どうかこの感想のことは忘れてー、 『民宿雪国』樋口毅宏
2024年5月8日
先日読んだ『民宿雪国』について。感想というか、困った気持ちを書くしかない。
いつのころからかチョイチョイおすすめに上がってきたこの本。とりあえず買って、例のごとく積んで数か月。昭和の話か?「雪国」なだけに川端康成的な、いや吉幾三的な……、ってな具合なのになぜか読み始めてしまった。
面白い。結果GW某日の午後、一気読みしてしまった。
ザックリとしたあらすじは、ウラスジ(裏表紙のあらすじです)を引用します。
短いプロローグに続く第1話「吉良が来た後」
ここでとにかくビックリした。『民宿雪国』というタイトルからおよそ想像のつかないバイオレンス。
続いて別の主人公による第2話「ハート・オブ・ダークネス」、民宿雪国で働いていた人物の証言の第3話と進み、第4話で丹生雄武郎の生涯が第2話の主人公矢島博美の書く『借り物の人生――丹生雄武郎正伝』によって明らかになるという趣向を凝らした構成。
エンタメ小説がいつの間にかノンフィクションに変わっていく。いや、これはフィクションで丹生雄武郎というのも架空の人物なのだが、ウラスジにあるとおり、昭和の有名な事件や人物が登場するのでもしや、と思って”丹生雄武郎”検索してしまった。
その丹生雄武郎がなぜ嘘まみれの人生を送ることになったのかー(ネタバレしません)。
架空の人物の伝記に史実が絡む仕立ては全く目新しいものではない。
前に読んだ『ジュリアン・バトラー真実の生涯』や『窓から逃げた100歳老人』もそう。
比べられるものじゃないけれど、これらの小説とこの『民宿雪国』の読後感の違いに戸惑っている。
『ジュリアン・バトラーのー』は、読み終えるころにジュリアンロスになりそうな気分だった。架空であることをわかったうえで「これが真実だ」と信じたくなる前向きな充実感に浸れた。
ところが本作は違う。「こんなのフィクションに決まってるやん」切り捨てたくなる一方で、いや、そうとも言えん……、と部分部分が真実味をもって迫ってくる。いや、困ったな。
で、ホントの困りごとはこれ、文庫巻末にある2編の対談。
練りに練られた構成なのでてっきりココまでが『民宿雪国』の本体かと思いきや、そうじゃない。2編とも雑誌の対談でこの小説の裏話的なもの。
この小説に何を込めたのか、とか元ネタ、モチーフについても語られていてちょっとゲンナリした。特に『映画秘宝』での町山智浩さんとの対談では、町山さんの元ネタ知識披露がキツイ。本編を読んで自分なりにいろいろ考えたことさえバカにされている気分になった。
気づきませんでしたよ。「吉良は来た後」って「Key Largo」 映画『キー・ラーゴ』(1948年)なんですってね。ハイハイ。
この小説をこれから読もうかな、と思う方は、この私の困った感想のことは一切忘れて、川端康成的な?吉幾三的な?な気持ちで読むことを強くおすすめします。
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