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92回目 "The Wars Against Saddam" を読む(Part 7)。米英軍の Embedded された記者集団に加わり Kuwait から Baghdad へ向かう選択枝を採らず、Simpson は Iraq 北部からクルド人の軍団に守られて Baghdad を目指します。

  湾岸戦争にひとまずの区切りをつけることになった反撃、米軍と英軍がクウェートを占拠しているイラク軍を追い払う・壊滅させる攻撃の始まりですが、この頃の出来事の流れを時系列に整理された note 記事が見つかりました。
  この記事には、出来事の整理に続いてその主題であるバーニー・サンダース氏(当時下院議員)が 1991 年 1 月 17 日に行った下院での演説の詳細、演説文章と肉声の双方が和訳付きで公開されています。「戦いのノート」さんの 5 年程前の記事ですが、Simpson がこの本で繰り返す「出来事をどういう観点で見定め何を重要と考えるか」という問いかけに、見事な説明を加える演説です。ぜひご一読されるようお奨めします。意味・主張内容の明確さとサンダース議員の声で聴く英語の明瞭さに私は驚かされました。
https://note.com/tkatsumi06j/n/n9948ba1a3a03

もう一つのお奨めは、この戦争(湾岸戦争の 12 年後に始まったサダームを追い落とす戦争)において悩み抜くことになった英国首相(当時)のトニー・ブレア氏の後日談の記事です。同じく「戦いのノート」さん、約 5 年前の記事です。https://note.com/tkatsumi06j/n/neddddb59595a



1. Simpson が率いるBBCの取材チームはトルコからイラクの領土に踏み入り、バグダットへの移動を始めます。

トルコ政府の許可と協力を得て BBC の取材グループ、ABC News の取材グループなどがクルド自治区に所属する二つの軍団が結成した同盟隊の保護を受けて、Arbil をスタートして Baghdad に向かうことになります。米国・英国の軍隊に Embedded され Baghdad の向かうのを嫌った以上は、この危険は覚悟していたはずです。

[原文 1-1] That much was fine. The problem was, how would we get to Baghdad? There seemed to be two almost inevitable dangers: the Iraqis and the Americans. There were major cities on our route to Baghdad -- Kirkuk, Mosul and Tikrit -- and getting from one to the next as they fell seemed likely to be remarkably hazardous. The retreating, surrendering Iraqis would be angry and resentful, and would find an unarmed, heavily equipped television crew easy pickings. By contrast, I knew the Americans would do what they always do: shoot first and discover afterwards whom they have killed. The most dangerous moment would be driving up to any American checkpoint, since they would impose their own elaborate rules of approach without necessarily telling anyone else what they were.
[和訳 1-1] ここまでは良いのです。問題は、どのようにして我々がバグダッドまで移動するのかでした。避けがたい危険として二つが思い浮かびます。イラク軍とアメリカ軍です。バグダッドに至るまでに立ち寄る街が大きなものでキルクーク、モスル、ティクリットの3つです。目的の街が陥落して初めてそこに進入できるのですから、非常な危険を伴う行程と覚悟しなければなりません。後退しつつある、降伏寸前のイラク軍だからして感情を荒げているだろうし、恨みも抱えていることでしょう。そんな彼らに、武器を持たず、仰々しく取材用機材を携えた我々は直ぐに見つけ出せます。まず射撃を加える、その後で殺されたのが誰であったかを調べるというのが手順です。特に危険な状況が、アメリカ軍が自分たちに接近する人間をチェックする陣地に車で向かう行動です。彼らは複雑な暗号動作によって近づく人間の「敵・味方」を判定しています。この暗号動作は部外者に知らされていると限ったものではありません。

Lines between line 35 on page 299 and line 8 on page 300,
"The Wars Against Saddam", a Pan Books paperback

[原文 1-2] And no recognition symbols, no 'TV' signs marked out on the windows and sides of our vehicles with camera tape, would make the slightest difference. If you are a scared, indifferently trained, heavily armed nineteen-year-old from Mobile or San Bernadino, any vehicle which drives up to your position is a likely threat. And if your officers have told you that the preservation of your own life comes before any other consideration, then you are quite likely to shoot someone, just in case.
[和訳 1-2] 加えて我々が搭乗する車両の車体壁や窓にデカデカとテープで貼り付けた徽章もテレビ関係のマークも、それらが無いのと殆ど同じなのです。おざなりの訓練しか受けていない上に戦場の恐ろしさに緊張している、それでいて強力な武器を手にした 19 才の若者、少し前までは米国のありふれた町、モーバイルとかサン・ベルナディノに暮らしていたのです。目の前に現れた車が自分の方に向かっているとなると、銃を発射したくなるほどの恐怖が襲います。ましてや、自軍の上司たちが自分の命は他の何にもまして大切にしろと教えられているとしたら、まずは用心とばかり、近づく人間に向けて発砲しても不思議ではありません。

