する価値はないですよね。会社の姿勢との兼ね合いを考えていくことも大事。

(グループ2・2回目)
(メンバー)
ペオ
佐々木
井出
蟹江
中西
森枝

(問い)
持続可能な社会の実現に向けて、みんながよりよい“食”に関する選択ができるための基準(エシカルフードの定義)とは?

(井出)
先ほどのグループでは、エシカルフードというともの、エシカル消費というと行動にフォーカス。ものだけでなく行動も考え方にいれたほうがいいのでは。エシカルな買い方、売り方、作り方。消費、小売、生産を考える必要があるという話題が出ました。

具体的には、エシカルな買い方でいうと、コロナ禍で買い占めが起きたけど、ほかの人のことを考えて買う。売り方というのは、バイワンテイクフォーフリー。それをアイルランドでは禁止。売れば売るほど儲かるけど、倫理的なことを考えてまとめ売りをやめる。共通するのは、ひとりじめしない、自分さえよければいいではないという観点です。

生産に関しては、ビールのスペルミスで回収が一転発売になったことを例に、中身に問題なければいいといったエシカルな行動を考えることも重要という話をしました。

(佐々木)
環境、人間、動物への配慮の中でもアニマルウエルフェアが受け入れられづらい日本で、どう着地させていくかは考えていかないといけません。

生産から消費の場に流れていくまで、レストランや製造、流通小売というのは、生産の場と消費の場をつなぐ役割をもっている、2本の手をもっているという表現をよくします。サプライチェーンの中でレストランや流通、小売のできることは大きいし、助言できることもあるはず。生産者に助言でき、消費の場にはそれを伝えることができるという役割を知らせることは必要だと思いますが、それをどうエシカルフードの項目に反映させることができるかは課題。

(ペオ)
全世界への影響を考えると、それは正しい食べ物か、世界的レベルの観点が大事。畜産業は、車よりもCO2排出量が多い。ベジタリアンのことはエシカルフードの項目に入れるべきだと思います。肉でも放し飼いは入れていいと思います。スウェーデンのあるスーパーでは、消費者が選べるように、普通の肉はブラックトレーで、有機や放し飼いの肉はグリーントレーに入って売っているところもあります。それでポイントもらえると、消費者も変わっていくのでは。

(森枝)
日本では、アニマルウエルフェアの肉を探したくても見つからないし、放し飼いの肉や卵を使いたくても価格的に難しいところはあります。化学調味料を使っても自分で料理をする人をよしとするのか、エシカルな食材を使った出来合いのものを食べるほうがいいとするのか、外食でエシカルなものしか食べない人がいいのか、といった観点もありそう。

あとは、遠くから輸送されるオーガニックの野菜はいいの? といったことも。

(ペオ)
100%でなくても、少しずつやっていくのがいいと思います。日本では、ゴールなしで向かおうとしているから迷いやすい。最初は弱い基準でいいから選択肢をつくって、少しずつ、段階つくっていくといいのでは。

(蟹江)
SDGsという大きな目標の達成まで9年。その時点で到達しているという考え方が大事。一気に変えようと思っても変わらない。到達するための9年をどう使っていくか。

エシカルということを考えると、SDGsは全部エシカルなので、そこに書いてあることを参考にするのは大事です。SDGsを参考にスコアをつくって、そこにどうやって辿り着いていくのかを考えるのがいいのではないでしょうか。

メーカーや団体、専門家によっても優先順位が違うと思いますがSDGsの部分は最終的にすべて到達しているというシナリオを描くのがいいのでは。

(井出)
京都市では、飲食店に対しては、食べ残し0認定制度を実施しています。それは「持ち帰り容器がある」「ハーフサイズを用意している」など8項目の中で2項目やっていたらOKというもの。すべてを満たさないとダメではなく、2つ以上で認定マークを使えるシステムをつくっています。

飲食だけじゃなく小売やスーパーにも展開していて、そのゆるさがいいと思います。ひとつやっていると、次もやりたくなるものなので、最初からすべてじゃなくていい。マラソン選手はゴールではなく次の電柱まで行くことを目指すと聞きますがその考え。実行しやすいように細切れにすることも大切です。

エシカルフードの定義に関するさまざまな観点を有識者同士で対話をしたうえで、11名の有識者が思うそれぞれの「エシカルフードの定義」と「エシカルな食の消費行動」を、以下の問いに答える形でアウトプットした。想定する購買ストーリーは、架空の人物や理想のストーリーでも、自分が実際に行っていることでもよいという前提。


エシカルな食にこだわる人がとっている象徴的な購買ストーリーは?

