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小説『丼とburger』草稿 田辺篇⑥

 龍神椎茸。「ト」のマルシェで再会した、はんとぱんとさんの椎茸フライサンドの椎茸。この大きさと美味しさに驚いて、早速調べた。  保存食材の干し椎茸。保存のためだけではなく、乾燥させることで新たな旨味成分が生まれるという。  かつては松茸とは比較にならない、恐ろしいほどの高級品で、貴族・武家階級、富裕層以外の人が口にすることはほぼなく、中国にも輸出されていたという。同じ重さの銀と交換なんて冗談でもなく、高値で流通していた。  その中でも名産地で有名なのが大分。そしてここ和歌山。

    • 小説『丼とburger』草稿 田辺篇⑤

      「お待ちしておりました」満面の笑み。  楽しみにしていた、という気持ちが分かりやすく現れているご主人の笑顔。  足早に厨房に案内してくれる。といってもカウンターの向こうの板場とすぐ奥のコンロだ。 「よろしくお願いします」撮影のセッティングをする。  蓬莱鮨。駅前の商店街の並びに昭和の頃からあるあるな、感じ。ビルの1階の小さな屋根の付いたファサードの寿司屋。大きなガラスのショーウィンドウには料理のサンプルがいくつか並べられ、和風の木質アルミサッシの自動ドアの入り口。あがら丼のの

      • 小説『丼とburger』草稿 田辺篇④

         いい香りですね。バニラのような。  紹介してもらったパン屋の近くに南方熊楠邸がある。そうだな、彼の庭に来たんだった。  南方熊楠邸、離れの書斎の縁側に座ってぼうっとしていると、いい香りが漂ってくる。葉っぱがざわざわしていていい。 「気持ちいいですか」いつのまにか管理人の女性が隣に座っている。 「ええ。風がいいです。それといい香りですね。バニラのような」 「昭和天皇のプレゼント」  カラタネオガタマというらしい。安藤みかんの花も香りを出している。女性は70代だろうか品の良いお

        • 小説『丼とburger』草稿 田辺篇③

           バンズをどうしよう?  あがら丼あがら飯のパンフには、カツサンドがある。サンドイッチか。こうなるともう丼でも飯でもない。何でもありのあがら勝手だな。やっぱり素晴らしく自由だ。  このカツサンド、解説を読むと、この辺で昔から好まれている甘みのある食パンが売りのようだ。バーガーにするのにうってつけかも。ハンバーグなど味の強い具をさはむハンバーガーには甘めのパンを合わせる店が多い。  街中でパン屋をググってみる。  気になるお店、駅前の「Don-ai」。新しそうな店だ。  目指

        小説『丼とburger』草稿 田辺篇⑥

          小説『丼とburger』草稿 田辺篇②

          「パンという共通言語で、世界に日本の食文化を伝えたいのです」  手のひらの完全食。日本食コンセプトの世界への発信…丼とバーガーの意義を熱く語り、あがらバーガーの空想レシピについて話した。 「わかりました。面白いですね。あさって木曜日の14時頃お越しください。  バーガーはもう少し和食を活かした方が面白いと思います。それまでに考えますので、楽しみにしていて下さい」  乗っていただいた。ありがたい。久しぶりの撮影だ。  いつのまにかお店の休憩時間に。外に出る。 もう随分と時間が経

          小説『丼とburger』草稿 田辺篇②

          小説『丼とburger』草稿 田辺篇①

           軽のワゴンは、熊野の巨木杉の山中からストーンと平らなところに出てしばらく走る。奥深い山から離発着ポートへ着地した感じだ。  田辺市。聖地。巡礼する。  ここは、ある男が住んだ町。  彼は明治の昔、日英同盟の前夜、まだ日本が日露戦争で帝政ロシアに勝利する前、人種差別激しいイギリスで学び帰国した。那智の山腹に籠って本を読み、隠花植物を写し、思索し、手紙を書き、心が壊れたのちに、ここに居を構えた。散歩し、やはりここでも植物を採集し写生し、本を書き写し、大量の手紙を友に書き送った

          小説『丼とburger』草稿 田辺篇①

          小説『丼とバーガー』草稿⑤

          金沢⑤  とてもさわやかな青空。  いろんな種類の食べ物のキッチンカーがたくさん並んでいる。  僕がいるのは『はんとぱんと』という看板のキッチンカー。いかにも女性らしい可愛いデザインの外装とロゴ。  実はこの『はんとぱんと』という屋号というか、ショップネームが、今回僕が店を出そうと思った理由でもある。  加能まいもん軒のマスターから、電話があった。 「こんど市内でマルシェがあるんですが、こないだの鯛の唐蒸し丼とバーガーと治部煮バーガーを出してみませんか?それと面白い人を紹

          小説『丼とバーガー』草稿⑤

          小説『丼とバーガー』草稿④

          金沢④  加能まいもん軒。マスターに料亭大伴楼でのくだりを話した。老舗料亭の主人が乗り気なことにマスターも驚いていた。  「何を丼とハンバーガーにするのです?」  鰆の西京焼き、鯛の唐蒸し、松茸と白子の天麩羅、鴨の治部煮。四つの料理をあげた。  大伴楼の主人からは、それぞれ奥が深いので郷土料理の代表の唐蒸しと治部煮に絞ってみることをすすめられた。  「では、予習のお勉強しましょうか」マスターは微笑む。  「鯛の唐蒸しと治部煮の歴史くらいは知っていますか?」とマスター。  も

          小説『丼とバーガー』草稿④

          小説「丼とバーガー」草稿③

          金沢③  加能まいもん軒。ほぼ毎日も通った。  僕は、マスターの話を聞きながら、能登杜氏四天王の最後の一人の仕込み酒を飲む。  つまみで出された烏賊の糀漬けや黒づくり。  うまっ。これやばいですね。旨すぎる。お酒がどれだけでも行けちゃう。  これだけで充分でしょ。  この糀漬けからイカをとったら塩麹。昔から能登では使っている調味料、塩麹のブームの前から、と語る。鶏の塩麹焼きだってずっと昔から、照り焼きのように普通に家庭で食べて来た。  この黒作りもイカの身とワタをいしりに漬

          小説「丼とバーガー」草稿③

          小説『丼とバーガー』草稿②

          金沢② 「パンという共通言語で、世界に日本の食文化を伝えたいのです。」  熱く語った。グリルオーツキのオーナーも快く撮影に協力してくれた。  ランチが終わって、ディナーまでのアイドリングタイムに、ハントンライスの調理シーン、ブツ撮り、箸上げ、僕自身の試食レポートを撮影させてもらった。  僕のカメラはソニーのハンディカム。普通のユーチューバーだと、ルミックスやαなどのミラーレス一眼を使っている人も多いと聞く。それとスマホ。  スマホの映像も綺麗だけど、撮影している安心感に欠ける

          小説『丼とバーガー』草稿②

          小説『丼とバーガー』草稿①

          あらすじテレビ局で、全国を旅して魅力的な店主の美味しい店を紹介する番組を担当していた人気ディレクターが、なんだか言えない事情があって、YouTuberに転職! 本人は、日本の丼ものをバーガーにトランスフォームして、日本のどんぶり文化を世界の人たちに伝えたいと息巻いている。 「丼とburger」をテーマに土地ならでの丼ものを探して、車中泊仕様の軽のワゴンで日本各地を旅する元テレビディレクター。 どんな丼に出会うのか?訪れたお店の料理人やそこに暮らす人たちの助けを得ながら、どんな

          小説『丼とバーガー』草稿①