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ビジネスの戦略を考える方法_戦略の思考法 by HBR勉強会

 この記事は、ダイヤモンド社が発行するビジネス誌”ハーバードビジネスレビュー”の特集を取り上げて、ざっくりと紹介するものです。2021年11月号は「戦略の思考法 その失敗には理由がある」というテーマでした。特集の中の「戦略は「価値」こそがすべて」という論文の要約をしつつ、最新のビジネストレンドを紹介していきます。

 先行き不透明な時代にあって、戦略の複雑化が進み、打ち手が多岐にわたり、全体像を把握することが困難となっている。だがこうした状況は、戦略をシンプルかつ強力なものにつくり替える絶好の機会である。経営者が陥りがちな落とし穴に注意しつつ、自社ならではの価値を生み出す戦略と、その実現可能性をいかに高めていくかを考える。

ハーバードビジネスレビュー2021年11月号

戦略を立てることがますます難しい時代になった

 企業が立てる戦略が複雑化しています。最近はテクノロジーの進化がとても速く、日々新しいツールや手法が出てきます。世界が繋がり、自社のビジネスが外国の政治や経済にも影響を受けます。先を見通すことはとても難しくなっています。

 戦略を立てることがとても難しい時代ですが、当然ながら「こうしたら成功する」という必勝法はありません。何のビジネスをしているかは企業によって異なりますし、同じ業種であっても置かれている状況は三者三様だからです。それぞれの企業が自分たちのオリジナルの戦略を考える必要があります。だから戦略の立案は難しいのです。

大事なのは提供する「価値」である

 今回掲載のあった「戦略は「価値」こそがすべて」という論文は、ハーバードビジネススクールのフェリックス・オーバーフォルツァー・ジー教授により、さまざまな立場の企業が自社の戦略を考える方法として、企業が提供する「価値」に着目しながら、戦略を立てるためのフレームワークが紹介されています。

 教授によると、経済的に成功し続けている企業は、顧客、従業員、サプライヤーに本質的な価値を提供しています。複雑化した戦略は一旦脇に置き、この「価値を提供する」という基本に立ち返り、シンプルに考えましょう。

4つの価格から提供価値を考える

 まずは、1つの売り物につき、4つの異なる価格を考えてみる方法です。

1.支払意思額(WTP:willingness to pay):顧客が自ら進んで払おうとする最高金額。商品の価値を高めることで、WTPも高めることができる。WTPを1円でも上回る値付けをした場合、顧客に買ってもらうことはできない。

2.顧客が支払う価格:実際にその商品を売る価格

3.報酬/供給価格:その商品を作る価格。原価。

4.売却意思額(WTS:willingness to sell):人材を惹きつけるために必要な最低報酬額。福利厚生や働きやすさなどの職場環境を整えることにより、給料がそれほど高くなくても働き先として選んでもらう、つまりWTSを引き下げることにつながる。

 この4つを縦に並べると下の図のようになります。

ハーバードビジネスレビュー2021年11月号 戦略は「価値」こそがすべて より(一部編集)

 何も、顧客が買ってくれるギリギリまで価格を上げようとか、従業員が退職してしまうギリギリまで給料を下げようとかいう話ではありません。重要なのは、この4つの価格を意識的に把握することです。

AのWTPと顧客が支払う金額の差が大きければ、顧客にとってお買い得商品に映ります。

Bの顧客が支払う価格と報酬/供給価格の差が大きければ、企業の利益が多く確保できます。

Cの報酬/供給価格とWTSの間が大きければ、従業員満足度が上がります。
それぞれの価値を磨き込むことで、企業が生み出す価値の総量が増し、飛躍的な業績向上をする体制も整います。

 WTPとWTSを両方同時に改善することもできます。例えばある企業は、コールセンター業務の環境を改善し、そこで働く人たちの負荷を下げました。(WTSの引下げ)その結果、コールセーンターの電話が繋がる確率が上がり、顧客の満足度も向上しました(WTPの引上げ)4つの価格の差が大きくなるほど、企業としては良い状態に向かっていると言えるでしょう。

筆者作成

補完財で提供価値を引き上げる

 補完財とは、本命商品の価値を高める関連商品や、サービスの事です。例えばプリンターを作るメーカーにとってのインクカートリッジ、タブレットメーカーにとっての電子書籍などです。
 
 ある映画館は、映画鑑賞中に子供を預かってくれる保育サービスを始め、非常に人気が出て映画館としての売上も伸びました。映画館と保育サービスは一見関連の薄い事業に見えますが、子供を預けてゆっくりと映画を見たい親にはとても好評でした。ポップコーンやコーラももちろん映画館の補完財ですが、保育サービスのように一見関連がないように見えるものも、補完財になる場合があります。

