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超常現象研究会 活動記録 ドッペルゲンガー 参


notAflac作


参.

 メンバーが部室を出た後、超常現象研究会の部室で一人パソコンに向かう影があった。弘の話を聞いてから悟は何とも言えない不安感を拭えずにいた。

 “ドッペルゲンガー”その存在は科学的に見れば脳の疾患もしくは精神異常における幻視でしかない。そのはずなのに第三者による信ぴょう性の高い目撃例も多く、有名なものだとリンカーンのドッペルゲンガーを大勢の人間が確認しているというものもある。

 けして、物語の中や精神疾患と言えない情報をどう解釈するのか悟自身わからなくなってきてしまっている。元来、超常現象など科学で証明できるものばかりであると考えている人間である。そんな彼を先日起こったコックリさんの事件は揺らがせているのも事実である。あの事件を論理的に説明することは決してできないとさえ悟は思ってしまっているのだ。

 あの事件では一人の人間の存在が消えていた。消えていたというよりも存在を検知することができなくなり、悟以外の人間にはその人物の情報さえも検知できなくなったと考えざるおえないのだ。

 「存在が消えることがあれば、逆に存在が増えることもあり得てしまうのでは。」

 そう独り言をつぶやきながら、そんなことはあり得ないと自分に言い聞かせたいのに悟はドッペルゲンガーの存在を肯定しようとしていた。

 部室に燃えるような赤い西日が差し込むころ、悟が部室を出ようとしていた。その時、閉じ忘れていたパソコンの画面にメールの着信が入っていることに気づく。あまり来ることのない超常現象研究会専用のメールアドレスにそれは届いていた。珍しいこともあるものだと思いながら悟はメールを確認した。

 差出人 Akashic Records
件名 Titleless
 Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird.
Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.

 ニーチェの善悪の彼岸から引用された文章だろう。怪物と戦うものは、自ら怪物にならぬよう用心したほうがいい。あなたが長く深淵を覗いていると、深淵もまたあなたを覗き込む。

 「どういうことだ、いたずらだろうか。」

 いつもならばいたずらメールだと考えてゴミ箱へ入れるのだろうが今日ばかりはどこか意味があるのではないかとまたしても悟はパソコンの前に座ってしまう。

 アカシックレコード。深淵。この二つはもしかすると同じものなのではないだろうか。アカシックレコードとはすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記録の概念である。世界の真実といっても過言ではないだろう。この世界の深き淵というように考えれば深淵とはまさしくアカシックレコードのことと言える。

 「それを覗くことは・・・ 」

 部室の中をぐるぐると回りながら悟が考えをめぐらし始めた。僕たちは何か見てはならないものに近づいてしまったのだろうか。だが、思い当たる淵などそう多くないあるとすればコックリさんを行ったことにあるが、そこから深淵を見つけ出すことなどできない。どんなに考えようと悟と考えはまとまることなどなかった。夕陽も沈んでしまい外灯からの明かりだけが部室をぼんやりと照らしていた。

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