美化の現実〜或アイコク者が夢見た世界〜

令和となってはや幾年。
或アイコク者が独り言を言う。
「美しい国日本。
誇り高き国日本。
取り戻さねばならない。
そして今度こそは勝たねばならない。
この世界一素晴らしい日本と言う国を名実共に世界の頂点にせねばならない。
私の愛国心は日本で一である」
或アイコク者は毎日のようにこう呟く。
彼には壮大な計画があり、
そして彼にはそれを成し遂げるだけの才能があった。
マッドサイエンティスト。
どんな物語もこう呼ばれる人物が登場すれば進行が容易になる。
様々な原理原則の説明を省き、
現実世界では不可能な彼此を「彼は天才だから」と言う一言で可能にしてしまう。
彼は愛国マッドサイエンティストであった。
戦争経験者ではないが、日本の敗戦を常に悔やむ。
戦火に伏した兵士達にこの上ない尊敬と憧れを持ち、
決まり文句「貴方タチガ守ッテクレタ日本」を連呼する。
晩飯にハンバーガーを貪りながらアメリカが憎くて仕方がないと叫んだ夜もある。
そんな或アイコク者の計画が為される時が来た。

「大日本復活計画」

A級戦犯から特攻隊、
満蒙開拓団、
逃げ切って天寿を全うした高い地位にいた軍人まで、
登場戦地へ赴いたり、
指揮をとったりした日本人のDNAを手に入れ、
クローン人間を作り出す。
そして日本が世界の覇者となるべく世界へ向けて戦争を開始する。
或アイコク者からすると夢の大計画だ。
どのようにしてDNAを集めたか?
彼はマッドサイエンティスト。
どうとでもなる。
蚊の形をしたDNA採取ロボを膨大に作り、
故人の墓、
戦艦や戦闘機が沈んだ海、
当時の戦地などに飛ばして、
潜らせたりなんだして蒐集した。

どこで手に入れたか広い地下室の、
敷地の都合上、
100ちょっとあるシリンダーの中で、
人の形がどんどん形成されてゆく。
赤ん坊まで成長すると孤児として様々な施設に送り込んだ。
成人する頃にもう一度全員集め、
戦争開始。
或アイコク者は来る20年後への胸の高鳴りが止まらない。
百数人の軍人で世界に勝てるか?
彼はマッドサイエンティスト。
未だ人類が見たこともない破壊兵器を作り出し、
それを彼らに装備させ戦勝国へ驀進させる。
兎に角日本軍が大活躍し、
日本軍として勝つことが第一なのだ。

そして来たる待ちに待った20年後、
召集をかける。
1人1人の埋め込んで置いたマイクロチップに飛ばす、
赤紙テレパシー。
「時は来た。
我が国の偉大な力、
世界へ知らしめよ」
それから数時間、数日、数ヶ月、数年…。
誰一人やってこない。
どうしたのか?
マイクロチップの故障か?
いや、一人一人の居場所はわかる。
電波も受信している。
これは一体どう言うことか?
一番近所にいる青年(元は特攻隊の青年)
の所へ行き、
何故来ないのか問いただす。
答えて曰く、
「いやですよ。ゲームが忙しいんで」
なんだこの腑抜けは!
或アイコク者はまた別の青年(元は陸軍伍長兵)のも とへ行き何故現れないか問いただす。
「行かないですよ。キューティーズ(地下アイドル)のライブがあるんで」
他の者の所へ行ってもやれアニメだ、
漫画だ、
動画を楽しむだ
と諸々の理由で戦争になど興味もない。
軍事オタクになった者(元はA級戦犯)もいたが、
実戦などにはまるで興味なく、
戦艦大和の模型に色を塗っていた。

戦後から月日は流れ、
飽きるほどに娯楽が溢れる、
エンタメ大国ニッポン。
なんとも愛せる国ではないか。

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