2023年1月26日の日本経済新聞、生保・銀行、外債売りに転換 という記事から

日本の投資家が外国債券の売りを増やしている。2022年の中長期債の売越額は22兆円に迫り、過去最大になった。為替変動リスクを抑える為替ヘッジのコストが上がるなど、投資妙味が薄れたためだ。日本勢は金融緩和下で80兆円を外債に投じてきた。日本マネーが国債に回帰すれば、金利上昇を抑える可能性がある。
2023/1/26 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67886060V20C23A1ENG000/

生命保険会社の資産運用

他人の金銭を預かることを業務にする会社、組合、その他の組織は社会の中に多く存在する。かつてザ・生保といわれた時代があるように、保険の成熟市場といわれる日本において、大量の長期性の資金を蓄積する生命保険会社の資産運用の運用市場に与えるインパクトは、いつの時代であっても大きいといえるのだろう。

この生保の資産運用方法であるが、何に対して運用しているかという観点からざっくりとしたイメージを持っておきたい。直近の資料では、月次ベースで22年11月(下記参照)、年次ベースでは22年3月末のものが生保協会のHPで参照できた。有価証券は全体の約8割、日本国債が約4割、外国証券(年次統計の有価証券明細表上、外国証券の内訳をみると、国債、地方債、社債、株式、その他が含まれる)が約25%といったところか。
なお、年次統計の有価証券明細表は文字通り有価証券の明細であるため、比率が膨らんでいることに注意する必要がある。

生保協会 生命保険事業概況 月次統計 2022年11月 https://www.seiho.or.jp/data/statistics/summary/
保協会 生命保険事業概況 年次統計 2022年3月末(有価証券明細表)
https://www.seiho.or.jp/data/statistics/summary/

資産別運用比率規制の撤廃(平成24年・2012年)と資産運用法のガバナンス

かつての保険業法施行規則48条では、資産別に総資産の一定割合を上限とし、これを超えては運用してはならないと定められていたが、この改正ですべて削除された。
たとえば、おおむね国内株式30%、不動産20%、外貨建資産30%などと定められていた。
改正前後の条文対照表とパブリックコメントはこちら。
https://www.fsa.go.jp/news/23/hoken/20120418-1.html

ちなみに、上記の法規制が撤廃されたからといって、当然のことながら、自社の全くの裁量で自由に運用をしてよいということになるものではない。改正後もなお、個社ごとに資産運用方法に関する規律、ガバナンス体制をもって運用を行う必要があることに変わりはない。(仔細は別途)

国内投資家の米国債の売り越しトレンド(2022年5月時点のニッセイ基礎研究所レポート 上野剛志氏)

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71262?pno=2&site=nli

今回の日経の記事は、22年を通じて、日本の投資家に過去最大(22兆円)の中長期債の売り越しのトレンドが見られたということを述べている。

この点、このレポートは、日経記事より遡ること22年5月の時点で、2022年に入ってから、世界的にインフレに拍車がかかり、先々の金融引き締めを織り込んで海外主要国の市場金利が大きく上昇したこと、外債の投資環境が大きく変化する中で、国内投資家が外国債券に対してどのような投資行動を採ったのかを確認したものだ。詳細はレポート自体を見ていただくとして、大きな流れを自分なりに大づかみに整理すると、以下のようになる。

  • 物価高、インフレ傾向

  • 中央銀行による金融政策における緩和縮小、金融引き締めの傾向~日本国債との金利差の拡大(短期も、長期も)

  • これにより、例えば米国債の金利上昇に伴うインカムゲインの拡大

  • 一方で、既存の米国債の価格下落(キャピタルゲインの縮小、時価評価に伴うBSの悪化)

  • 金利差拡大による為替ヘッジコストの増加(米国債の利回りから差し引くと実質マイナス利回り)

  • 今後の動きとしてさらなる利上げのリスクを警戒

  • このような状況で、例えば、米国債の売り越し、フランス債、豪州債へのシフトがみられた

  • 誰が売り越したか? 多くは銀行、そして生保も

  • なお、生保に関しては、1-2月にかけて国内長期債への投資を活発化する動きが見られたが、3-4月は鈍化。日銀が将来金利上昇を許容した場合に(価格下落リスクを抱えるため)慎重化につながったのではないか。

その後の動向はどうであったか?少なくとも今回取り上げた日経記事は、2022年を通じて、外債の売り越しが目立ったことを述べている。ただ、売られて手元に戻った資金を代わりにどこに移動させたのか、に関しては、必ずしも明確ではなく、日本国債への回帰については、金利上昇の抑えになってほしいとの希望的観測を述べている節もあるように思う。

これはだれの利益を代弁しているのか?金利上昇の抑えになることでどのような利益状態を導こうとしているのか?その点が明確ではないなんとも中途半端感を覚える記事ともいえる。

市場では日銀が再び政策の修正に動くのではないかという観測が残る。「生保はさらなる政策修正を予想する場合、値下がりリスクのある長期国債の購入を手控える可能性がある」(SMBC日興証券の村木正雄氏)ともいい、日銀の動向をにらみながらじわじわと国内回帰するシナリオが考えられる。

ある債券市場関係者は「特に生保は外債を処分したお金を預金など短い期間での運用に回しており、国債を買う余力はまだまだある」とみる。80兆円のうち1割でも国債投資に向かえば、日銀が1カ月の国債購入の目安とする金額に迫る規模になる。日銀が緩和の縮小を続けても、金利の急上昇を止めるひとつの力になる可能性がある。

2023/1//26 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67886060V20C23A1ENG000/

背景:日本国債の需要不足

長期金利に再び上昇圧力が加わっている。25日には0.435%を付け、日銀が金融緩和策の修正を見送った18日の決定会合以降で最も高い水準となった。政策の据え置き後に国債を買い戻す動きが一服した。2月2日には10年債入札も控えており、再び金利の上昇余地を探る動きが出始めている。
2023/1/26 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67890730V20C23A1EN8000/
31日朝方の国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが前日比0.005%高い(価格は安い)0.480%に上昇した。日銀が共通担保資金供給オペの拡充を決めた今月18日までの金融政策決定会合後では最も高い水準で、日銀の変動許容幅の上限である0.5%に接近しつつある。30日の米長期金利の上昇が国内債に売りを促した。
2023/1/31 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZASS0IMB01_R30C23A1000000/




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