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怖い話のディテールはどこまで詰めるべきなのか【怖い話のジレンマ】

僕には趣味というか、クセというか、ついやってしまうことがある。
それが、「ジレンマ集め」だ。
「囚人のジレンマ」とか「ヤマアラシのジレンマ」みたいな名前がついた有名なやつではない。名前のついていない新しいジレンマを集めるのが好きなのだ。

過去にもいくつか見つけたジレンマについて投稿している。

僕は最近怖い話にハマっている。
そんな怖い話にまつわるジレンマを見つけたので、今日はそれについて。

僕が最近ハマっているのは、「禍話」というものだ。
これはツイキャスで配信されている怖い話の番組で、noteにその話のリライトを上げてくださっている方が沢山いる。
僕はそのリライトされた禍話を最近よく読んでいるというわけだ。

これが本当に面白い。
怖い話が苦手な人は避けた方がいいと思うが、そうでなければぜひ一度読んでみてほしい。

語り手が実際にいろんな人の体験談を集めてきたというものなので当たり前っちゃあ当たり前だが、どの話もリアリティがすごい。
そして意味が分からないことも多い。その怪異はどんな理由があってそんなことをしているのかが謎だったり、恐怖の絶頂に達したタイミングで大体気を失ってしまうので、肝心なところが分からないこともある。
でもそれがさらに恐怖を掻き立てる。
世の中全てのことに合理的な理由があるわけではないのだ。

という訳で、いくつか僕のお気に入りの禍話を紹介しておく。


しかし、禍話はどれもこれも面白いのだが、たまにふと我に返ることがある。
「この話、ディテールが詰まりすぎてやしないか?」
と感じる瞬間である。

皆さんも思い返してほしいが、自分の高校時代のある1日の出来事などそんなに詳細に覚えているだろうか?
僕は全然覚えていない。
だから怖い話の語り手が、怖い出来事の前後の状況、友人と交わした会話の内容、その場所にあった物や壁の質感などを詳細に覚えていると違和感を感じてしまう。

本当に怖かったことは詳細まで覚えている。という人もいるかもしれない。
だが、禍話に出てくる怪異は往々にして突然日常の中で現れる。
日常の中で突然起こった怪異の、起こる前の状況を詳細に覚えているのはやはり違和感を感じざるを得ない。
これでは作り話感が出すぎてしまう。


ぶっちゃけ言うが、
怖い話の9割は作り話だ。
そして0.9割は勘違いや統合失調症による幻覚だ。
本当に超常現象が起こっているかもしれないのは残りの0.1割だ。
そんなスタンスで僕は怖い話を聞いている。

そんな僕が怖い話を面白いと感じる瞬間は、
「これはその0.1割かもしれない」と思う瞬間である。

そのためには、リアリティと気味悪さの二つが欠かせない。
本当に起こってそうと読者を信じ込ませないといけないし、そのうえで想像の斜め上を行く恐ろしい出来事が起きなければ怖い話にはならない。

そして、リアリティを出すためにはディテールの設定も詰める必要がある。
場面が詳細にイメージできた方が臨場感が出て怖さが増すし、
大前提として、場面が全くイメージできなかったり、設定に破綻があると怖くもなんともなくなってしまう。


ん?
ディテールを詰める?

それはさっき僕が「作り話感が出すぎてしまう」として忌避したことではないか?
ディテールを詰めないとリアリティが出ないし、ディテールを詰めすぎると、先ほどの僕のように却って作り話っぽく感じられてしまう。
まさに怖い話のジレンマである。

この塩梅が非常に難しいところだと思う。
いっそホラー小説形式にして、これはフィクションですということを最初に宣言するという手もあるが、僕の場合はそうすると一気に興をそがれてしまう。あくまで実話であるという体は崩さないでほしい。

禍話の作者にはぜひこのスタンスのまま、リアリティのいい塩梅の怖い話をたくさん作っていただきたいものだ。

そして、最近話題になっている、超面白いホラー作品(?)がある。
「近畿地方のある場所について」だ。

読んでいただくと分かるが、リアリティと気味悪さがとんでもなく高レベルである。
それに、この形式もよい。
過去のオカルト雑誌の記事の寄せ集めや、インタビューの文字起こしといった形式で、読んでいけば次第に点と点が繋がってくる。
だが肝心なところは最後まで靄がかかったようによく分からない。
まさに人知を超えた怪異の恐ろしさが味わえる作品だ。

禍話が好きなら絶対ハマると思う。
伏線回収系のミステリ的な面白さもあるので、僕の好みにもドンピシャであった。
多分、完結したと思うので、一気に伏線回収のカタルシスが味わえる。
(多分というのは、終わりを匂わすことが今までも何度かあったからだ)

「近畿地方のある場所について」は中にはディテールがかなり細かい話もある。
少しネタバレになるが、怪しげな人たちが唱えていた謎の呪文のようなものが登場するのだが、その内容意味をなしていない五十音の羅列がちゃんと記載されている。
最初に見たとき僕は「こんなの覚えてるわけないじゃん。せっかくのリアリティがここで少し失われたな。」
と思っていた。
適当に書いただけかとも思ったが、別の場面で出てきた謎の呪文もよく似た文字列だったので、意図のある文字列なのだろうと解釈した。

しかし、それも伏線だったということが最新の更新で分かった。
これは一本してやられた。きっと僕のような違和感を感じる人に一泡吹かせてやろうとしたのだろう。

とにかくおすすめなので、一度読んでみてほしい。



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