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A Concrete Case

CASE1 夢落街

ザー…ザー…
激しく降る雨の匂いと歓楽街独特の煙が混じり合い、最後にはいつもこの街をかき混ぜる。
-ここは雨の縱濱-

「全く大概にしてくれよ」
6席しかない狭いバーカウンターの左から2番目。
緑の光がバーテンダーの背中をすり抜け、彼の顔を照らした。

「雨に降られ、今夜も彼女とは会えなかった。おまけに着信の嵐だ、これでは遥々小阪から来た私が報われないとは思わないか?」

…ゴジュウロクビョウの沈黙…

「大体13140夜時元ぶりの俺との再会はお前にとって報われたことにならないのか。
こうしてわざわざ店にまで顔を出してくれて、嬉しいよ喜無」

真紫のダーツ盤にオレンジにの矢が突き刺さる。
喜無が座っている長細いパイプ椅子からは
ちょうどよくその空間は死角になっていた。

…ゴジュウナナビョウ 目移り

「来たくてきたんじゃない、今日はここだった、それだけだ」
カラカラと音を立て氷の群れが崩れ落ちた。

「テキーラのショットを三杯くれ、レモンわすれんなよ」

「すぐにお持ちいたします」

…ゴジュウハチビョウ 邂逅…

嫌気がさした。ただ一人のために迷い込んだ古巣で何故こんな知った顔を覗かなければいけないのか。
もともと人と会うのは好きじゃないのだが
たまたま出くわしてしまうのが1番嫌いだった
用意もなければ、興味の持ち合わせもない。
例えるなら見ず知らずの子供にカラッポのポッケの中からビスケットや飴玉を出してくれと泣きながらせがまれる、これと同じことのようにそれは不可能だ
私はただ一人に会いに来ているのだから。

「久しぶりだな喜無。卒業式の二次会以来だな、相変わらず人嫌いか?」

「余計なお世話だよ楽人。
大体いつまでこの地方都市でギャングの真似事するつもりだお前?」

ゴジュウキュウビョウ 通電

店の中は徐々に賑わい始めていた。
知った顔にこれ以上会いたくなかった私はキツめのアルコールを飲み干し、店を出ようとしていた。

「お待たせして申し訳ありません」

バーテンダーの低家がふざけながらテキーラを五つテーブルに置いた。

「おい、俺は三つと言ったんだ。分かるか?三つだ、このアル中野郎。
大体俺が酒を飲みすぎるとどうなるかお前が一番よく知ってるだろ。」

「そう吠えるなよ喜無。サービスだ、サービス。俺なんかラッパで呑むからよ。
久し振りの再会だ。パーと行こう。パーと。
なぁ楽人も飲むだろう。喜べ、お前はジョッキだ」

イッブンケイカ
データベースに書込みを始めマス

「おいこのアル中SEX依存テンダー。
俺は此処に仕事をしにきたんだよ。喜無みてぇな暇人と一緒にするんじゃねょよ。
まぁいい。確かに久々だしな頂くよアル中テンダー。乾杯しよう」

「まてよ楽人。俺はまだいいとも何とも言っちゃいないぞ。
それにしても仕事しにこんな小汚いバーに来るなんて穏やかじゃなさそうだな」

「相変わらず感だけはいいな、喜無。
十分後に最近俺たちの商売の邪魔する奴と話しつけなきゃなんねーんだよ。しかもな、驚く事にこれが女なんだよ。
その上に美人と来る。こりゃ厄介だぜ」

楽人はニコッと笑いセブンスターに火を付けた。
街のチンピラ相手に商売くすねようとする上に女か、しかも楽人はこの縦濱じゃかなり顔も効く。何やらやな予感がした。これを呑んだらさっさと出て行こう。

イップンサンジュウビョウケイカ
書込みガ完了シマシタ

「おい楽人。お前また座海苔さん何処に売り飛ばすんだろお前本当腐ってるな。大概にしねーと痛い目みるぜ」

「痛み目なら傷口が膿むまで見てきたぜ低家
大体な俺たちにチョッカイ出すのが馬鹿なんだよあのアマ」

「顔は見た事あるのか?写真とかあるか?」

「どうした喜無。お前小坂で相手にされねーから溜まってんのか?あ?仕方ねー時は樋笠貸してやるぜ」

「低家、てめーは黙っとけ下衆野郎」

「相変わらず硬いぜ喜無。だからその下のもんも使えなくなんだよ」

低家はカウンターに頭をぶつけながら笑い転げた。叩き割ってやろうかと思ったが馬鹿馬鹿しくなってやめた。
それにしてもその女もしかして。ますます嫌な予感がする。
バーカンの後ろには低く酒が積まれている、その理由は其処がガラス張りになっているからだ。以前は高かったのだが酔っ払いが飛んできて酒もガラスも粉々になったため今は低く酒が積まれ、せめてアルコールだけは守ろうという事になったらしい。

ニフンケイカ 準備が全て整いマシタ。活動を開始してクダサイ

「悪いな喜無。俺もあいつらも街の人間、誰一人其奴の顔を見た事がないらしい。」

「ならどうして美人とわかる?誰も見たこと無いならそんなこと、、、」

「いやどうやら外から来たハエらしくてな、そっからの筋なんだよ。まぁ本当かどうかは知らねーが美人と思ってた方がこっちのモチベーションも上がるだろ?」

やっと低家が楽人のテキーラを持って来た。
ジョッキに並々注がれたテキーラは見るだけで吐きそうになるが楽人は酒が怖いほど強いこの程度では水を飲むより容易いだろう。

ニフンサンジュウビョ、ビョウ、ケ、け、ケ、けいか?ケイカ シタ

「五月蝿いわね。人が寝てる横でグダグダ喋ってんじゃないわよ。このガラクタ。
ぶっ壊すわよ」

そう呟き、女は頭を掻きむしった。
目を覚ますとまず女はハシシを目一杯吸い込んだ。
女の室内にはマイルスデイビス 死刑台のエレベーターが流れ続けていた。
床置きされたレコードプレーヤーの他に唯一あるのは機械式ベット02番のみである。
灰皿すらなく女は吸い終わったハシシを手で握り潰し右下の奥歯と歯茎の間にしまい込んだ。

「これが10本はないとやってられないわー
汚い街。本当。さぁじゃあ02仕事行って来るわ」

サンプンサンプンビョウ 通過 ナンバー発行
キョウモイイテンキデスネ。ドウゾオキヨツケ。ナンバーは0731.0731デス。復唱シマスカ?

「大丈夫。ありがとう。愛してるわ。じゃあ良い子にしてるのよ」

イッテラッシャイマセ。
ゴジュウキュウビョウゴ 復唱、、、

等々バーは満杯になり、何やら知った顔が集まりだした。殴り合いをするもの、ケミカルトリップする者、様々だ。これではバーとは呼べない。ただの無法住宅だ。

「じゃあ乾杯と行こーや」

「嗚呼。乾杯」

「たっく遅せーな女。 あ、乾ぱ、、、」

その時バーカン後ろのガラスに一人の女が写った。
ショートカットに白いワンピースの上に襟なしのライダースを着込んでいる。
その女が目に止まった瞬間、私はもうガラスを突き破っていた。

「やっと見つけた」

「馬鹿野郎、飲み過ぎた!」

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#コラム #短編 #呑みすぎた #横浜