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11回目 「とんがりモミの木の郷」を原文で読む。岩波文庫の和訳本と併せて。'The Country of the Pointed Firs' by Sarah Orne Jewett

 この本の翻訳本が出版されたと何処かで耳にしたまま、いつの間にか何年も経っていたので、今回この翻訳本を手元に置いて、グーテンベルグからdown load (Kindle 版)した原文を再読することにします。岩波文庫の本にある解説に一旦触れると、英語の小説に関心ある方々の多くは、読まずにおれない気持ちになられると思います。=原著者の著作権・翻訳権は消滅しています=

<第1章の全文を5分割して原文と和訳を並べて示します>

【原文1】  I.  The Return
There was something about the coast town of Dunnet which made it seem more attractive than other maritime villages of eastern Maine. Perhaps it was the simple fact of acquaintance with that neighborhood which made it so attaching, and gave such interest to the rocky shore and dark woods, and the few houses which seemed to be securely wedged and tree-nailed in among the ledges by the Landing.

【和訳1】第一章:二度目の訪問  メイン州の東部、海岸線に沿って点在する多くの町の中で、ここダネットと呼ばれる海沿いの町には、人々を魅了する、この町だけの特徴がありました。人々はここを訪れ、この町に満ちる雰囲気に触れるだけでここに魅せられるのです。と同時に人々は、大きな岩ばかりの海岸線、鬱蒼とした木立の林、そして船着き場に繋がる広場の背後に迫る山肌にある岩棚の要所要所に大木が根を下ろすように堅固に地面を掴まえ、同時に岩棚の大きな岩にその左右を囲まれた平地部を埋めるくさびの様にも見える、僅かな(町と言うには少なすぎる)数の家々に深い興味を持ち始めるのです。
(理解の鍵)A)gave の主語は which すなわち Perhaps it was the simple fact of ... の fact であることを頭に入れて文意を読み取りましょう。ちなみに made it の it は Dunnet です。 B) wedged and tree-nailed in among the ledges by the Landing の文章構造は、in が副詞であって前置詞でない事に気付くと解ります。C)tree-nailed は木が根を張るように地面を掴んでいる意の分詞形容詞。

【原文2】These houses made the most of their seaward view, and there was a gayety and determined floweriness in their bits of garden ground; the small-paned high windows in the peaks of their steep gables were like knowing eyes that watched the harbor and the far sea-line beyond, or looked northward all along the shore and its background of spruces and balsam firs.

【和訳2】海を見通せる方向への視界を考えてこれら岩棚の家々は建てられていて、周りの敷地内の庭に配された幾つもの花壇には草木が元気に茂り、手入れされた花々が溢れていました。どの家でも、その大きくて鋭角を描く切妻の一番高い所には小さなガラスを並べてなる窓が付いていました。これらの窓は、いずれもが物知り顔の人の眼のようで、船着き場、その先遠くの水平線、あるいは北に向かって伸びる海岸沿い一帯、そして海岸近くまで迫りくる、スプルースやバルサム・ファーと呼ばれるとんがりモミの木々で覆われた一帯を見張っているのでした。
(理解の鍵)小説のタイトルでPointing Firs をとんがりモミの木としたのでスプルースの木々、バルサムモミの木々とは訳さなかった。

【原文3】When one really knows a village like this and its surroundings, it is like becoming acquainted with a single person. The process of falling in love at first sight is as final as it is swift in such a case, but the growth of true friendship may be a lifelong affair.

【和訳3】このような村・小さな町とその周辺を知ることになる過程は、誰か一人の人間を知ることになる過程と似ています。一目見て恋に陥る出来事は、一つの村を知ることになる出来事に似て一瞬の内にこの過程が進むと同時にその後の双方に決定的な意味を持ちます。その一方、味のある繋がりに成長する過程は一生涯に渡り終わりなく続くこともあるのです。

【原文4】After a first brief visit made two or three summers before in the course of a yachting cruise, a lover of Dunnet Landing returned to find the unchanged shores of the pointed firs, the same quaintness of the village with its elaborate conventionalities; all that mixture of remoteness, and childish certainty of being the centre of civilization of which her affectionate dream had told.

【和訳4】2回だったか3回だったか前の大型ヨットによる夏季休暇の旅の途中に立ち寄ったことがあったのですが、その時にダネット船着き場に恋をしてた一人が、その時に魅了された村落、とんがりモミの木の林が海岸壁にまで迫る海沿いの地、昔ながらの創意工夫が生きている地をもう一度見たくなって戻ってきたのでした。彼女にとって、この地域は遠く離れたところへの『あこがれ』と、彼女が払しょくできずに今なお持ち続ける夢に育まれて形成された子供っぽい確信、『これこそが文化の心髄という生活様式』がない交ぜになった世界でした。

【原文5】One evening in June, a single passenger landed upon the streamboat wharf. The tide was high, there was a fine crowd of spectators, and the younger portion of the company followed her with subdued excitement up the narrow street of the salt-aired, white-clapboarded little town. 【第1章 完】

【和訳5】6月のある日の夕方、一人の船客がここの蒸気船用桟橋に下船・上陸したのでした。潮は満ちていて、結構な数の人々が船の到着を見届けようと集まっていました。彼女は潮の匂いに包まれ、白一色に塗り上げられた家々の板壁が印象的な小さい町の狭い坂道道路を一歩一歩登り続けました。集まっていた集団の中にいた子供たち数人が、抑えるも隠し切れない興奮を胸に、彼女、この訪問者の後ろから付けて行ったのでした。【第1章 完】

<第1章から第4章までの Study Notes を無償提供します>

<Study Notes は 4~5回に分けて全編をカバーする予定です>

  私の Study Notes を公開する理由は、丁寧に下調べを尽くして翻訳して行けば、翻訳小説を読んだ読書感想文から「なんだかボンヤリした印象しか残らないな、海外小説は」というコメントを一掃できるのではと思うからです。その例として、この小説を取り上げました。評判の高い小説で、英語原文の文章にはあいまいな、ボヤッとした要素が皆無の見事な文章なのです。
  原文はグーテンベルグのサイトから自由にダウンロードできるのでぜひ読まれることをお薦めします。私の Study Notes が役に立つことを願っていますが、それは二の次にして、岩波文庫の和訳本が如何に手抜きな訳文かを海外小説好きの方々に見て頂き、原書読みの大切さを感じて欲しいのです。以上