『悪童日記』 アゴタ・クリストフ 不条理な現実を直視しているか
『悪童日記』は戦時下のある国境近くの町を舞台に、祖母に預けられた双子の男児の視点で描かれる日記小説です。
著者アゴタ・クリストフは、1935年ハンガリーに生まれ、のちに西側に亡命。1986年に発表された本作は著者のデビュー作で、多くの国で翻訳されロングセラーとなっています。
『悪童日記』の内容紹介
名もなき双子の日記
この物語は町にも人物にも名前はありません。が、舞台は第二次世界大戦下、ナチスドイツに併合されたオーストリアとの国境に近いハンガリーの田舎町です。
家族で暮らした大きな町を離れ、小さな町に住む会ったこともない祖母のもとに預けられた双子の男の子。ケチで、不潔で、周囲の人々からは「魔女」と呼ばれている祖母。預けられた当時の双子はおそらく9歳前後で、自分たちにさまざまな課題、訓練を課します。身体を鍛え、精神を鍛え、無感覚になろうとする。それがこの戦時下を生きる術だと気づいたかのようにー。
読書、計算、記憶、そして作文。その作文が『悪童日記』なのです。
評)不条理な現実を直視しているか
日記といえど、記されているのは暴力や虐待、貧困、略奪、恐喝、性犯罪、殺人。それが子どもの目線で感情を交えることなく淡々と描かれていくさまは、得体のしれない不快感をまとっています。
ここに描かれているのは子どもの純粋さゆえの残酷さではなく、むしろ子どもがあらゆる能力を発揮して自分たちだけの、周りから隔たった閉じた世界のなかで思いどおりに事を運んでいく故意の残酷さです。
道徳的観念などないかのように「人間とは本来こうした不条理な生きものだ」と突きつけてきます。双子たちの行動と冷ややかな視線は物語の中のみならず、読んでいる私たち大人の心を抉っていきます。特にものわかりのいいふりをして、現実を直視しようとしない大人にはダメージが……。
このトンデモナイ双子。ろくな大人にはならないだろうと思ったところ、なんとその後があるそうな。
『悪童日記』は3部作の1部。2人の青年期を描いた『ふたりの証拠』、50歳を迎えた『第三の嘘』と続きます。ぜひ、このダメージを。
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