見出し画像

Tea break 16 公立幼稚園の存続

先日こんな報道を目にしました。
全国で公立幼稚園数が激減している。
理由は幼児教育の無償化で、私立と公立の保育料との差がなくなったから色々なサービスを取り入れている私立を選ぶ保護者が増えたからだ、とされていました。
公立幼稚園は給食や通園バスサービスが難しく、サービスの差で選ばれなくなった側面は確かにありますが、でも本当にそれだけでしょうか?もっと大きな理由があると思います。
それは公立幼稚園を運営している市町村の自治体が公立幼稚園廃園の選択をせざるを得ない事情があると思います。


1.公立幼稚園数の推移

幼稚園は1947年施行の学校教育法で満3歳から就学までの教育機関に位置づけられており、公立・私立のバランスは地域ごとに異なりますが、自治体運営の公立は70年代の第2次ベビーブームの受け皿として急増しました。ピーク時の85年には全国で6千施設を超えましたが、近年は閉園が加速しています。文部科学省によると、2021年の公立幼稚園は、保育所機能もある「幼保連携型認定こども園」を含めて3965施設とし、17~21年の減少数は年平均134施設で、その以前の5年間の1.5倍超のペースとなっています。文部科学省の統計から、公立幼稚園の数は幼児教育と保育の無償化が始まった2019年の時点で全国で3400園余りだったのに対し、去年2023年は2900園余りまで減少しています。

2.公立幼稚園数が減少している理由とは

このデータから分析される「公立離れ」の要因は入園希望者の減少として少子化や、19年10月に始まった幼児教育・保育の無償化だとしています。18年度の文科省の調査によると、家庭の年間支出は私立幼稚園の52万円に対し、公立は半額以下の22万円。家計の負担の差が無償化で小さくなったからだとしています。また、私立幼稚園は共働き世帯のニーズを踏まえ、保育所機能も備えた認定こども園への移行が進み、長時間の預かり保育など手厚いサービスを展開する私立幼稚園や認定こども園などに園児が流れたとみられる。などを理由としていますが、現場で働いている保育者としてはそれだけではないと感じています。公立幼稚園離れだから公立幼稚園が閉園しているだけではなく、公立保育所・幼稚園共に閉園が検討されているというのが実情ではないでしょうか。

公立保育所数も減少していることは 杉山 隆一(すぎやま りゅういち)大阪保育研究所所員さんが論文の中で「保育所は、2000年の2万2278カ所から2019年に2万3551カ所へと約10年間で1273カ所増えています。そのなかで公立保育所は、2000年1万2723カ所から2019年8332カ所と4391カ所の大幅な減となっています。」と述べています。
      「すすむ公立保育所民営化と公の役割」(2021年3月5日)より

3.市町村が公立園所を廃園を検討する理由とは

幼児教育・保育の無償化の財源は消費税の増税分で総額は年間7764億円。 その一部には地方消費税 が充てられ、自治体も負担する。 民間施設(私立・認可)の負担割合は、国1/2都道府県1/4区市町 村1/4とするが、  公立施設は全額を市町村が負担する。
『幼児教育・保育の無償化について』内閣府・文部科学省・厚生労働省より

つまり、公立の保育所や幼稚園の運営・施設管理費・人件費全ての財源を市町村が負担する、ということです。

実際に文科省・総務省の資料を見てみましょう。

4.文科省の幼児教育・保育の無償化に係る所要額について

https://www.mext.go.jp/content/20210330-mext_youji-0000013737_0002.pdf

公立施設に国・都道府県からの給付はゼロ(-)です

『幼児教育・保育の無償化は、我が国における急速な少子化の進行及び幼児教育・保育の 重要性に鑑み、総合的な少子化対策を推進する一環として、子育てを行う家庭の経済的負 担の軽減を図るために実施されるものである。』
として始まった幼児教育・保育の無償化ですが、公立保育所・幼稚園には国・県からの補助は全く無く、これまでに得られていた保育料が無くなったことで体力のない地方自治体は100%赤字の保育所・幼稚園の閉園を選択せざるを得ない状況となっているのです。
(※子ども・子育て支援臨時交付金から「預かり保育」「ファミリーサポート」「一時預かり」などの交付金は市町村の公立園所にも交付されている。)

国は幼児教育・保育の無償化を謳いながら、公立園所の財源はすべて市町村に求め、財源を少しでも減らそうとしているのでしょうか?

このようなデータもあります。経済協力開発機構(OECD)の17年のデータによると、子育て支援への日本の公的支出は国内総生産(GDP)比で1.8%で、OECDの平均2.3%を下回り、少子化対策が先行しているとされるフランス(3.6%)やスウェーデン(3.4%)と比べると半分程度の水準です。
日本という国の子育て支援財源は大きく不足しているといえるでしょう。

5.佐倉市公立幼稚園閉園方針決定

▼保護者に閉園の方針が示されたのが3月で、決定までの期間が3か月しかない
▼公立の幼稚園は民間の幼稚園で受け入れられなかった障害のある児童などの受け入れ先にもなっている
との理由で保護者を中心に市民が撤回を求めている。とあります。

少子化の影響により21年に幼稚園・保育所・認定こども園に在籍する子どもは380万人で、16年と比べ2%減だったにもかかわらず、公立園所とは対照的に、幼稚園型・幼保連携型の認定こども園を含めた私立施設数は21年時点で1万1673に上り、17年から17%増えています。

公立・私立の違いを論じるときによく出てくる「発達障害や、グレーゾーンの子どもの受け入れ」というテーマがあります。私立園所でも発達に凸凹がある子どもを積極的に受け入れてすばらしい保育を展開されている園所もありますが、そうではない園所があることも事実です。入園を断られる場合もあります。また私立は建学の精神に則り園経営をしているので、教育保育内容がフラットではない面もあります。

公立がいい、優れているではなく、公立には公立の役割があり、私立には私立の役割があると思いますが、現状は財政面において公立園所が存続していくのは難しい状況です。

子育て世帯に幅広い支援策を備える基礎自治体では出生率が高いとされているということをどの自治体も理解しているものの目の前の財政難を乗り切ることが先決で苦渋の選択をしてるのではないでしょうか。

6.まとめ

国が打ち出した幼児教育・保育の無償化ですが、実際に国が負担しているのは私立だけで、市町村の公立園所は市町村が100%負担し、保育料がなくなった分、公立園所は100%赤字状態で閉園せざるを得ない現状はあまり伝えられていません。
『急速な少子化の進行及び幼児教育・保育の 重要性に鑑み、総合的な少子化対策を推進する一環』としての幼児教育・保育の無償化であるならば、私立とは異なる役割がある公立園所も存続できるような何らかの手立てが必要ではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございます。
明日も楽しい保育でありますように♡

いいなと思ったら応援しよう!