その人が購買行動において大事にしている観点は?

その観点を選んだ理由は?

(井出)
ひとりだけの利益を考えたとたんにサプライチェーンがゆがんでくるので、適量を買うという考えをもつことで、大量生産、大量販売、大量消費がなくなると思います。エシカルフードというと“もの”に意識がいきがちですが、そこに徹してしまうとメーカー側が評価されることに「納得いかない」と反発心が出てくることも。「成熟すべき消費行動」、「購買行動」というところにフォーカスするのがいいのでは。

(蟹江)
自分の言葉で腑に落ちる言葉をもっている人。ひとつひとつはシンプルでも、それをたくさんもっている人がいる。それによってエシカルな行動の範囲が変わってくるのではないかと思います。コンセプチュアルな話ですが、「エシカル」というと、いいことをするという話になってしまう。そうすると「いいこと」に反発するとか、避けたいという捉え方もあって拒否反応を示す人もいます。「エシカル」という言葉をどう使うか、ワーディングは考える必要があるのではないかと思います。

(河口)
私は自分のライフスタイルを考えました。この食品は環境にいいけど「まずい」ではつながらないので、食べる喜びを享受できることは大切。モノは手作りの職人からものを買う、豆腐は豆腐屋から買おうという意識がうまれるとちょっとずつ変わっていくと思います。

(佐々木)
いきなり完全なエシカルにもっていくのは難しいので、目線を下げた想定です。すでにサステナブルに目が向いている人、高い人の意識はすごく少ない。そこにフォーカスをしても社会は変わらない。エシカルへの興味が0や1の人を、2、3にするというのがいいのではと思います。情報が増えるほど、2、3と増えていく可能性はあると感じました。

(須賀)
私が携わるメディアでは「世界のスーパーマーケット最前線」という企画を連載していますが、ベルギーのあるビオマーケットでは、ほぼすべての食材の値札に、価格の内訳として生産者や流通にどれだけ分配されているかを示す円グラフが明記されていました。消費の現場までに関わる人やコトについて買う側がわかる。これは重要なこと。消費と生産をセットにした形で、食材を体系的に多面的に理解することが、他者や環境を尊重する価値観につながると考えます。

(中西)
アニマルウエルフェアなど足りない部分の意識をどうもっていけるか、システムをどう変えるかという観点は必要。日本は消費者の筋肉が強いし、自分の健康を考えることは得意だけど、その先にある社会の健康までつながるほうがいいという「ワンヘルス」の考えをどう広めるかは大切。

(平井)
エシカルフードスコアがどう広がるかを考えるとヒントがありそう。「どうしてエシカルフードを定義づけてその購買行動にスコアをつけたいのか?」。それは、多くの人に知ってもらいたいから。でもスコアがあることで食に対して「面倒くさい」「つまらない」と思われないような仕組みをつくることも大切。人を呼び込むためのスコアをつくって賑わいが生まれてこそ、何かを生み出せるので、そういう道筋をつくることがサステナブルだと感じます。

(藤田友紀子)
問題を生み出す商品よりも、問題解決に近づける商品を選びたいという意識をもつことは大切。買い物は「選挙」と考えると、自分の買ったことで社会がつくられるし、いいものを残して、未来につなげられるという感覚がわかると思います。

(森枝)
ストーリー仕立てということだったので、「エシカル子ちゃん」の1日を想定しました。こんな生活をしている人はいないか、ごくわずかだと思うけど、「週末だけやってみよう」とか、「今日だけはエシカルな日」というやり方なら、無理せずできるかも。

(ペオ)
スウェーデンのスーパーには、エコラベル認定のある商品にクローバーのマークがついていて、レシートでわかるようになっています。レシートを見れば、自分が購入した商品のどれがエシカルかということが見えるシステムになっています。こういったものを参考にするのもいい。あとは、野生動物を食べるのはエシカルかという問題は多いにあります。ヨーロッパではジビエを選ばないという認識があります。

(山本)
食で何を選び、何を買うかは「選挙」という認識。常にエシカルが理想だけど、それは難しいので懐具合と相談しつつ、やれる範囲でやっていく。毎日続けられなくても、「今日はエシカル購買をしようと」いう1回だけの買い物も、社会貢献になっていることを知ることは大切。自分の消費行動が社会を変革できると信じることですよね。

それから、エシカルなものが欲しいと思う消費者がいることを生産者や流通に知ってもらえるようにコミュニケーションすることも大切。やはりエシカルを広げるための最大パワーは消費者にあると思います。

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