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「未利用魚」という魚は、海の中にはいない

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

食を取り巻く課題の一つに、漁獲したにも関わらず食べられずに廃棄されてしまう「未利用魚」の存在があります。

「Tカードみんなのエシカルフードラボ」は、自治体・漁師・地元事業者といった地域関係者、生活者、流通、食品メーカー、飲食関係者など、異なる立場のステークホルダーが対話しながら「未利用魚」を活用した商品を開発する共創の場未利用魚活用プラットフォームを立ち上げました。「未利用魚」の活用を通じて、その存在を多くの方に伝え、海の恵みや持続可能な漁業、ひいては未来につながる食の循環に貢献することが目的です。

今回は、「未利用魚活用プラットフォーム」での商品開発に「愛媛県・八幡浜チーム」の一員として参画されている、松浦康夫さん(株式会社オーシャンドリーム)へのインタビューをお届けします。八幡浜の漁業を取り巻く課題や、未利用魚活用の意義について、お話を伺いました。

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ー 松浦さんは、愛媛県八幡浜市で水産加工会社を経営されていますが、八幡浜の漁業には現在どのような課題があるとお考えですか?

(松浦さん)
まず、水揚げ額が落ちているという課題があります。最盛期で約160億円あった年間水揚げ額が、今は30億円を切っているという状況です。

また、温暖化の影響によって、海の四季がなくなっています。この時期にはこんな美味しい魚が穫れる、といった旬が崩れつつあります。

魚が獲れない上に、原油高で燃料費が上がっているので、廃業される漁師さんがますます増えているというのが八幡浜の現状です。

ー そのような中で、松浦さんは早くから未利用魚の活用に取り組まれていたとお聞きしました。

(松浦さん)
はい。愛媛県にお声掛けいただいたことが、未利用魚活用のきっかけです。未利用魚や低価格魚を子どもたちの給食として提供し、魚食を促進する取り組みのメンバーとして選ばれたんです。

私たちが最初に手掛けた魚は、ハモでした。天神や祇園で扱われる間はかなり値段も高いのですが、その期間が終わると二束三文にしかならなくなってしまうので、ハモを使った給食を考えました。

ー この取り組みには、長く携わられているのでしょうか?

(松浦さん)
そうですね、もう10年ぐらい続けています。

松浦さん

ー 未利用魚の活用を継続されてきた中で、今回「未利用魚活用プラットフォーム」の話をお聞きになって、どのような思いから参加を決められましたか?

(松浦さん)
お声掛けいただいたことを、大変嬉しく思っています。ぜひ参加できたら、という思いで、流通企業さんとのマッチングセッションに臨みました。

元々は、マエソという魚を扱いたいと思っていたのですが、この魚は練り物の材料にも使われるので厳密には未利用魚ではない、という結論になりました。そこで、候補として挙がったのがアイゴでした。最初はためらいもあったのですが、アイゴに変えてよかったと今では思っています。

ー アイゴの活用にためらいがあったのは、なぜですか?

(松浦さん)
以前、アイゴを練り物にしてほしいという依頼を受け、一度試してみたことがあるんです。

アイゴは海の中の海藻類を食べてしまうので、「磯焼け」の原因とされる魚でして、愛媛県では駆除の対象になっています。磯焼けによって、小魚の隠れる場所や、イカなどが卵を産みつけて孵化させる場所がなくなっているんです。

そんなアイゴを活用するという取り組みだったのですが、鮮度があまりよくないものが回ってきまして、臭いがかなりひどかったんです。その上、猛毒を持っている魚なので、刺されると手が腫れ上がります。あまり触りたくない魚だという印象が残っていて、最初はためらいがありました。

ー 扱いが難しい魚なのですね。今回、作りたい商品のイメージは何かお持ちだったのでしょうか?

(松浦さん)
なんでもかんでも、形を潰して練り物にすればいいという考え方ができず、練り物だけは避けたいと思っていました。

そのような前提があった中で、信濃屋の岩崎さんから「お酒に合うおつまみ」としてオイル商品の開発をご提案いただきました。以前からオイル商品は色々と作っていましたし、「この人とであれば、何かやれるな」と感じ、信濃屋さんと組みたいという意思表明をさせていただきました。

ー やりたいことが、お互いに合致したのですね。

(松浦さん)
そうですね、相思相愛だったと思います。岩崎さんも、私たちのようなところを探してくれていたような気がします。

ー 再びアイゴを活用されることになりましたが、印象の変化はありましたか?

