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『悪党たちの大英帝国』 君塚直隆 人が歴史を動かす

ヘンリー8世といえば、映画『ブーリン家の姉妹』(2008年)で描かれているとおりの暴君のイメージ。チャーチルは、映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017年)では英雄だけれども、Netflixドラマ『ザ・クラウン』(2016年~)では、いつまでも権力の座にしがみつく老醜のイメージ。

本書『悪党たちの大英帝国』は、この2人のほか、計7名の「悪党」をピックアップしてその人生を振り返ります。

もともとはアウトサイダーであった7人が、いかにして権力の中枢に立ち歴史を動かしてきたか。映画やドラマとは一味違う「悪党」の姿と、そこから見える歴史の変遷になるほどと思わされる1冊です。

『悪党たちの大英帝国』の内容紹介

辺境の島国イギリスを、世界帝国へと押し上げたのは、七人の「悪党」たちだった。六人の妻を娶り、うち二人を処刑したヘンリ八世。王殺しの独裁者クロムウェル。砲艦外交のパーマストン。愛人・金銭スキャンダルにまみれたロイド=ジョージ。そして、最後の帝国主義者チャーチル……。彼らの恐るべき手練手管を鮮やかに描く。

新潮社HPより

7人の悪党の所業をザックリまとめますと、

①ヘンリー8世(エリザベス1世の父)は、6人の妻と結婚し(うち2人を処刑)、自身の立場のためにローマ教皇に歯向かって「イギリス国協会」を作った人物。これが、主権国家を作るきっかけとなる。

が、その王権を崩壊させ共和政を築く人物が登場する。ピューリタンの政治家②オリヴァー・クロムウェルです。王殺しという悪名の一方、イングランドとスコットランド、アイルランドの三王国の複合支配を成しえた人物でもある。

しかし、やがて内政は混乱。王政が復活し、王位をめぐるイギリス国協会とカトリックの論争を経て、メアリー2世とともに共同統治という形で夫③ウィリアム3世が王位につく。武力を伴わない「名誉革命」とよばれるが、このウィリアム3世はオランダ人。外国人王として人気がない。ちなみに映画『女王陛下のお気に入り』(2018年)の女王アンは義妹にあたります。

そしてアメリカの独立に断固反対した④ジョージ三世は、映画『英国万歳!』(1994年)で描かれているとおり、精神を病んで(後世ではポルフィリン症だったのでは、と考えられています)ご乱心する悪王だった。が、国、ことにイングランドを愛し農業を慈しむ姿は、国民から「ファーマージョージ」と呼ばれ愛されたという。

そのジョージ三世の孫娘が大英帝国の繁栄を極めたヴィクトリア女王(映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(2017年)ほか)で、その当時の外相が⑤パーマストン子爵。首相も務めたパーマストンですが、大衆迎合主義で2度のアヘン戦争を引き起こし女王にも嫌われていた。が、この人は奴隷貿易を一掃した人物でもある。

そして第一次世界大戦を指導した⑥デヴィッド・ロイド=ジョージ。中産階級出身ながら金権政治でのし上がり、君主や貴族に敬意を欠く一方、国民保険法を作り、社会福祉制度の先駆け的偉業を成し遂げた。

そのロイド=ジョージの弟分が⑦ウィンストン・チャーチルで、こちらはゴリゴリの貴族出身ながら、泥臭い政治活動を続け、第二次世界大戦でヒトラーを打ち砕いた英雄です。が、一方では自身をアメリカ、ソ連(当時)と肩を並べる超大国の指導者と自負し、アジアやアフリカを見下し続けた一面もー。

人が歴史を動かす

己の世界史に関する無知を映画でなんとか穴埋めしたい、と日々思っていますが、知らないことが多すぎると実感。特に興味深かったのは第3章のウィリアム3世です。

ヘンリー8世~エリザベス1世の時代とヴィクトリア女王の時代の狭間にあり、同時代のフランスは栄華を極めた太陽王ルイ14世の時代。外国人王として不人気なだけでなく、地味な性格と見た目もイマイチだったことも災いしてか映画作品が見当たりません。

しかし、この本を読めばウィリアム3世が、イギリス、オランダ、フランスの関係を大きく動かす起点を作ったことがわかります。まさに、「人が歴史を動かす」 ぜひご一読を。



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