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超常現象研究会 活動記録 ドッペルゲンガー 肆


notAflac作


肆.

 夏休みに入り授業が行われていない大学の中庭に一人暑さと戦いながら歩く沙織の姿がそこにあった。夏休みだというのにやることがなくついついサークルの部室へと足を運んでしまうあたり少々残念な女の子である。今年はやりの服を着て、メイクもばっちり髪も整えられているというのに残念な女の子なのである。

 「あっ弘くんから電話だ。」

 もしかしたら弘も暇で大学に来ているのではと少し嬉しくなる沙織をよそに電話から聞こえてくる声は弘とは程遠いあまりに落ち着きすぎている悟の声だった。

 「なんで、悟くんが弘くんの電話からかけてきてるの? 」

 そう問いただす沙織の声は電話に出る寸前に出した声とはまるで別人のように感じられる。弘からの誘いだと思い電話に出たというのに電話の相手が悟だと知るや否や急にテンションが下がってしまっただけではなく、あまりの落差から怒りまで覚えてしまうほどだ。

 「今、弘と近くのコンビニにいるのだけれど沙織は今大学にいたりする? 」

 そういう悟の声はあまりにも抑揚がなくいつもと変わらないその声が沙織のテンションをさらに下げる。その奥で弘の声も聞こえる。早く弘くんと変わってくれればいいのにと思いながら電話の応対をする沙織の視界に人影が入った。夏特有の陽炎の先に沙織のよく知る人物がいた。

 「ねえ、弘くんって今そこにいるんだよね。電話変わってくれない? 」

 そう沙織が言うとすぐに弘が電話に出る。その声は紛れもなく弘である。けれども、私の視界に入っている人影もまた紛れもなく弘その人なのだ。

 ドッペルゲンガー

 そのワードが頭に浮かぶ。

 「え、嘘でしょ・・・」

 驚愕の声が沙織の口から漏れる。電話越しの弘の声がどこか遠いものへと感じられる。暑い。頭が痛い。目の前のあまりにも現実離れした状況が夏の暑さのせいだと思いたくなる。けれども、その姿はあまりにも鮮明でこちらを見る弘と目を合わせたまま一歩もうごけなくなってしまう。弘の名前を呼ぼうとしたときその人影は夏の陽炎の先へと消えてしまっていた。


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