 補完財と本命商品を上手に組み合わせておくことで提供価値を上げ、事業を成長させたり、リスクに備えることができます。
 
 例えば、AmazonのKindleは、本体価格が普通のタブレットに比べてもとても安く設定されています。端末を安い価格で普及させ、電子書籍を買ってもらうことで、トータルで高い価値を提供し、WTPを高めながら収益を上げています。
 
 発売当初のiPhoneは、他の携帯と圧倒的に違うオンリーワン商品でした。ところが今は、iPhone以外のスマホも大体同じような性能をもち、以前のような高い独自性はありません。そこで、Appleは収益を上げるポイントを、iPhone自体の売上げではなく、App Storeからの売上げにシフトしました。補完財を育てることは、本命商品が不調になったときの備えにもなるのです。

バリューマップで自社の立場を理解する

 企業によって取り組む事業も違えば置かれている立場も違います。個別の事情を客観的に理解し、どこに重点を置けばいいのかを分析するためのフレームワークがバリューマップです。

ハーバードビジネスレビュー2021年11月号 戦略は「価値」こそがすべて より

 上の図は、タトラバンカというスロバキアの銀行を分析したバリューマップの例です。

 まず初めに、ターゲットになる顧客セグメントを決めます。上の例ではプレミアム顧客です。そしてその顧客層にとって、購入の判断基準として重要な項目をリストアップします。この判断基準のことをバリュードライバーと呼びます。

 次に、顧客の立場に立って、バリュードライバーを重要なものから順にランクづけします。(図の縦軸)

 最後に、顧客の期待に応える能力が自社にどの程度あるかを評価します。ライバル企業がいれば、同様の分析を行います。

 この時、顧客の判断基準や、自社がどの程度その基準を満たしているかを、思い込みを捨て、なるべく客観的なデータを元に作成することが重要です。必要であれば新たにリサーチやデータ収集を行います。

 タトラバンカは富裕層に高く支持されている銀行であり、デジタル技術に強みを持ち、ネットバンキングや声認証、顔認証なども銀行としてはいち早く取り組んできました。分析結果からは、富裕層が優れたモバイルアプリを最も重視しており、タトラバンカはこの点に関して他者をリードしているということがわかります。

力を入れる分野を決める

 バリューマップを作成したら、どこに重点をおけば将来の価値創造に最も効果があるかを検討します。バリュードライバーの中には、相互に関連するグループのような関係が見られるものもあります。1つを上げると、関連する項目もつられて上がる場合があり、うまく行けば効率的に複数の項目を改善することが可能です。

 バリューマップを眺めていると、自社の弱みをライバル企業並みに引き上げたいと思う人がいます。ただし、これはよくある「誤り」なのだそうです。バリューマップがほぼ同じ2社の企業があれば、顧客は価格でどちらを選ぶか決定します。重要なのは弱みを引き上げることではなく、差別化を進めることです。限りある自社のエネルギーと経営資源をどこに集中させるかを決めることなのです。

3つの手法を駆使して提供価値を高める

 この例では、顧客に提供する価値に関するバリューマップが挙げられていますが、価値という点では、従業員に対してもサプライヤーに対しても、同様のマップを作成することができます。
 
 バリューマップの特定の項目を上げるためには、その項目と相性の良い補完財を育てることが1つの方法です。例えば、保育所などは従業員に対しても、給与の補完材と考えることが可能です。

 バリューマップの項目を上げることができれば、支払意思額を上げる、売却意思額を下げることができます。3つの手法は繋がっているので、これらの手法を比較しながら、どこに力を入れるかを判断します。

特集の感想

 「こうしたら失敗する」という話は数多くのパターンが蓄積されていて、本や雑誌などで読むことができます。ところが「こうしたら成功する」という話はそれぞれに立場や事情があり、当たり前ですが、なかなか一般化することができません。ハーバードビジネスレビューでは毎月様々なテーマで特集が組まれますが、どうしても、「あとは自分の立場に当てはめて考えてね」とまとめられてしまうことも多く「で、結局どうすればいいの??」となってしまうことも多いのではないかと思います。
 
 今回の「戦略は「価値」こそがすべて」という論文は、そんな個別の事情も含めてどう考えたらいいかについて、いくつかの取り組むべきフレームワークを提案してくれています。論文で取り上げられた4つの価格を考える方法、補完財をうまく配置する方法、バリューマップで自社の置かれた立場を分析する方法は、それぞれ異なる立場を前提に戦略を考える上で色々なヒントをくれそうです。

 また、ハーバードビジネスレビューの想定するような大きな企業の経営ではなくても、スモールビジネスや個人事業主、あるいは個人のキャリアにとっても、補完財になる事業やスキル、バリューマップによる強みや重点項目の洗い出しなどは参考になる部分もあるかもしれません。

ハーバードビジネスレビュー勉強会は、毎月第2土曜日にZoomを使用したオンラインで開催しています。事前準備ゼロで参加できるので、お気軽にお申し込み下さい。Peatixからご確認ください皆様のご参加をおまちしています。

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