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16回目 ”The Bellarosa Connection” by Saul Bellowを読む。主人公はウクライナとポーランドの国境域、別の短篇"The Old System”の主人公はウクライナとベラルーシの国境域に暮した祖先のアクセント・仕草を引きずっています。

   100年も前に書かれた作品も良いのですが、新しいもの、しかし寝転がってすらすらと読むわけにいかないとなると、それなりに評価の定まったものを読もうと考えます。一ケ月も二か月もかけて苦労して読んだのにスカだったという思いをしたくは無いのです。そんな訳で、Saul Bellow Collected Stories (Penguin Book) に 戻って来ました。”The Bellarosa Connection" はこの本の中に納められた内で "What Kind of Day Did You Have?" に次いで長い作品です。今回を含めて4~5回で完読する予定です。

  先週に読み終えた「とんがりモミの木の郷」に描かれた地域にあって豊かな生活を築き上げた人々とSaul Bellowが描いた多くの短篇・ノベッラの登場人物たち、双方の作者に共通するのは、世界に旅に出かけて、あるいは住まいを移すことを強いられてもその中で、自らの豊かな生活を目指して熱心に自己研さんと仕事に取組み、広く世界の知識を取り入れようとする人々のエネルギーに、焦点を当てていることです。
  今回 Wikipedia のSaul Bellowの記事中に、子供の頃 Harriet Beecher Stowe 夫人の 作品、"Uncle Tom's Cabin" を読んだとあることに驚きました。「とんがり・・・」の著者、Sarah Orne Jewett が子供の頃、本を読み始めた頃に読んだとされるのと同じ H. B. Stowe 夫人です。

< ベローの作品集 "Collected Stories" へのイントロダクション >

  この作品集 "Saul Bellow Collected Stories" (Penguin) の冒頭にある解説(by James Wood)の一節を示して、この作品へのお誘いとします。

Lines from "Introduction" by James Wood
【原文】  Like Dickens, and to some extent like Tolstoy and Proust, Bellow sees humans as the embodiment of a single dominating essence or law of being, and makes repeated reference to his character's essences, in a method of leitmotif. As, in Anna Karenina, Stiva Oblonsky always has a smile, and Anna a light step, and Levin a heavy tread, each attribute the accompaniment of a particular temperament, so Max Zetland has his reproving pucker, and Sorella, in "The Bellarosa Connection," her forceful obesity, and so on.

【和訳】ベローはディッケンズ、そしてある程度までではるものの、トルストイやプルーストと同じようにそれぞれの人をその人に特徴的な「要素」、あるいはその人に特徴的な「生きる上の決まり」を付与して、付与したその要素・決まりでその人に置き換えるのです。そしてこの要素・決まりをその後で何度も繰り返し言及します。音楽において繰り返される「動機モチーフ」のように後から何度も出現させる手法です。「アンナ・カレーリナ」のスティバ・オブロンスキはいつも笑顔を見せ、アンナは軽快なステップを見せ、レービンは重い足音を立てていました。これら特性の各々がそれぞれの気質を引きずる一人ひとりと対をなしています。ベローが描く人物、マックス・ゼットランドは相手を苦々しく思っているしるしに歪む口元、「ベラローザ・コネクション」のソレッラは他を圧倒するデブの身体、・・・といった具合です。

< ソレッラを象徴するモチーフの出現例 >

【原書48ページからの抜粋】  Fonstein was soon familiar with Billy's doings, more familiar than I ever was or cared to be. But then Billy had saved the man: took him out of prison, paid his way to Genoa, installed him in a hotel, got him passage on a neutral ship. None of this could Fonstein have done for himself, and you'd never in the world hear him deny it.
    "Of course," said Sorella, with gestures that only a two-hundred-pound woman can produce, because her delicacy rests on the mad overflow of her behind, "though my husband has given up on making contact, he hasn't stopped and he can't stop being grateful. He's a dignified individual himself, but he's also a very smart man and has got to be conscious of the kind of person that saved him."
【和訳】 フォンスタイン氏は直ぐにビリーの活動に関する知識を大量に収集していました。私の知っていた範囲を越えるし私には思いもしない話題まで含む大変な量でした。しかしそれに不自然さはありません。何と言っても、ビリーはある男の命を救ったのでした。牢屋から連れ出し、ジェノバまでの車の手配・費用の負担をして、ホテルに休ませ、中立国の船にその男を乗せて出国させたのでした。この一連の行動のいづれ一つとしてフォンスタインが自分自身で出来るものではなかったのです。何があろうとフォンスタインがこの事実を否定することは無いのです。
  ソレッラは、200ポンドの体重を持つ女性のみができる身振り手振りで「勿論です。私の夫は彼に面会することは確かに諦めました。しかし夫は彼への感謝に気持ちを放棄したのでも放棄できるのでもないのです。夫は確たる人格を有する独立した人間です。と同時に賢い人間ですから、自分の命を救ってくれたと言った類の非常に大切な人については本気で真剣に考え続けるのです。」と断言しました。それは彼女の細やかな気遣いは狂ったほど大量のお尻の脂肪の上に乗っかっていた故の身振り手振りでした。 (以上)

 このコレクションの短篇を2・3読み終えた者にとって、上述した James Wood のイントロダクションは、読後感を共有する格別の友人になってくれます。

【余談】 この引用部分は大江健三郎の「万延元年のフットボール」の女性を思い出させてくれました。これに対応する部分を The Silent Cry, by K. Oe, translated by John Bester から引用しておきます。

It concerned a middle-aged farmer's wife called Jin who acted as caretaker of our house in return for permission to cultivate what little farmland was left to us. She'd come to us as a nursemaid when Takashi was born and had stayed with the family ever since. Even after her marriage, she still lived on in the house with her husband and children. …(on page 48)   … Takashi got a shock when he saw it. The right half of the photograph meticulously took in the skinny members of Jin's family, tense as a wedding group in their light-colored summer clothes. The left half was taken up by Jin's enormous, bloated form. Swathed in a cotton print dress, she sat sideways, leaning on her left arm, looking like a pair of bellows. …(on page 49)

The Silent Cry, by K. Oe, translated by John Bester

< Study Notes 原書 Pages 35-50 に対応する部分 Part 1 の無償公開 >