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失われた混沌を求めて/不遇な時代の駄作/傑作!西部劇

2021年11月24日

新型コロナの新規感染者の減少が続き、少しづつ日常に戻りつつある今日。思えば昨年もこんな感じでGoToなんちゃらが盛んにー。そんな1年前を振り返りつつ読んだ『東京ゴースト・シティ』 アメリカ人作家のバリー・ユアグロー氏の奇想天外な短編集を柴田元幸氏が翻訳。

バリーさんとコジマさん(ロシア出身)の夫婦がオリンピック前の東京を訪れる。床屋や飲み屋、路地裏などで遭遇するのは太宰治や三島由紀夫夫妻、植木等など日本の文化人たちの幽霊でー、というストーリー。オリンピックで盛り上がるはずの東京がコロナ禍で一変してく中、失われていくものと変わらないものが浮かび上がってくる。

なかでも面白かったのは写真家都築響一氏(ご存命の人物です) とのくだり。”こんまりメソッド”に異を唱え、個性にまみれたB級文化愛を展開する。

読んでいて、コロナで生活にいろんな変化が起きる中、清潔であることはもちろん、秩序とか整合性とかバランス感覚といった観念が過剰になっている気がした。

「何が良くて何がダメなのかハッキリ示してほしい」と求めたり「お店選びは感染対策が実施されているお店を」と求められたり、そんなことまで国や誰かに決めてもらわなければならないほど麻痺してしまったのか、私たちは。とっ散らかった日常が恋しい。もっと混沌とした世界を楽しく生きていきたい。

で、この本にも登場する都築響一氏の写真集『HAPPY VICTIMS 着倒れ方丈記』を手にした。狭い部屋で一方的に思いを寄せるブランドの服に囲まれて生きる衣食住のバランスが完全に崩壊した着倒れ者たちが。

完璧に整えられたブランドの広告写真とはまったく違う。ブランド側はどう思おうと関係ない。好きな人はこうなのだ。そこがたまらなく愛おしくて面白い。


映画『テイキング・ライブス』WarnerBrothers/Photofest/ゲッティイメージズ

見た映画のことを悪く言うのは気が引けるけれど、これは一言いわずにはいられない駄作だった。アンジェリーナ・ジョリー主演の映画『テイキング・ライブス』(2004年・アメリカ)

手にかけた被害者に成りすまして生きていく連続殺人犯とそれを追うFBI捜査官。このFBIがアンジーなんだけど、序盤から明らかに疑わしい目撃者(イーサン・ホークよ、そりゃ怪しいでしょうよ)を見逃すし、あげくイーサンに入れあげるし、なのにラストはー。それただの私怨でしょうがっ!

そのストーリーもストーリーなんだけど、とにかくガッカリさせられるのは無駄にセクシーを演じるアンジー。2004年といえば映画 『Mr.&Mrs.スミス』でブラッド・ピットと共演直前の頃。ラジー賞の常連(受賞ならず)でお騒がせなイメージが先行していた頃か。 こういう役をあてられてしまう不遇な時代の作品としてそっとここに葬っておきたい。


一方、このドラマは凄かった。まさに傑作。
Netflixのドラマ『ゴッドレス -神の消えた町』(2017年)19世紀後半のアメリカ中西部を舞台にした西部劇。

ならず者一味をある理由から抜けた男がある町に立ち寄る。そこは炭鉱事故で男手の多くを失った女性だらけの町。男はここで拘束されるが農場を営むはぐれものの女性がこれを奪還し匿う。男を追う一味とそれを追う腰抜けの保安官。それぞれの背景が徐々に明らかになり、最終話で結実していく流れは感動で涙が込み上げくるほど。

キャストは、男にジャック・オコンネル。個人的には次のジェームス・ボンドにイチ押ししたいイギリス人俳優。一味のボスにジェフ・ダニエルズ。映画『イカとクジラ』のダメパパと違い、こちらはならず者ながら深い父性愛を見せる。腰抜けの保安官にスクート・マクネイリー。ドラマ『ナルコス』と同じ弱く苦悩する正義がハマる。保安官の助手のトーマス・サングスター(ドラマ『GOT』 『クイーンズ・ギャンビット』ほか)もいい。

が、なんといってもこのドラマの見どころは女性陣ですよ。もはやこれは女のドラマ。農場の女にミシェル・ドッカリー。男装し町を守る保安官の妹にメリット・ウェヴァー。

イッキ見とはいかない重厚な全7話。おすすめです。


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