Lines between line 8 and line 15 on page 300,
"The Wars Against Saddam", a Pan Books paperback


2. Arbil のホテルで知り合いになった、イスラエル人の TV レポーター Ron。

Ron ben-Yishai と名乗った記者、BBC のチームで動く Simpson は一人で何もかもを遣り繰りするこの記者に畏敬の念を抱くことになります。Ron の発した英語のなまりは即座に、Simpson をしてイスラエルの前首相である Ehud Barak のそれを思い出させる、すなわち、この男の「***人です」とする自己紹介の嘘を betray します。

(Photo extracted from the paperback "The Wars Against Saddam")

[原文 2-1] I knew he was what he said he was: a television reporter. My hotel room looked out on to the rooftop where he did his live broadcasts to Israel. Early every morning he would set up a camera on a tripod, then walk around, stand in front of it and start talking down some line he had fixed up to his television station; I was transfixed. Unlike me, he had no back-up whatever, no colleagues, not much equipment, not a lot of cash. Ron was a loner.
[和訳 2-1] 私は、この男が自分はこんな人間だと名乗った通りの人間であると確信することになりました。テレビのリポーターであると名乗っていたのですがその通りでした。彼がホテルの屋上フロアから、イスラエルへ向けた生放送を実行しているのを私は自分の部屋の窓から目撃しました。ある日の朝の早い時刻でした。三脚台を据えてそれに設置したカメラに向かって少し歩いて見せた後、カメラに向かって静止するや事前に用意したらしいメモに目を落としながら話を続けています。自身が所属するテレビ局に送信していたのです。私の身体はその一瞬、凍りつきました。私と違ってこの男はサポートする人間を持っていないのです。持っていないのは仲間だけではありません。放送機材も貧弱です。現金も大して持ってはいません。この男、ロンは当に孤独な行動者でした。

Lines between line 34 on page 300 and line 3 on page
301, "The Wars Against Saddam", a Pan Books paperback

[原文 2-2] My heart went out to a man who had the sheer cojones to run every risk imaginable to get good front-line-access to this war. The fact that he was on his own, and perhaps that he was my age too, made me determined to help him. Journalist -- real journalists, that is, not the characters who peddle their national myths for a living -- have a fellow-feeling that override every national distinction. Being a journalist is a kind of nationality in itself, and real journalists can talk to each other on a level where national differences play no part.
[和訳 2-2] 私の心は見事なキンタマを持ったこの男に占領されていました。この戦争の戦場の第一線に身を置いて可能な限りより優れた情報・ありのままの姿を手に入れよう。その価値に見合うとなると、予見できる危険を理解の上敢えてそれに向き合おうとされているのです。彼が一人で行動していることを知り、私と同年配であるように見えることだしという訳で私は彼に協力することにしました。 ジャーナリストと呼ばれる人たち、といってもそれは自国内で古来から伝わる物語を書き直して、自分の生活の糧を得るべく販売しているタイプではない、真のジャーナリストたちは互いに仲間意識を持つことになります。その意識は所属国間の違いを越えて成立します。ジャーナリストであるとはそれが一種のお国柄なのです。真のジャーナリストたちは個々の所属国に何ら影響を受けることのない領域において、互に言葉を交わすことが出来るのです。

Lines between line 4 and line 11 on page 301,
"The Wars Against Saddam", a Pan Books paperback

ここの部分に読み進んだ時、ここにある "the characters who peddle their national myths for living" なることばに、私は「こたつ記事」なる言葉があることを思い出して溜息をついていました。


3. Study Notes の無償公開

今回の読書範囲は Pages 293 - 334 です。この範囲に対応する Study Notes を Word 形式と PDF 形式のファイルとして無償公開します。A-5 サイズの用紙に両面印刷し、左をステープラーで閉じると冊子になるように調製しています。これら二つのファイルはファイル形式の違いのみで、そのコンテンツは全く同じです。