見出し画像

43回目 "A Silver Dish" by Saul Bellow を読む (1/2)。原文は 'New Yorker' 紙のサイトに無償公開されています。

<< 私が読むのは 'Saul Bellow Collected Stories' a Penguin Paperback です。しかし、その全文が 'New Yorker' 紙のサイトに無償公開されています(2023年1月7日現在 >>

1. 少年時代のウディは父と一緒にシカゴの路面電車に乗っています。

主人公の Woody は60歳。父の葬儀を終えた後最初の日曜日、床からでた彼はコーヒーをすすりながら、Chicago の街、雪の中を走る路面電車の席に座っていた少年時の自分を思い出すことから、このストーリーは展開を始めます。時は1930年代。多くの人々にとって、食っていくのに必死の時代です。(余談ながら、1940 年に出版された Richard Wright の小説「Native Son」は同じ時代、同じシカゴの街の黒人の男、Bigger Thomas の物語です。)

[原文 1] Woodrow (= Woody) and his father were going north to Evanston, to Howard Street, and about five blocks to hike. The purpose of the trip? To raise money for Pop. Pop had talked him into this. When they found out, Mother and Aunt Rebecca would be furious, and Woody was afraid, but he couldn't help it.
Morris (Pop) had come and said, "Son, I'm in trouble. It's bad."
"What's bad, Pop?"
"Halina took money from her husband for me and has to put it back before old Bujak misses it. He could kill her."
"What did she do it for?"
"Son, you know how the bookies collect? They send a goon. They'll break my head open."
"Pop! You know I can't take you to Mrs. Skoglund."
"Why not? You're my kid, aren't you? The old broad wants to adopt you, doesn't she? Shouldn't I get something out of it for my trouble? What am I--outside? And what about Halina? She puts her life on the line, but my own kid says no."
[和訳 1] (Halina は Bujak の妻だが Woody の父 Morris と同棲している。そんな父が、父に放り出された後も頑張って生きている自分の息子に近づいてきたシーン。Mrs. Skoglund は金持ちの未亡人でウッドローに学費を出し世話をしている。この「世話」は、当時あったユダヤ人をクリスチャンに改宗させようとする一派の宗教活動の一形態。) 
  ウッドローと父は北向いて走る路面電車に乗っています。エバンストン街、ハワード通り駅を目指しています。そこから5ブロック歩かねばなりません。何をしに行くのでしょう? 父が必要とするお金を工面するのです。父が息子に無理強いしたのです。母や叔母のレベッカに知れると母やレベッカが怒り狂うにきまっているのでウディは気が気でありません。しかしウディには拒否できなかったのでした。
モリスがやって来て「息子よ、困ったことになった。本当に深刻だ。」といったのでした。
「父さん、何があったの?」
「ハリナが自分の亭主のお金をくすねてきたのだよ、俺の為にだが。ブジャクが気づく前にその金を戻しておかないとならんのだよ。出ないとあいつはハリナを殺すことになるよ。」
「ハリナはそのお金で何をしようとしたの?」
「息子よ、賭け屋という連中がどうやって集金するかを知っているだろう?やくざ男をよこすんだよ。奴らときたら俺の頭を叩き切るさ。」
「父さん、私は父さんをスコグルンド夫人に会わせる訳にはいかないよ。」
「そんな理由はないさ。お前は私の息子だろ。このご婦人はお前を息子にしようと考えているのだから。そうだろう。それを考えると、父親の私が、こんなに困っているときに、この女から何らかの見返りを手にするのが悪徳だという理由があるかね、私はそれなりの関係者だろうが? 違うかね。もう一つ気になるのはハリナだよ。どうなってると思う? 彼女は紐に自分の命を引掛けようとしているのだよ。なのに私の息子はと来たら、だめ、協力できないというのね。」

Lines between line 16 to line 32 on page 20,
'Saul Bellow Collected Stories' a Penguin paperback


2. 父に無理やり引き込まれた悪事の実行の現場へ到着。その寸前、そして実行時の息子 Woody の心情

二人が乗っている路面電車はまもなく目的の駅に到着します。そこから始まる二人の共同作業(詐欺行為)の場面に先立って Woody の「人なり」が見事に描き出されます。

[原文 2] "You'll do the talking at first," said Pop.
Woody had the makings of a salesman, a pitchman. He was aware of this when he got to his feet in church to testify before fifty or sixty people. Even though Aunt Rebecca made it worth his while, he moved his own heart when he spoke up about his faith. But occasionally, without notice, his heart went away as he spoke religion and he couldn't find it anywhere. In its absence, sincere behavior got him through. He had to rely for delivery on his face, his voice---on behavior. Then his eyes came closer and closer together. And in this approach of eye to eye he felt the strain of hypocrisy. The twisting of his face threatened to betray him. It took everything he had to keep looking honest. So, since he couldn't bear the cynicism of it, he fell back on mischievousness.
[和訳 2] 「最初はおまえが話を切り出すのだぞ。」と父が言いました。  ウディはセールスマンと言うか、店頭の売り子と言うに相応しい気質をしていました。教会で 50 ないし 60 人の人々を前にして演台に立ったことがあったのですが、その時以来このことを自覚もしていました。それは叔母のレベッカが小遣い稼ぎを餌にやらせたことだったのですが、自分の信仰の状況を人々に発表している内に演台にいる自身が魅了されたのでした。しかし何度も経験している内に、宗教の話において、一度ならず本心とはかけ離れたことを口にしていると感じたのでした。とはいってもその本心がどこにあるのかは良く分からないままでした。本心が伴っていない状態にあっても、彼の正直さはそのままでした。話すことの意味を聞き手に伝えるには自分の顔・声の表情、すなわち自身の振る舞いが伴わねばなりません。そう意識すると左右の眼が接近し始めるのです。眼の距離の接近は内心に立ち上がる偽善行為への非難によるものでした。表情が引きつると心に潜んでいる葛藤が露見しかねません。自身の話が正直なものであると見せ続けるには大変な苦労が必要でした。ウディは、そんな苦労の中、この耐え難い無責任さをいたずらっぽい行為によって乗り越えることになったのでした。

Lines between line 29 to line 39 on page 22,
'Saul Bellow Collected Stories' a Penguin paperback


3. Study Notes の無償公開

以下に短編 "A Silver Dish" 、当該 Penguin paperback の Pages 12 - 23 に対応する Study Notes を公開します。Word のソフトを使用し、A-4 用紙を二つ折りにしてなる冊子の形式で作成されています。

この記事が参加している募集

#海外文学のススメ

3,250件