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50回目 "Midnight's Children" by Salman Rushdie を読む(第4回)。自分の家族を描くと言いながら政治的リーダー達の行為を見ています。

0. この小説は 674 ページに及ぶ。長いのです。

イライラしてきたという方はTED-Ed にある6分間弱の、Midnight's Children を紹介する文章・スピーチを読まれる/聞かれると絶好の息継ぎになります。ぜひご一覧ください。サイトはここです。


1. 小説全体のおよそ1/3まで読み進んできました。

聞き手の王様に飽きられると命がなくなる。だから頑張るという「千夜一夜物語」の語り手と競うかのように、この小説の語り手は私たち読み手の興味を損なってはならじと必死です。語り手であり登場人物であるサリーム・シナイを逸脱して著者本人が幕間から読み手に直接語り掛けるかのようなシーンがまたもや現れます。

[原文 1] Reality is a question of perspective; the further you get from the past, the more concrete and plausible it seems -- but as you approach the present, it inevitably seems more and more incredible. Suppose yourself in a large cinema, sitting at first in the back now, and gradually moving up, row by row, until your nose is almost pressed against the screen. Gradually the stars' faces dissolve into dancing grain; tiny details assume grotesque proportions; the illusion dissolves or rather, it becomes clear that the illusion itself is reality … we have come from 1915 to 1956, so we're a good deal closer to the screen … abandoning my metaphor, then, I reiterate, entirely without a sense of shame, my unbelievable claim: after a curious accident in a washing-chest, I became a sort of radio.
[和訳 1] 現実というものは認知力の問題(視点の位置に依存するもの)です。 過去(の出来事の現実)はそれが遠くなればなるほど一層堅固で正しいことのように思えるものです。しかし目を向ける先が現在に近いものであればある程、過去(の出来事・現実)は信用し難いものに思えるのが普通です。大きな映画館に居ると想定しましょう。そして最初は客席の最後尾に着席して、徐々に前方の席に移動します。最後には自分の鼻先がスクリーンに接触する程までに近づくのです。するとスターの顔は動き回る粒子の群れに成り果てます。画像の細部が気味悪い小領域に変わってしまいます。それまでの幻覚が消滅するというよりも、むしろ幻覚こそが現実なのです・・・私たちは 1915 年から 1956 年まで話を進めてきました。すなわち私たちは結構スクリーンの近くまで来ているのです・・・ここで私の比喩表現を止めることにして、恥ずかしさをこらえて私の突飛な主張を今一度繰り返します。私が洗濯物用の箪笥棚に潜んでいて奇妙な事件を経験した後の事ですが、私はラジオになったのです。

Lines between line 1 and line 13 on page 229,
"Midnight's children", Vintage classics, "40th Anniversary Edition"


2. 現実とは見る人の視点が何処にあるかの問題である。

"All-India radio” と題されたこの章は 'Reality is a question of perspective;' なる文章で始まりました。ちょっとだけの、幕間のコメントかと思いきや、次のページに来ても終わりません。Rushdie 氏は自身の本心をその小説の枠を越えるとも読者に念を入れて伝えます。しかしここまで来ると、さすがに幕間の語り手もでしゃばり過ぎと感じたのか、いつの間にか、この物語の中の人物(サリーム・シナイ)に戻って居るのです。(なんとも面白い。計算ずくのトリックなのでしょうか?)

[原文 2-1] Re-reading my work, I have discovered an error in chronology. The assassination of Mahatma Gandhi occurs, in these pages, on the wrong date. But I cannot say, now, what the actual sequence of events might have been; in my India, Gandhi will continue to die at the wrong time.
[和訳 2-1] 自分の書いたものを読み直してみて時間経過の順序における誤りを見つけました。マハトマ・ガンジーの暗殺を記述しましたがその日付に誤りがあります。しかし、当時の様々な出来事が発生した順番がどうであったのかとなると、今の私には良く分かりません。ガンジーという人は、私の国であるインドにあっては、いつまでたっても正しい日時に死亡することはないのです。

