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面白くもない話

彼女は幼少期の極めて特殊な経験から性への独特な見解を持っていた。
一般的にセックスとは性欲を満たすため、動物的な子孫繁栄を目的とした、
自然欲求的な行為とされているが、彼女は幼少期に起こったレイプという特殊体験の為
欲求や伝達指令の他に至って諦めに近い、
其れは一種の心中の様に相手に身をまかせると言った傾向が見られた。
相手がサディストならばマゾに、またその逆も然り。
この文を読んだ貴方はきっとこう思うだろう、そんな人もいるだろうと。
しかし其れは大きな間違いである。何故なら彼女のその傾向は異常だったからだ。
相手がサディストならば度合いによっては殺される事も意図わなっかった。
当然その逆も。

面白くも無い話だ。側から見たら何の変哲も無い詰まらない年相応の彼女。
然し性行為の時のみ彼女は元の姿に回帰してしまう。戻りたくも無い放課後の集合団地に。
薄暮に包まれた階段の踊り場で突然後ろから三十歳前後のアダルトチュルドレン風の男に首を絞められる。
小学校低学年の少女が。
そして服を千切られ、体を弄られ、遊ばれ、ぶつけられ、壊された。

もし彼女に投影される残像が家庭内暴力であれば、交通事故であれば何か違っていたのかも知れない。
ましてくだらない家庭のくだらない子供であれば。

彼女は性行為の後、衣服を身に付ける時必ず信じられないほど哀しい顔をした。
其れはこの先に何も無いような救い用の無い表情だったのをいまでも記憶している。
面白くも無い話だ。

取り憑かれたように混沌の中で淫美に乱れる彼女の姿、
悶え、叫び、果て、声にならない声で、
捉えられない程の動作であの日の少女を追っている。
彼女の両側の目は私を何に変えていたのだろう。
面白くも無い話だ。

彼女は其れでも性行為が好きだと言っていた。
虚言かもしれないが、私は震えてしまった。
人の性と汚れとに。救いなどないよ。愛など健気で。キツイんだ、俺だって。
救えるはずがないだろ。無力な画学生などに。其れでも、其れでも踠いた。
体が千切れるまで抱いて抱いて。
あの子は、薄暮に呑まれる八歳の少女はその度に無力の涙を流して果てていた。
全くもって面白くない話だ。

これで、これでさよならだ。君はまたそんな顔で下着を着けて。俺だって、俺だってキツイんだ。
何がだ、こんな詰まらなく、くだらない私を一体何が苦しめている?
不安か?罪悪か?違う其れは事実じゃない。虚構だよ。なら、
あゝそうか。俺だったのか彼女を犯したのは、汚したのは。
何だよ面白くも無い話だな。

駄目だよ、駄目だ。俺は連れて行けない。
だって君はあの日の薄暮の中で汚されたての
少女のままじゃないか。
だから、これでもうおやすみだ。

#エッセイ #短編 #作品