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『イン・マイ・ライフ』 吉本由美 あの頃も、これからも憧れの人

10代の頃に見ていた『オリーブ』や『アンアン』。おしゃれで可愛くてセンスが良いインテリアや雑貨たち。その世界(誌面)を作っていたのがインテリア・スタイリスト吉本由美さんです。

『イン・マイ・ライフ』は、その当時の話と2011年に3月に熊本に移り住んでからの日常が綴られたエッセイです。

『イン・マイ・ライフ』の内容紹介

年をとるって、かくも愉しく忙しい——。スタイリストとして70~80's『アンアン』『オリーブ』『クロワッサン』の草創期を駆け抜けた半生と、熊本ではじめた62歳からの仕事と暮らし。映画と雑誌が大好き、夢は自分好みの部屋に暮らすこと——。18歳で始めた東京暮らし。初めて就職した『スクリーン』編集部での映画三昧の毎日。憧れの大橋歩さんのアシスタントを経て、『アンアン』の編集見習いに。そして流行発信の最前線でインテリア・スタイリストの草分けとして目まぐるしく駆け巡った日々……。人生ってなんだか偶然と突然の連続。還暦過ぎて地方暮らしを思い立ち、熊本へ帰郷。転がり着いたこの地で新しい仕事もいざ始動。猫の世話、庭仕事も忙しい。73歳となった一人暮らしの達人が、人生折々に見つけた〝年をとる愉しみ〟について綴るエッセー。

亜紀書房HPより

評)あの頃も、これからも憧れの人


1948年生まれの吉本由美さん。もうそんなお年なのかと驚いたものの、『オリーブ』や『アンアン』を読みまくっていた私も50歳を超えているのだからそうだよな、とあらためて時の流れを感じました。

本書の前半は吉本さんがインテリア・スタイリストになる前の子供時代から始まります。当時から興味の中心は「部屋」のこと。

やがて、あの『セツ・モード・セミナー』に通い始め長い東京生活が始まります。映画雑誌『スクリーン』の編集部を経て、『オリーブ』や『アンアン』で活躍するようになる吉本さん。

学生運動が盛んだった時代のサブカル界隈の話は、中野翠さんの著書『コラムニストになりたかった』でも読んだことがありましたが、このお二人には同じ仕事に携わるという接点もあったよう。中野さんは『コラムニストに―』の中で吉本さんについてこう記されています。

この年だったか翌年だったか、(三宅)菊子さんは講談社の『若い女性』の別冊フロクの一冊全部を請け負ったので、急遽、フリーのライターやスタイリストが駆り集められた。(中略)ライターは菊子さん、私、スタイリストは吉本由美さん(すでに『アンアン』でスタイリスト兼イラストレーター兼ライターとして誌面に登場していた。色白美少女風。私は「実物、やっぱりかわいい。、オッシャレ―」と感動)。

『コラムニストになりたかった』より

そうそう!本書にはその当時のお写真がちょっとだけ掲載されているのですが、当時、時々誌面に登場する吉本さんはホントにキュートで可愛らしくて、「都会の人は違うな」とひどく憧れたことを思い出します。もちろん吉本さんが熊本のご出身とは知らずにー。

理想の暮らしを求めて住まいを転々としたこと、そのなかで猫たちと出会ったこと、仕事のペース、スタイルも変化し文筆活動にシフトしたこと、両親の遠距離介護、いつまで東京で暮らすのだろうという思い、引っ越しを決めた直後に起こった東日本大震災。知らず知らずのうちに自分のこれまでと重ね合わせて読んでいました。

画像:Pixabay

そして、本書の後半は故郷の熊本に移られてからの暮らし。

両親を見送り、引き継いだ実家と庭、そして東京から連れてきた猫と新しく迎えた猫。その世話に追われながら、長年再開できなかったチェロ(名付けて”ヒルデガルド”)の練習に励む吉本さん。70代のその日常は微笑ましく、穏やかで、でもちゃんと現実的で、あの頃とはまた別の憧れを抱きました。

熊本で「橙書店」の田尻久子さんとの縁ができ、そこから生まれた本書『イン・マイ・ライフ』

私もこんな風に歳を重ねたい、と思う1冊です。


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