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超常現象研究会 活動記録 コックリさん 壱


not Aflac 作


深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ
  フリードリヒ・ニーチェ
       『善悪の彼岸』より

壱. 

 すべての始まりは些細な好奇心だけだった。

 超常現象研究会のメンバー四人はその日古来より伝わる日本の降霊術を実践していた。普通ならばそれは小学生のお遊びのような些細なもの。彼らもまた遊び半分の気持ちだったのだろう。

 部屋には一台のビデオカメラが据えられ、鳥居を挟むように書かれた「はい」と「いいえ」。「あ」から「ん」までの五十音に0から9まで書かれたその紙の上に十円玉が一枚。四人の人差し指は硬貨の上に置かれていた。

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになれましたら『はい』へお進みください」

 どこかふざけた調子の四人の声が部室にこだました。超常現象研究会とうたっていても結局は信じていないのだ。そうただの遊びなのだ。何か起こればいいと思っていながらも何も起こらないとわかっている。皆がそう思っていた次の瞬間、紙の上の十円玉が動き出したのである。

「ちょっと、やめてよ。そういう悪ふざけとかいいから」

 一番の怖がりな沙織が焦り気味に言うと残りの三人は目を合わせながら首を横に振る。それを見た沙織は半ば涙を流しかけながら指を外そうとするものの十円玉と指に磁力があるかごとく外れてはくれない。その状況が彼らをさらに焦らせた。その焦りをあざ笑うかのように十円玉は、紙の上を滑り続ける。

 わけのわからない文字列を右往左往しながら滑る十円玉には何か魂のようなものが移っているのだと皆が思った。そんな中、唯一焦ることのないのは会長の悟だけで、悟は淡々と質問を始めた。

 「あなたは誰ですか? 」

 どこか寒気さえするようなその声はいつもの調子である。

 すると、十円玉はある単語を現したのだ。

 ”観測者”

 コックリさんという狐の霊を呼び出す儀式にはそぐわない答えである。

 「何を観測するのですか? 」

 顔面蒼白の三人をよそ目に悟だけが質問を続ける。するとまた”観測者”と名乗る十円玉は一つの単語を現した。

 ”セカイ”

 世界の観測者。全くもってわからない。その単語を現した時、超常現象研究会の一番新しい会員である、瞳の首がガクリと倒れた。

 それを見た弘が、もうやめにしようと半ば怒りながら悟を睨みつけた。いつもは明るく陽気な弘も今回のことはまずいと思ったらしい。

「コックリさん、コックリさん、お戻りください。」

 早口でそういうと、十円玉は紙の上をぐるりぐるりと円を書き始めた。あたかも戻る気はさらさらないと四人に見せつけるように。泣きながらもう嫌だという沙織、ガクリと首を折り曲げたままピクリとも動こうともしない瞳。この状況を冷静に観察するよう顔色一つ変えない悟。この状況をどうにか変えなければと弘は指を思いっきり十円玉から外した。

 その瞬間、十円玉は宙を舞いチャリンと音を立てて落ちた。ガタリと音を立てて倒れる椅子。そして、一瞬の静寂ののち沙織の悲鳴が静寂を破りカメラはそこで止まっていた。


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