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『ラストデイ』

静かな海辺の港町、僕たちは古びた旅館の一室で年末のテレビ番組を見ながら、みかんを食べた。「みかんを食べるといつもこうなるよね」と言って、君が僕の黄色く染まった手を見て子供のような笑顔で微笑み、僕も君と同じように染まった手を見て笑った。ちょうど一年前、付き合う前にも炬燵で年末の番組を見ながらみかんを食べていた。

その部屋には、壁にはかすれた大きな絵画が一枚、色褪せた海の景色を描いている。部屋の奥では、古いストーブがジリジリと音を立て、その暖かい光が古木の床に優しく反射している。

雪は降る気配はないが、君とまたここで来年に雪だるまを作ろうという約束をした。未来の約束を語り合うのは不思議なほど心地よく、君とならどんな未来も描ける気がしたから。窓の外には、冬の海が広がり、波の音が遠くで聞こえていた。静かな海の音とストーブの不規則な音は時の流れを忘れさせてくれる。

五夜が過ぎ、部屋の窓から見える星々が徐々に色を変える中で僕たちは目覚めた。身支度を整えて、白湯を飲み静かな街を抜け、人気のない坂の上で新年の最初の日の出を待った。街灯のぼんやりとした光が、二人を照らし影は静かに伸びる。僕たちは、お互いの影を重ねたり、影踏みをして遊んだ。次第に身体が暖かくなり、濃い息白がモクモクと舞う。

坂の下に立っている自動販売機から、僕は暖かい缶コーヒーを買って君に手渡した。君はそれを握りしめ、「暖かいね」と微笑んで僕の手を優しく握った。ジョージアの缶コーヒーの香りが、夜の寒さを少し和らげてくれた。

朝日が空を柔らかなオレンジ色に染め始めると、僕たちは手を繋ぎ、昨夜見た星空や遠くの灯台の光のことを話しながら、些細な出来事を大切にしようと誓った。いつまでも、いつまでも、笑顔でいようと。繰り返す毎日が、これからも続いていくように。歩くたびに、足元から小石が転がり落ち、その音が僕たちの歩みを伴奏していた。

柔らかな朝日が昇り、僕たちは新しい年の始まりを迎えた。今は一人、その日々を思い出しながら、ふたりで見た世界の意味を歩いていく。その道は、どこまでも長く続いていて、どこか懐かしい匂いがした。

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