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58回目 "Midnight's Children" を読む(第10回)。今回のエピソード 'Revelation' は読者にとって今か今かと心配が高まっていた隠し事が「とうとう」正念場に来たなという事件です

1. ラシュディに得意の悪戯っぽい作り話ですが。

サリームの祖父、アーダム・アジーズが骨粗しょう症のような症状(小説内に病名の明示は無いのですが。)に苦しめられたのち亡くなるのですが、その大きなターニング・ポイントになったこの出来事は Rashdie 得意のジョークと言えるでしょう。その事件には実際にあった事件とのかかわりが創作されています。
New York Times 紙のアーカイブに、この出来事に対応する事件が見つかりました。その見出しは

" 3 Kashmiri Moslems Held In Theft of Prophet's Hair "

この新聞の日付は February 18, 1964。1963年12月26日にあった髪の毛の窃盗事件の犯人が逮捕されたとあります。同記事の終わりにはヒンズー教徒とイスラム教徒の乱闘事件を引き起こしたとも書かれています。"The theft of the hair led to communal riots in East Pakistan and the adjoining Indian areas of Calcutta and West Bengal, where many Hindus and Moslems were killed."


2. Aadam Aziz は 70 才弱、弱った身体にも拘らずか弱ったからこそか生まれ故郷の街に向かって列車に乗ります。

祖父アーマド・アジーズは死の 3‣4 週間前、クリスマスの日に一人で都市アグラの自宅を抜け出し、列車に乗って生まれ育った湖の畔、カシミール地方の都市スリナガールに向かいます。

著者の言い訳のような言葉が、幕間の解説という形式で挿入されます。

[原文 2-1] I may well finish my grandfather's story here and now; I've gone this far, and the opportunity may not present itself later on …
[和訳 2-1] 祖父についての物語はここで、今の時点で終了しても良い(小説の本筋に影響は無い)のですが、ここまで祖父のことをお話したのだから、また今を置いて今後その機会が訪れそうという訳でもないもので・・・

Lines between line 13 and line 15 on page 384, "Midnight's Children"
by Salman Rushdie, 40th Anniversary Edition, a Vintage Classics paperback

そして3ページに渡る祖父の生き様・価値感・宗教への嫌悪の描写が始まります。この小説の背骨・骨格です。

[原文 2-2]([原文 2-1]のつづき) somewhere in the depths of my grandfather's senility, which inevitably reminded me of the craziness of Professor Schaapsteker upstairs, the bitter idea took root that God, by his off-hand attitude to Hanif's suicide, had proved his own culpability in the affair;
[和訳 2-2] 私の祖父の齢を重ね経験を積み上げた心の奥、それには私をして避けがたいまでに、一階上の部屋に住んでいるシャプステカー教授の狂気を思い起こさせる側面があります。祖父のそんな心の奥のどこかに恨み心が根付いたのです。 ハニフの自死を目の辺りにしたにも拘らず神はそれについて見ぬ振りをしたのだ。そうすることで、神はこの度の件の責任が自分(祖父)にあることを知らしめたのだという考えが祖父の心の奥に根付いたのでした。

Lines between line 15 and line 19 on page 384, "Midnight's Children"
by Salman Rushdie, 40th Anniversary Edition, a Vintage Classics paperback

[原文 2-3] ([原文 2-2]のつづき) Aadam grabbed General Zulfikar by his military lapels and whispered to him: 'Because I never believed, he stole my son! And Zulfikar: 'No, no, Doctor Sahib, you must not trouble yourself so …' But Aadam Aziz never forgot his vision; although the details of the particular deity he had seen grew blurred in his mind, leaving behind only a passionate, drooling desire for revenge (which lust is also common to us both) … at the end of the forty-day mourning period, he would refuse to go to Pakistan (as Reverend Mother had planned) because that was a country built especially for God; and in the remaining years of his life he often disgraced himself by stumbling into mosques and temples with his old man's stick, mouthing imprecations and lashing out at any worshipper or holy man within range.
[和訳 2-3]アーダムは将官ズルフィカーの制服の両襟を捕まえて彼にボソッとこぼしたのでした。「私が奴(この神)を信じないもので奴が私の息子を奪いおったのだよ、くそったれ!」 ズルフィカーはすぐさま「いえ、いえ、教授先生、そんなことを口にして自ら諍いを呼び込んではいけませんよ。」とそれを制しました。しかしながら、アーダム・アジーズは自分の発想を忘れることはなかったのです。その後はこの神との諍いの詳しい記憶は薄れていったものの、仕返しをしたいという欲望だけは心に残ったのです(この欲望にあっては祖父と私に共通です)。・・・このあと、40 日間の喪が明ける日になると、この祖父、(自分の妻の)「高邁なる母」が兼ねて計画・決定していたパキスタンへの引っ越しを拒否することになります。その理由はそこが神の為につくられた国だからというものでした。その結果、彼はこの後、死を迎えるまでの間、何度となく繰り返してモスクないしは寺院に、老人用の杖をついて歩み入り、偶々近くにいた参拝者や聖職者に悪態をつき、非難めいた言葉を投げつけたのでした。

Lines between line 19 and line 33 on page 384, "Midnight's Children"
by Salman Rushdie, 40th Anniversary Edition, a Vintage Classics paperback

《注1》 General Zulfikar はアーダム・アジーズの娘の夫で金の面では一族の内で最も成功している家族。イスラマバード(パキスタン)に居住。アーダムと「高邁な母」の夫婦はアゴラ(インド)を離れ、老年期をこの家族の居るパキスタンで過ごす計画していた。
《注2》 imprecation: [noun] a curse (= an offensive word that is used to express extreme anger) は implication とは別の単語です。
implication: [noun] 1. a possible effect or result of an action or a decision 2. something that is suggested or indirectly stated


3. Study Notes の無償公開

今回の読書対象はエピソード 19、Revelation です。Pages 371-391。これまで同様に A-5 サイズの冊子が印刷できるように調整しています。

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