(松浦さん)
八幡浜は、年間200種類ぐらいの魚が水揚げされる場所です。アジやサバ、イカ、マダイ、ブリなど、食べやすく美味しい魚が手に入るので、わざわざ痛い思いをしながらアイゴを扱ったり、骨切りのように面倒な作業が必要なハモを扱ったりしなくてもいいわけです。

なので、私たちも今まで、新鮮なアイゴを食べたことがありませんでした。ですが、今回活かしたアイゴを試食させていただいたところ、「アイゴってこんなに美味しいんだ」と感動したんです。これならやってみたい、という思いが高まりまして、活用を決めました。

ー 新鮮なアイゴの味わいには、どのような特徴があるのでしょうか。

(松浦さん)
鮮度がよければ臭いもありませんし、刺身で食べると、味や食感はシマアジに似ているような印象を持ちました。青魚に近いような味わいです。

アイゴ

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ー 松浦さんは、未利用魚を使用した商品開発に長く携わられていますが、「未利用魚活用プラットフォーム」の利点はどこにあると感じていらっしゃいますか?

(松浦さん)
これまでは、自分たちで商品を開発した後に、展示会等に出てお客様を探すというやり方をしてきました。ですが、「未利用魚活用プラットフォーム」では、相思相愛になりさえすれば、最初から流通の方と一緒に商品開発ができるという安心感があります。

また、通常では、一般消費者の声を聞けるのは商品が店頭に並んだ後のことなので、商品開発の途中からT会員の方々のご意見を頂戴できたこともよかったです。

ー 信濃屋さんとは相思相愛というお話もありましたが、実際に商品開発をしてみていかがでしたか?

(松浦さん)
強いこだわりを持っていらっしゃるので、試食の度に宿題をいただきました。醤油は木桶仕込み、オリーブオイルはエキストラヴァージンオリーブオイル、といった具合で、塩や胡椒も含めて原材料にはかなりこだわっています。

ー T会員の皆様と対話する中では、何か新たな発見はありましたか?

(松浦さん)
これからの日本の海で獲れる魚のことを、真剣に考えてくださっていることに驚きました。おそらく、現状がここまでひどいということはご存知ないと思うのですが、「未利用魚を食べることが海のためになるのであれば、お手伝いしたい」という強い思いを、前回お会いした時に感じました。

嬉しかったのが、「試食用のアイゴがもし余っているなら持ち帰って、レシピを考えてみたいです」という方がいらっしゃったことです。ありがたかったですね。積極的な方が多く、とても心強かったです。

考えていただいたレシピを発信できれば、一般のお客さんも商品を手に取りやすくなりますし、アイゴたちも喜ぶと思います。

八幡浜

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ー もうすぐ商品が販売になりますが、どのような方に商品を届けたいとお考えですか?

(松浦さん)
SDGsに関心のある方、未来の海の環境を守っていきたいと思っている方にまずは食べていただきたいです。そのような方々から、口コミで広がっていくような商品になったらと思っています。

ー 今回の商品開発プロジェクトを通じて、消費者の方にどのようなメッセージを伝えていきたいですか?

(松浦さん)
おそらく、浜の現状はあまり理解されていないと思うんです。「朝、市場に行けば、何でも魚があるだろう」と言われることもあります。ですが、特に冬場、少し海がしけると、魚がほとんどない、まったくない、という日が多々あります。

浜に、定置網漁をされているご夫婦がいらっしゃって、以前お話を伺ったのですが、「正直に言って、今のままでは生活ができない。魚は安く、所得が上がらない。子供たちに後を継がせるような余裕もない」とおっしゃっていました。

中でも、「未利用魚っていう魚は、海の中にはいない」という、お父さんの言葉が印象的でした。心に響きましたね。確かに、魚には必ず名前があるんです。

ですから、漁師さんの所得が上がるように、私たちも努力しないといけません。様々な魚を使って商品開発を続けていきたいと思っています。次は、クロダイに挑戦しようと考えているんです。クロダイも磯焼けの原因になる魚なので、アイゴのようにオイル商品にできないかと、現在模索中です。

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■ Tカードみんなのエシカルフードラボ


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