Lines between line 24 on page 229 and line 3 on page 230,
"Midnight's children", Vintage classics, "40th Anniversary Edition"

[原文 2-2] Does one error invalidate the entire fabric? Am I so far gone, in my desperate need for meaning, that I'm prepared to distort everything -- to re-write the whole history of my times purely in order to place myself in a central roll? Today, in my confusion, I can't judge. I'll have to leave it to others. For me, there can be no going back; I must finish what I've started, even if, inevitably, what I finish turns out not to be what I began …
[和訳 2-2] 誤った箇所が一つあるだけでその書物・織物のすべてが無効だと判定すべきなのでしょうか? 私は大切なことを書き上げたい一心でここまで筆を進めてきました。その行為は私が何もかもを歪曲しようと意図していたことになるのでしょうか・・・私が生きた時代に係る歴史の全体を、私自身をその中心に据えたいが為に、改ざんしようといていたことになるのでしょうか? 今となっては、自分の頭は混乱していて判定不可能です。誰か私以外の人にその判定を委ねるしかありません。というのは、私には過去の立ち返るすべがないのです。既に私が書き始めたこの書物は、その完成の後になって、当初に私の意図したものとは別物だと判定されるとしても、私が完結させねばならないのです・・・

Lines between line 4 and line 11 on page 230,
"Midnight's children", Vintage classics, "40th Anniversary Edition"


3. Magic Realism の小説と分類されるのはこのような一節が時々現れるからなのでしょうか?

小説の文章をコミカルなもの、面白いものにするために次に示すような一節が存在するのでしょうか? 面白いと私は感じます。しかし「話の流れを中断するという用」ならば、この節を「ここでしばらく時間を遡ります。あるいは Interruptions, nothing but interruptions!」との一言二言で、十分果たせるのに何故これ程に長い節を設けるのかと私は疑問に思えるのです。これがこの小説の主題に重要な影響を加えるものとは思えません。この小説を最後まで読むともっと素晴らしいことに気付くのなら、早とちりと言うほかありませんが。後の楽しみにここで考えたことをそのまま記録しておくことにします。

[原文 3] Interruptions, nothing but interruptions! The different parts of my somewhat complicated life refuse, with a wholly unreasonable obstinacy, to stay neatly in their separate compartments. Voices spill out of their clocktower to invade the circus-ring, which is supposed to be Evie's domain … and now, at the very moment when I should be describing the fabulous children of ticktock, I'm being whisked away by Frontier Mail -- spirited off to the decaying world of my grandparents, so that Aadam Aziz is getting in the way of the natural unfolding of my tale. Ah well. What can't be cured must be endured.
[和訳 3] 中断です、中断。私の何とも複雑な暮らしのいくつかの部分が、これまた理屈に合わない理屈をつけて、整理の行き届いたあちらこちらの部屋に納まっていることを拒否するのです。私の生活に関わりのある部分の一つがあの邸宅集団の小広場に出てこようと意図して、エヴィの住まいであったはずの時計塔の室内から声が漏れ出すのです。それに加えて、私がかの有名なカウントダウンにまつわる子供たちの話を始めようとしていた矢先に私は「フロンティア・メイル」なる列車で不意打ちのごとく自宅から連れ出されるのです。私の祖父母の、時の流れに消し去られる他ない世界に連れて行かれます。その結果、アーダム・アジーズが私の書き上げる物語の自然な展開の中に割り込んでくることになります。まあ、我慢することにします。拒否して何とかなるものでない以上、辛抱する他ありません。

Lines between line 24 and line 34 on page 259,
"Midnight's children", Vintage classics, "40th Anniversary Edition"


4. Study Notes の無償公開

原書 10 番目から 13 番目の計 4 章(187 Page から 266 Page)に対応する部分の スタディ・ノート(ファイル名 StudyNotes_4th_Midnight's_Children)をワード形式ファイルとPDF形式ファイルとして無償公開します。印刷すると、A-4 サイズ用紙を二つ折りで出来る冊子の形になっています。

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