神武以来の天才胎児!

脈打つ鼓動。
我の音なり。
囁く声は、
我の母なり。

あと数日で「臍の穴」となる場所に、
突き刺さる管は今現在唯一外界との接触。

我は知っている。我は理解している。
我は胎児である事を解している。
そして地球と呼ばれる地上へ生まれ落ちて嬰児となる。

なんの因果か我は天才。
地球と言う星に住まう人類と呼ばれる種の始まって以来の大天才。
過去のどんな偉人の追随も許さない知能を持っている。
さて生まれたら何をしてやろうか?
全人類を虜にする油や絵や金属の建築を創り出してやろうか?
全ての数式が過去になるメリファメアの法則を5歳で発表してやろうか?
見るも悍しい、どんな独裁者も下僕にできるキマイラを何千頭も世に放とうか?
不老不死……。実現可能だ。
考えただけでも疼きが止まらない。
早く生まれたくて暴れる我を、
母は蹴ったと微笑む。
楽をさせてやるよ母君よ。
事情は知っている。
親父はいない、金も無い。
だが我が這い上がる。
やりたい事が星の数よりあるので子供としてそんなに構ってはやれないが、それも悪くないと思える時間が続くよ。

嗚呼、波が打つ。
嗚呼、血流が渦巻く。
生まれる、生まれるよ……。

目に痛い白が視界を包む。
知ってはいたが光はこれほどまでとは!

さあ、我の時代は幕をあけた!

……そして数日後……

地球に迫る隕石のニュース。
地球の倍の大きさで、一月後には必ず地球に激突するとニュースが叫ぶ。

我に任せろ、
我しか知らないジンプファーの物理法則を駆使し、
我が開発する重力波動装置があればどんな隕石も恐れるに足らぬ。
一か月?いや、一週間で完成させる。
我が考案した雷電谷風システムを使えば効率よく物が造れる。
さあ!母よ!
我を研究室へ連れて行け!
時間がないぞ急げ!

我は泣き叫ぶ。狂ったように泣き叫ぶ。
全ての解決策を知った神武以来の大天才の我を持ってしても、
まだ言葉が喋れない。
まだ身体動かない。
結果泣き叫ぶ事しかできない……

母は諦めたように、覚悟を決めたように、
そして全ての愛を注ぎ込むように
我の揺り籠を揺らす。

大地に迫りくる真っ赤な隕石よりも恐怖を煽る空へ響き渡る轟音。
鼓膜は破れた。視界は潰れた。空気が熱すぎて呼吸は奪われた。

地球は……終わった。
人類史上二度と出ない超天才が、
なんの才能も発揮しないまま終わった。

確かにこれは人類の大損失ではあるが、
人類も無くなったからどうでも良い話なのだ!


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