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映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』(2019年)

映画タイトル:サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ
原題:Sound of Metal
製作年:2019年 アメリカ
監督:ダリウス・マーダー

映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』は、

聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描く物語です。
ろう者として生きるすべを身につける一方、インプラント手術による聴力回復の希望も捨てきれないルーベン。その葛藤を音を失っていく世界とともに描いています。第93回アカデミー賞音響賞、編集賞受賞作品。

キャスト

・リズ・アーメッド(ルーベン)
聴覚を失ったドラマー

・オリビア・クック(ルー)
ルーベンの恋人 

・ポール・レイシー(ジョー)
ろう者の支援コミュニティの運営者

映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』の見どころと感想

(C)Courtesy of Amazon Studios

恋人のルーとともにトレーラーハウスに暮らし、ライブハウスをめぐるヘビメタドラマーのルーベンは、ある日を境に耳がほとんど聞こえない状態に。病院を受診した結果、回復の見込みはないと告知されます。インプラントの補聴器という選択もあるが高額なうえ、得られる聴力も完全なものではないと知り絶望します。

ろう者として生きることを勧められ滞在型のコミュニティに参加するルーベン。外界との交流を絶ち、生活を変えることが求められるなか、はじめは誰ともコミュニケーションが取れなかったルーベンも手話を覚え、ろう者としての生活に馴染んでいきます。

が、どうしても元の暮らしが忘れられず、トレーラーハウスに積んだ音楽機材を売り、インプラント手術を受けることを決意します。がー。

評)感傷的になりすぎない「葛藤」と「助け合い」の描写

冒頭の騒々しいライブシーンから、主人公ルーベンとともに徐々に音を失っていく映画の世界。聴力を失った状況や終盤インプラント手術で獲得した聞こえ方の再現は、この映画の最大の見どころでしょう。

が、それだけではありません。聞こえない世界に陥ったルーベンの心の葛藤。それを演じるリズ・アーメッドが素晴らしい(個人的にはオスカーもありかと思ったほど)。

ドラマーのルーベンにとって聴力を失うことは、音楽という生業や恋人との生活そのものを失うこと。「ろう者として生きる」「新しい生き方を」と言われても、すんなり受け入れられることではありません。

孤独や不安で自暴自棄すれすれの状態になるルーベンと、それを支えるジョー他、コミュニティのメンバーたちとの関りの描き方も新鮮です。普通ならもっと人情的、感傷的になりそうな「助け合い」を、この映画は極めてドライにフラットに描いています。恋人ルーとの再会もあえてドラマチックにせず、どこか微妙な空気さえ漂わせています。ルーとフランス人パパとのデュエットが……。

絶望からの再生というにはまだまだ途上のルーベン。その選択の是非や、はたして音のない世界が本当に”静寂”なのかはわかりません。が、ルーベンはちゃんとスタートラインに立ったことをあのラストの表情は物語っているのでしょう。

映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』ぜひ。


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